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ワレリアン・ボロヴズィック「悪魔の解剖学」

ゴムと、焼いた肉との匂いがオラフの嗅覚を刺激する。彼の鼻は黄ばんだ、染みだらけの分厚い封筒のざらざらした面に触れ、鼻の穴は匂いを吸いこんで大きくふくらむ。

この郵便配達夫は町の子供たちに「ねずみのしっぽ」と渾名されている男で、それというのも彼は白樺の樹皮でこしらえたタバコ入れをもっていて、その蓋を持ち上げる細い皮ひもがねずみのしっぽに似ているからだが、とまれこの男は、司祭さんに宛てられた手紙を手にしてあれこれ吟味し、司祭館の扉の下に不規則なかたちに開けられた隙間から、なかなかそいつをすべりこませようとしない。

地面と開き扉とのあいだのいちばん狭いところに手紙を押しこもうとした瞬間、短いしゃがれた叫び声が聞こえ、「ねずみのしっぽ」ことオラフをぎくりとさせる。疑う余地はない。その声は郵便物のなかから聞こえてきたのだ。

オラフは自分の指をながめる。人差指と親指とから血が出ている。おそらく封筒のなかになにか生き物が隠れていて、そいつが咬んだのだという考えが、気丈な配達夫をたじたじとさせる。ふた筋の血が彼の右手に流れる。オラフはその血を吸い取ろうと口を開けて指をもっていく。これはまむしの咬み傷の専門家であるリュバン先生の勧めに従ったのである。そのとたんに彼は、かつて兵役をつとめていたころ、リュバン大尉が彼や彼の仲間に、若い応集兵と売春婦との関係について、貴重な訓戒を与えたことをも思い出す。

オラフの手が口に届かぬうち、彼の追憶がしまいまで行きつかない前に、いきなり目の前の門が開かれる。

「待ちなされ、オラフさん」と司祭が息せき切っていう、「そんなことをしたら死んでしまいますぞ、そいつはサタンの毒です。ベルゼブルがあんたを咬んだのですぞ」

「ねずみのしっぽ」ことオラフは動揺して身震いする。

「さよう、わが息子よ」と司祭はつづけていう、「あんたがこの手紙に入れて私のところへよこしたのは悪魔です。ほれ、このとおり」

司祭は折り目にナイフをあててさっと切り開き、それをさかさまにして、開いた口を地面に向ける……が、切り裂かれた封筒からはなにも落ちてこない。

「ねずみのしっぽ」オラフはほっと胸をなでおろし、深く一息つく。

「やれやれ、ありがたい」と配達夫は本能的にいって、タバコ入れを取り出す。それから箱をあけて、タバコをひとつまみ、たっぷりと味わう。司祭はなおも疑い深く封筒のなかに手を入れ、もう一度あらためて確認する……封筒はたしかに空である。

「しかし、私は思うのだが」と司祭は声低くつぶやく……

オラフのぶっ放したとほうもないくしゃみが、状況をいっきょに地上的な次元に引き戻す。

「ねずみのしっぽ」こと配達夫のオラフはあわれにも気づいていないが、彼がつまんだタバコには、彼の指の血とまじりあった地獄の毒が含まれていた。しかし、タバコをタバコ入れからつまみだすには、指を使うよりほかないではないか。

この話は、天使の性に関する論争の誕生以来、人類をむしばんできた、緩慢で並行的な設問を不可避的に思い出させる。すなわち悪魔の解剖学である。われわれが見たように、悪魔はひどく窮屈な状態でも地上にあらわれる。いったい此奴はどのような造作(つくり)なのだろうか。

悪魔はしっぽを前につけているのか、後ろにつけているのか。

思うに、悪魔のしっぽは体の前の部分についているにちがいない。私はしっぽを後ろにつけた悪魔を見たことがないのだ。

あなたはそんな悪魔をご覧になったことがありますか?
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