今日は、人間評価の方法論をご紹介します。城野宏さんという方が書かれた『東西古今人間学』(竹井出版)という本――随分古いもので1985年発行――ですが、そのなかで、人間評価の方法論という章があります。当時私は、面白いなと思って読んでおりました。こういう考え方もあるんだということで、私の見解を加えつつご紹介いたしましょう。
「人間を判断する五つの基準」
城野さんによると、「理論を持っている人かどうか」が、人間を評価する最初のポイントだそうです。
理論をもっているから戦略が立てられ、人に呼びかけられるのだそうです。ただ、この場合の理論というのがどういうものか、正直言って、あまり明確には書いてありません。
例として、城野さんはこんな言い方をされています。
ある社長が大儲けしたから、その人を呼んで話を聞き、経験を学べばいいかというと、そうはうまい具合にはいかない。
よく教育研修でそういう人を呼んで話をしてもらいますが、いざ自分の会社で行おうとしても、条件が違うから、同じことをしてもうまくいかない。その原因は、その人の話には普遍性がないから、うまくいかないのだそうです。
特殊性と普遍性を見分けることが大事で、大勢の人に呼びかけるときは、普遍性に基づく理論、戦略がないといけない。そういう理論を持って行動している人物かどうか見極めることが重要である、と城野さんは言ってます。
これは大ごとですよ。城野さんの言うような理論をもっている人なんか、いったいどれだけいるものでしょうかね。
また、このことを裏返せば、人の話を聞くときは、その話がどういう特殊性のもとで成り立っているかを把握できる能力が、こちらにないといけない、ということになりますね。
理論を持つ方法論については、私は以前から何度も取り上げています。秋山真之の勉強法なのですが、重要ですのであえてまた取り上げます。
日露戦争において、日本海軍がバルチック艦隊を壊滅させたのは、あまりにも有名な話ですが、この海戦の作戦を一人でたてたのが秋山真之(さねゆき)です。
秋山の名を知らなくとも、彼が起草した日本海海戦の電文、「本日天気晴朗ナレドモ浪高シ」を知っている人は多いでしょう。
秋山真之の思考訓練法は、リーダーシップを養成するうえで、たいへん参考になります。これは、司馬遼太郎『坂の上の雲(二)』に出ていたものですが、私はわが意を得たりと、納得させられました。
秋山はアメリカ留学時に、マハン大佐から作戦研究の方法を習ったのだそうです。マハンが言うには、
――過去の戦史から実例をひきだして徹底的に調べることである。近世や近代だけでなく古代もやる方がいい。戦いの原理に今も昔もない。
――陸と海の区別すらない。陸戦を知ることによって海戦の原理もわかり、陸戦の法則や教訓を海戦に応用することもできる。
――その他雑多の記録も読む必要がある。
そして、ここからがいちばん重要なポイントです。
――それらから得た知識を分解し、自分で編成しなおし、自分で自分なりの原理原則をうちたてること。自分でたてた原理原則のみが応用のきくものである。(これが城野さんの言う理論にあたると私は思っています)。
この最後のところこそ、私が言いたかったことです。
試行錯誤を経て、自分なりの原理原則を打ち立てる。それが自分の血となり肉となる。『リーダー感覚』のなかでも私は言っておりますが、ハウツー物を読むだけではダメだ、自分で実践(人をほめる練習を繰り返すこと)をしなければダメだと、私が口を酸っぱくして言うのは、このためなのです。
それから、題材は広く集めること。ビジネスマンの経済行動といったところで、しょせんは人間行動の一部です。ですから、私自身は、テーマを、スポーツ、文学、そのほかの非経済活動の場面などから拾うようにしています。
視野をビジネスに限らず、少し広めにした方がいいと、私は思っています。人をほめる訓練にしても、相手をビジネスマンだけでなく、家族や友人など、できるだけいろいろなタイプの人にやってみるといいのです。
日経新聞の『私の履歴書』を読むと、財界人の話は常識的なことばかりで、ちっとも面白くないのですが、芸術家の話なんか破天荒で本当に愉快です。そういうのも無駄にはならない。「無用の用」ということなんですね。これは荘子だったかな。(つづく)
「人間を判断する五つの基準」
城野さんによると、「理論を持っている人かどうか」が、人間を評価する最初のポイントだそうです。
理論をもっているから戦略が立てられ、人に呼びかけられるのだそうです。ただ、この場合の理論というのがどういうものか、正直言って、あまり明確には書いてありません。
例として、城野さんはこんな言い方をされています。
ある社長が大儲けしたから、その人を呼んで話を聞き、経験を学べばいいかというと、そうはうまい具合にはいかない。
よく教育研修でそういう人を呼んで話をしてもらいますが、いざ自分の会社で行おうとしても、条件が違うから、同じことをしてもうまくいかない。その原因は、その人の話には普遍性がないから、うまくいかないのだそうです。
特殊性と普遍性を見分けることが大事で、大勢の人に呼びかけるときは、普遍性に基づく理論、戦略がないといけない。そういう理論を持って行動している人物かどうか見極めることが重要である、と城野さんは言ってます。
これは大ごとですよ。城野さんの言うような理論をもっている人なんか、いったいどれだけいるものでしょうかね。
また、このことを裏返せば、人の話を聞くときは、その話がどういう特殊性のもとで成り立っているかを把握できる能力が、こちらにないといけない、ということになりますね。
理論を持つ方法論については、私は以前から何度も取り上げています。秋山真之の勉強法なのですが、重要ですのであえてまた取り上げます。
日露戦争において、日本海軍がバルチック艦隊を壊滅させたのは、あまりにも有名な話ですが、この海戦の作戦を一人でたてたのが秋山真之(さねゆき)です。
秋山の名を知らなくとも、彼が起草した日本海海戦の電文、「本日天気晴朗ナレドモ浪高シ」を知っている人は多いでしょう。
秋山真之の思考訓練法は、リーダーシップを養成するうえで、たいへん参考になります。これは、司馬遼太郎『坂の上の雲(二)』に出ていたものですが、私はわが意を得たりと、納得させられました。
秋山はアメリカ留学時に、マハン大佐から作戦研究の方法を習ったのだそうです。マハンが言うには、
――過去の戦史から実例をひきだして徹底的に調べることである。近世や近代だけでなく古代もやる方がいい。戦いの原理に今も昔もない。
――陸と海の区別すらない。陸戦を知ることによって海戦の原理もわかり、陸戦の法則や教訓を海戦に応用することもできる。
――その他雑多の記録も読む必要がある。
そして、ここからがいちばん重要なポイントです。
――それらから得た知識を分解し、自分で編成しなおし、自分で自分なりの原理原則をうちたてること。自分でたてた原理原則のみが応用のきくものである。(これが城野さんの言う理論にあたると私は思っています)。
この最後のところこそ、私が言いたかったことです。
試行錯誤を経て、自分なりの原理原則を打ち立てる。それが自分の血となり肉となる。『リーダー感覚』のなかでも私は言っておりますが、ハウツー物を読むだけではダメだ、自分で実践(人をほめる練習を繰り返すこと)をしなければダメだと、私が口を酸っぱくして言うのは、このためなのです。
それから、題材は広く集めること。ビジネスマンの経済行動といったところで、しょせんは人間行動の一部です。ですから、私自身は、テーマを、スポーツ、文学、そのほかの非経済活動の場面などから拾うようにしています。
視野をビジネスに限らず、少し広めにした方がいいと、私は思っています。人をほめる訓練にしても、相手をビジネスマンだけでなく、家族や友人など、できるだけいろいろなタイプの人にやってみるといいのです。
日経新聞の『私の履歴書』を読むと、財界人の話は常識的なことばかりで、ちっとも面白くないのですが、芸術家の話なんか破天荒で本当に愉快です。そういうのも無駄にはならない。「無用の用」ということなんですね。これは荘子だったかな。(つづく)