10月になり涼しくなったので、以前から一度たどりたかったルートで近江を訪ねました。名古屋から、JR関西線で亀山・柘植まで行き、そこから同じくJR草津線で貴生川、そこで近江鉄道で彦根、帰りはJR東海道線で名古屋まで(大垣と桑名を近鉄養老線を使えば、このルートの完成度はもっと増すかも知れません)、すべて普通料金(快速はあります)でした。愛知、三重、滋賀、岐阜を鈴鹿山塊の周りを一周する形の鈍行の旅で、一般にはあまりポピュラーではないコースでしたが、意外に味わい深く、安くて快適な旅でした。JR東海、JR西日本、近鉄、近江鉄道など提携して企画キャンペーンなど張ると、案外ブレークするかも知れません。人間、既存の境界に縛られがちですが、こんなマージナル(周縁的)な、あるいは境界侵犯的?な(おおげさ・・)コースを訪ねる旅から、何か新しい発見があるかも知れませんね。
JR草津線で柘植をでると次の駅は「あぶらひ」(油日)です。ここには甲賀の総鎮守の油日神社がありました。白洲正子が「かくれ里」に書いていたので、この機会に訪ねて見ました。境内には人っ子一人いませんでしたが、美しい静謐な空間の社殿で、地域の人々の時代を超えたしずかな信仰の力を感じました。本来は大和の三輪山と同じく油日岳を神南備山とする自然信仰だったようで、確かに油日岳はピラミッド型の秀麗な姿で、地域のランドマークになっていました。またこの社は、油の神様でも有名だそうで、全国の油関係の仕事の方が奉納された一斗缶が一杯境内にあったのには驚きました。白洲正子氏によれば、この神社所蔵の神事の祭具、「福太夫面」や「ずずい子」なども、大変興味深いものでしたが、これにお目にかかるのは、次のお楽しみとする事にしました。
次は、貴生川で近江鉄道に乗り換え、水口へ行きました。ここにある水口城(碧水城)は、二条城、丹波篠山城など並んで、城の形式としては大変完成されたものだそうで、三代将軍家光の上洛の折の宿舎になった小堀遠州の作になる大変立派な本丸御殿があったそう です。また町中には曳山を入れた蔵や、近江兄弟社で有名なヴォーリスの設計した図書館や教会などもよく保存され「民度」の高さを、伺い知る事ができました。
次はまた近江鉄道で日野です。。ここは近江八幡、五個荘などと並んで、近江商人発祥の地として有名です。駅前でレンタ・サイクルを借りて、爽やかな秋の日のサイクリングを楽しみました。最初に、今回の旅のメインテーマの近江商人をたずねて近江日野商人館(中山兵右衛門邸)に行きました。ガイドの方が、付きっきりマンツーマンで説明して下さり、楽しい一時でした。ここでこの記事のタイトルの、 現代にも通じる日野商人の経営哲学・山中兵右衛門家の家憲を見る事ができました。10項目の簡潔なものですが、昨今のいろいろな企業人の不始末を思うにつけ、身につまされることの多い金言集でした。いただいたリーフレットから現代語訳の部分をご紹介します。
- 「役職を利用して私生活で威張るような人間にはならない」という慎みの心を、日常の心がけとせよ。社会に役立つことを密かに実行せよ。
- 先祖様のお陰だという慎み深い気持ちを忘れるな。
- 不誠実なことは慎め。
- 最も良い商品を選び、お客様に売れ。不正な商品、粗末な商品を売るな。多く儲けることは慎め。
- お客様への商品は、真心を第一とせよ。
- 小さなお客様こそ、かえって大切にせよ。
- 見栄をはるような派手な商いをするな。商いはこつこつとやれ。
- 決して投機的な相場に手をだすな。
- 商売替えをするな。
- 従業員をかわいがれ。がんばっている者は必ず誉めてやれ。
以上です。よくいわれる近江商人の三方よし(売手よし、買手よし、世間よし)プラスアロファですが、どうでしょうか。昨今の勝ち組への道を急ぐあまり道を踏み外したり、製品偽装や製品欠陥への対応などで顧客の信頼を失った企業人には、耳の痛い言葉が多いですね。永く持続する企業、商売には、しっかりした経営哲学、人間観があるのだということが、よくわかります。またこの町は、戦国の武将蒲生氏郷の出身地で、氏郷はここから伊勢松阪、会津に出世転封され大大名になってい ます。伊勢商人や会津塗もルーツをたどれば、この日野だそうで、そこに戦国の沸き立つようなエネルギーを感じました。町中には、利休七哲に数えられるような茶人でもあった氏郷も汲んだという若草清水という泉などあって、この日野は、また来たい( 特に日野菜漬けが旨い頃に )町になりました。
旅の最後は、彦根でした。彦根では今年の春からこの秋にかけて彦根城築城400年を記念する行事が開催されており、また世界遺産への登 録の活動も頑張っているようです。姫路城は城本体、鎌倉は武家の都(運動中)。ここ彦根は、城を含めた城下町全体(城下町の全体構成をよくとどめている。)が登録対象だそうで、なるほど、町中には職人町、足軽組屋敷町、仏壇や各職式の集まった界隈など、城下町の構成要素がよく残っていました。あいにく、見たかった佐和山城一夜城は九月前半だったので見られませんでしたが、 夜市内の河原町(袋町とも言うらしい。船橋聖一の花の生涯に出てくる)のバーで地元の方々と面白い議論をすることができました。明くる日朝、家への土産の琵琶湖の魚介の加工品などを買い、築城400年のマスコット「ひこにゃん」のフィギアーを記念に一つ買って家路につきました。
参考サイト:ぐるっと滋賀 東近江スタンプラリー