帯とけの古今和歌集

鶴のよわいを賜ったというおうなの古今伝授。鎌倉時代に秘伝となって埋もれた和歌の艶なる情がよみがえる。

帯とけの古今和歌集 巻第八 離別歌 390~391

2009-05-22 07:21:34 | 和歌

   



 貫之、藤原兼輔の別れ歌。心におかしきところを添え人を快くして、送る歌。併せて、「枕草子」の、宮の乳母との別れの御歌を聞いて頂きましょう。


  古今和歌集 巻第八 離別歌
       390~391


390
 藤原のこれをかがむさしのすけにまかりける時に、おくりにあふさかをこゆとてよめる
                貫 之
 かつこえてわかれも行くかあふ坂は 人だのめなる名にこそありけれ

 藤原のこれおかが武蔵の国の介に赴任して行った時に、見送りのために逢坂を越えるということで詠んだ歌
 たちまち越えて、別れて行くのか、逢坂は頼み甲斐のない名であったなあ……たちまち越えて離れてゆくのか、合坂は、頼りない名だったなあ

 「かつ…すぐに…たちまち」「逢坂…関所のあった山坂の名…合坂…和合の山坂…越えれば合う身または京、みやこ」「人だのめ…頼りにさせてその実のない…他人が頼りの頼りなさ」「名…なまえ…名目…虚名」。

 上一首。逢坂に寄せた餞別の歌。ひととおとこの合う山ばのはかなさを、心にをかしきところとして添えた。



391
 おほえのちふるがこしへまかりけるむまのはなむけによめる
            藤原兼輔朝臣
 きみがゆくこしのしら山しらねども 雪のまにまにあとはたづねん

 大江千古が越路へ下って行ったとき餞別に詠んだ歌 
 君が行く越路の白山、知らないけれど、雪の行き跡にしたがって訪ねて行こう……君がゆく越しの白い山ばは、しら根ども
置く白ゆきのままに、跡は尋ねるよ。

 「越の白山…地名と山の名、戯れる」「越…越路…山ば越す」「白山…男山…男の思いが積もった山ば」「白…男の色」「ゆき…行き…雪…おとこ白ゆき…おとこの情念」しらね…知らぬ…白ね」「根…おとこ」「ども…親しみを表わす」「まにまに…に従って…につれて」。

 上一首。越の白山に寄せた、餞別の歌。つもったおとこ白ゆきの跡を尋ねゆくが、心におかしきところ。

 別れの思いにはいろいろあって、まことの惜別もあれば、儀礼の惜別もあり、立つ日も聞きたくないという腹立たしい別れもあった。



  扇にお書きになった別れの御歌

  中宮の御乳母は大夫の位を得ていつまでもお側にお仕えして当然のお方ながら、落日の主家は、いまや望月の道長の威光に抗せるはずもなく、みな人は蝶よ花よといそぎその方に去って行く頃、御乳母の大夫の命婦は日向の国に下って行った。

 宮より給わされる扇の中に、片面には日うららかにさした田舎の舘など多く描いてあって、もう片面は、京のさるべき所で、雨のひどく降るところに、
 あかねさす日に向かひても思ひいでよ みやこははれぬながめすらんと
御手にて、お書きになられる。とってもあわれである。このようなお方を見置きたてまつりてよ、行けるものだろうか。(枕草子223)

 あかねさす日向に向って行っても、思い出してよ、都は晴れぬ長雨してるだろうと……赤ねさす日に向かってもうららかでも思い出してよ、都の宮こは、はれぬ思いに沈んでいると。

 「あふぎ…扇…逢う気…逢いたい」
「あかねさす…枕詞、戯れる。茜さす、赤根さす」「赤…元気色」「根…おとこ」「都…宮こ…ものの極み…感の極み」「ながめ…長雨…もの思いに耽る…もの思いに沈む」。

         伝授 清原のおうな

 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
         聞書 かき人しらず