さて何を語ろうか、おゝ君よ、未知の涯から
この孤独の国へやってきて、
繁った葉叢の宵闇に、
静かな憩いを求める君よ、
いまこの時、君のために、歌を歌いながら
しとやかな君の妹たちがすっくと立ち上がる。
親愛なる魂よ、闇の奥から現れた
シバの女王のような君よ、
暗く輝く栄光の中に、
姿は見えずとも、たしかに君はそこにいる、
そしてその手が優しく戸を叩く。
その手が
ダイヤモンドの煌きを放ちなが . . . 本文を読む
ひらひらと舞う可愛い毛
聖母マリアの糸遊よ
おまえの住みかは澄んだ空
おまえの行く手は広い道
果物畑に舞い降りろ
川面や土手を飛んでゆけ
ひらひらと舞う可愛い毛
聖母マリアの糸遊よ
小さい山羊や羊飼い
まっすぐ立ったポプラの樹
古いお城に古い宿
おまえが飛べばみな笑顔
ひらひらと舞う可愛い毛 . . . 本文を読む
穢れなく 健やかにして 麗はしき けふのよき日よ
わがために 酔ひし翼の ひと打ちに 砕かばくだけ
ひと知らで かたく凍りし みづうみに 霧氷降りしき
遁れざる 羽がきのあとの 透き見ゆる その氷をぞ
いにしへの 白鳥なりし おのが身の けざやかなれど
望みなく 身を放たむと 羽がきしを 思ひ出づれば
そは冬の 憂ひにひそむ かがやきを わが世の春と
こころえで 住める都を 歌はざる ゆゑにも . . . 本文を読む
美(は)しき爪もて高々とオニクスを捧ぐがごとく
今宵、松明の明りもて「苦悶」の奉じきたりし
あまたのゆふべの夢はフェニクスに焼かれ
漠たる房内(へやぬち)の卓上には
その灰を納むる骨壷もなく、プチクスてふ
空虚(うつろ)に音(ね)をこめし廃物の骨董もなし
(「主(ぬし)」は「虚無」の誇りなるこの品ひとつかかへ
スチクスへ涙を汲みにゆきたれば)
ただ北面せる窓の虚空に金色(こんじき)に輝くもの . . . 本文を読む
私はつねに侵入すべき存在を物色している(アンリ・ミショー)
私はあなたのところまで降りていって、長いことあなたを抱きしめる。けれどもあなたの態度はちっとも変らない。何の変哲もないわざくれ。
そこで私は遊びを転倒させる方法をあなたに見せ、《私だけが》その秘密を握っている無尽蔵の三角形のなかにあなたを導きいれる。
あなたが夢想だにしなかった発見に、獣のように吼えたけらせて . . . 本文を読む
友誼と欽仰と以てマルセル・シュオブにささぐ
わが室の小ぐらい隅に、沈黙の世にも美しいスフィンクス、わが空想の想(カンガ)へるよりも長い間、移りゆく幽暗のなかで儂(ワシ)を見詰めた。
犯しがたく不動にして、スフィンクスは立上らない、動かない、銀いろの月光も彼女(カレ)にとつては何んでもない、また眩暉(メクル)めく日光とても何んでもない。
灰白(ハイジロ . . . 本文を読む
(「有名な『詩人列伝』でIbidも言っているように……」──ある生徒の作文)
Ibid(イビッド)なる人物が『詩人列伝』を書いたと思い込んでいる人は少なくない。相当に教育を受けた者の中にもそういう心得違いをする人はいる。だからここでひとつそんな考えを矯め直してやろうと思う。Cf.がこの件にからんでいることは周知であろう。しかるに、イビッドの真の傑作は有名なOp.Cit.なので、このOp.Ci . . . 本文を読む
重苦しい雲みたいにのしかかる裸の女にも何とも答えない
あんたの下半身は玄武岩や溶岩で固まってしまってるの
従順な呼びかけにもうんともすんともいわない
答えようにもあんたの吻管みたいな器官はすでに力を失ってるのよ
なんていう墓場じみた難破船でしょう(あんたも
そのことはわかってる、泡のような涎をたらすあんたは)
漂着物のうちでもいっとうのしろもの
むきだしのマストをあんたは見捨ててしまったのね
. . . 本文を読む
ねえ、この蚤を見てちょうだい、そうすればきっとわかるわ、、
あなたが私に拒んでるものがどんなにちっぽけなものかということが。
虫はまず私の血を吸い、それからあなたの血を吸った、
するとこの蚤のなかには二人の血が混ざり合ってることになるわね。
これが罪だとか、恥辱だとか、
ましてや処女喪失だなんていえると思う?
この虫は口説きもせずに楽しんでるのよ、
二人の血をたらふく飲んで一つにし、それで . . . 本文を読む
私、町の騒音を遁れて、ぶらぶら歩いていたの、
そしたら市門のところ、市の死体置場のところで、
変なものが見えたのでぎょっとして立ち止まったわ──だってそこには捨てられた哀れな娼婦の死骸が転がっていたんですもの。
死骸は無造作に置かれて──じめじめした甃石の上に横たわっていたわ。
神々しい女の、その体──私はそれを──ただその「体」だけを見つめていた、
かつては情熱と美にあふれていたその家──そのこ . . . 本文を読む