帯とけの古今和歌集

鶴のよわいを賜ったというおうなの古今伝授。鎌倉時代に秘伝となって埋もれた和歌の艶なる情がよみがえる。

帯とけの古今和歌集 巻第八 離別歌 397~399

2009-05-26 07:28:55 | 和歌
  



  貫之の別れの歌と兼覧王の返し歌、躬恒の別れの挨拶の歌の心におかしきところを、言の心で聞きましょう。併せて、伊勢物語の業平の別れの挨拶の歌、どのような匂いが残っているのでしょう。


  古今和歌集 巻第八 離別歌
       397~399


397

 かむなりのつぼにめしたりける日、おほみきなどたうべて、あめのいたくふりければ、ゆふさりまで侍りて、まかりいでけるをりに、さか月をとりて、
               貫 之
 秋はぎの花をば雨にぬらせども 君をばましてをしとこそおもへ  

 雷の壺にお召しになった日、御酒など与えられ、雨がたいそう降ったので夕方までおそばに控えて居て、退出した折りに、さかづきをとって詠んだ歌
 秋萩の花を雨に濡らし惜しいけれども、それにも増して、君をなごり惜しく思います……飽き端木のお花をば、お雨に濡らしても、それでも君を、増して愛しいとさかつきは思う。 
 かみ泣きのつぼに召された日、おおみきなど飲まれて、なみだ雨などたいそう降ったので、果て方まで侍りて退出する折、逆つきを手にもって

 「かむなり…神鳴り…雷…かみ泣き」「たうぶ…与える…飲む」「あめ…雨…涙雨…すっかり涙腺ゆるむ」「さか月…杯…逆つき…女」「つき…月…月人壮士…おとこ」。「秋…飽き」「萩…端木…おとこ」「はな…花…端…おとこ花」「をし…惜しい…愛しい」。



398
 とよめりける返し
                兼覧王
 をしむらん人の心をしらぬまに 秋のしぐれと身ぞふりにける

 と詠んだ歌のお返し
 惜しむであろう人の心を知らぬ間に、秋の時雨とともに、わが身にも涙降ったなあ……愛しと思うひとの心を知らぬ間に、飽きのしぐれのお雨となって、身ふり果てたよ。

 「をしむ…惜しむ…愛しと思う」「らむ…だろう…とかいう…婉曲な表現」「人…男…女」「秋…飽き」「しぐれ…時雨…その時のおとこ雨」「と…とともに…となって」「ふる…古る…盛り過ぎる…降る」。

 上二首。雨に寄せて、酒飲み談笑し涙を流し、別れ際に、ひとの立場で君を愛で申し上げた歌と、その返歌。



399
 かねみのおほきみにはじめてものがたりして別れける時によめる
                躬 恒
 わかるれどうれしくもあるかこよひより あひみぬさきになにをこひまし

 兼覧王に初めてお話をして、別れたときに詠んだ歌
 別れるけれど嬉しくもある、今宵よりお逢いせぬ前に、つぎは何の話を乞おうかなと……別れても嬉しくもあるよ、こ好いにより、合い見ない前に、ひとは何を乞うかなと。
 兼覧王におかれては、初めてものの話をされて、別れたときに詠んだ

 「に…にたいして…対象を示す…におかれても…主語であることを示す」「ものがたりして…物語して…ものの話をして」。「こよひ…今宵…子好い…子酔い」「こ…子…おとこ」「見ぬ…覯せぬ」「こひ…乞い」「まし…したものだろうか…ためらいの意を表わす…もし何なら何々だろう…事実ではないことを仮想して推量する意を表わす」。

 上一首。もの語りに寄せて、兼覧王のお話に唱和した歌。



  業平の別れの挨拶の歌

  兼覧王は、在原業平や紀有常がお仕えした惟嵩親王の王子。

 伊勢物語83によれば、惟嵩親王は、山崎の向こう水無瀬の離宮に、年毎の桜の花ざかりには通って行かれ、交野にて狩もされていたが、あるとき、いつもと様子が違っておられた。歌の返しもされず、眠れないご様子で夜を明かされた。

 そうするうちに、思いがけず、御髪をおろされたのだった。

 正月に、庵のある小野という所に参上すると、比叡の麓なので雪がとっても高く積もっていた。むかしのことなど思い出しては、お話申し上げ、名残惜しかったけれど公の仕事もあって、夕暮れに帰るということで、
 忘れては夢かとぞ思ふおもひきや ゆきふみわけて君を見むとは
と詠んで、泣く泣くさがって来たのだった。

 うつつとはふと忘れて、これは夢かと思う、思ったでしょうか雪踏み分けて君にお目にかかろうとは……うつつとはふと忘れて、これは夢かと思う、思ったでしょうか、積もり積もったおとこ白ゆき踏み分けて、君にお目にかかろうとは。

 「ゆき…雪…白ゆき…おとこの情念…白逝き…おとこの残念」。

          伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
          聞書 かき人しらず