帯とけの古今和歌集

鶴のよわいを賜ったというおうなの古今伝授。鎌倉時代に秘伝となって埋もれた和歌の艶なる情がよみがえる。

帯とけの古今和歌集 巻第八 離別歌 365~367

2009-05-12 07:01:02 | 和歌

  


  在原行平の別れ歌。併せて、俊成の批評を聞きましょう。また、よみ人しらずの女と男の別れ歌。これらには、どのような心におかしきところがあるでしょう。


  今和歌集 巻第八 離別歌
       365~367


365
 題しらず
            在原行平朝臣
 立ちわかれいなばの山の峯におふる 松としきかば今かへりこむ

 立ち別れ往なば、因幡の山の峰に生える松、待つとだ聞けば、今にも京へ帰り来るだろう……絶ち別れいなばの山ばの峯に極まるを、ひと待つと聞けば、すぐ返り来るぞ。

 「たち…出立…断ち…絶ち」「いなば…因幡…国の名、戯れる。往なば、逝けば、否ば、否ならば」「山…山ば」「みね…峰…山ばの絶頂…京…宮こ」「おふ…生える…おう…極まる…感極まる」「松…待つ…女」「かへりこむ…帰り来るつもりだ…とって返してくるぞ…よみがえるぞ」「ん…む…意志を表わす」。



 藤原俊成の批評

 俊成は「古来風躰抄 下 別歌」で、「この歌、あまりにもくさりゆきたれど、姿をかしきなり」と評した。

 「たち∞いぬ∞やま∞みね∞おふ∞まつ∞かへり」、このように、浮言綺語の戯れにも似た歌言葉があまりにも「くさり…
腐り…鎖」のように連なっているが、峰に生える松の姿は趣きがある。

 「深い心」「心におかしきところ」については、あえて述べない。「くさり…鎖…腐り」のように連なった言葉のそれぞれの言の心を心得て味わうべきこと。

 上一首。峯の松に寄せて、あえて「くさり」のように言葉を連ね聞きにくくして、色好みな「心におかしきところ」を添えて、下って行くことにつよい抵抗感を示した歌のよう。



366
            よみ人しらず
 すがるなく秋のはぎはらあさたちて たび行く人をいつとかまたん

 腰細の蜂のなく秋の萩原、朝立ちて、旅行く人をいつ帰るかと待つのでしょうか……腰細のひと、すがり泣く、飽きの端木はら浅断ちて、たび逝く人を、いつ返るかと待つのでしょうか。

 「すがる…蜂の名、戯れる。容姿の綺麗な女、万葉集では、飛翔・腰細・すがる娘子・きらきらしき顔などという言葉と共に用いられてある」「なく…鳥や鹿が鳴く…蚊や蜂が羽音をたてる…ひとが泣く」「秋…飽き」「萩…端木…おとこ」「原…山ばではないところ…腹…内心」「朝…浅…薄情」「たび…旅…度…たびたび」「ゆく…行く…逝く」「ん…む…推量を表わす」。女の歌。



367
 かぎりなき雲井のよそにわかるとも 人を心におくらさむやは

 かぎりなく遠い雲の彼方へ別れ行くとも、ひとを心で遅れをとらすかつれて行く……かぎりなき心の雲の、思いのほかに別れても、ひとを心で遅れをとらすか連れて逝く。

 「雲井…雲居…雲のあるところ…煩わしいほど心にわきたつもののあるところ…情欲などあるところ」「よそ…他所…思いの外…よそよそしく」「おくらさむやは…人の心を後に残すだろうか、否…ひとの心を後に残しおのれの心は先にいってしまうだろうか、否」「やは…いや、そんなことは、しない…反語の意を表わす」。男の歌。

 上二首。蜂、雲ゐに寄せて、峯の別れのはかなさを添え、女と男の別れの思いを言いあった。別れの相聞歌。

         伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。

         聞書 かき人しらず