わかれうた
貫之、躬恒の別れの歌。儀礼の歌にどのような心が添えられてあるのでしょう。併せて、紀貫之「土佐日記」で、新国守と前の国の守が送別の宴で交わした歌を聞きましょう。
古今和歌集 巻第八 離別歌
381~383
381
人をわかれける時によみける
貫 之
わかれてふ事はいろにもあらなくに 心にしみてわびしかるらむ
人と別れた時に詠んだ歌
別れというのは、色ではないのに心に染みて、どうして侘びしいのだろう……離れるという事は、色事ではないのに、心に沁みて侘びしい、どうしてだろう。
ひと、お、わかれた時に詠んだ
「人…女」「人を…人と…ひとから…ひととお」「わかれ…別れ…離れ…合体の分離」。「色…色素…色情」「わびし…心ぼそい…ものさみしい…ものたりなくてつらい」「らむ…推量又は原因理由を推量する意を表わす」。
382
あひしれりける人のこしのくににまかりて、としへて京にまうできて、又かへりける時によめる
凡河内躬恒
かへる山なにぞはありてあるかひは きてもとまらぬなにこそありけれ
知り合いだった人が越の国にくだって行って、年を経て京に帰って参って、又越の国へ帰った時に詠んだ歌
かえる山、名にはあって有効なのは、来ても留まらないで、また帰ることだったのだ……返る山ば、何にがあってか、或る貝は、来ても京には留まらず繰り返す汝ではあったなあ。
合っていたひとの山ば越したせかいにて間かりしていて、はやくも京に上って、又繰り返した時に詠んだ、
「京…けふ…山ばの頂上…絶頂…宮こ」「かへる…帰る…返る…とって返す…繰り返す」。「山…山ば」「なにぞはありて…名にはあって…何かがあってか…何もない、昔から変わらない貝のさが」「かひ…甲裴…効果…貝…女」「な…名…何…汝…女」「けれ…けり…気付き又は詠嘆の意を表わす」。
383
こしのくにへまかりける人によみてつかはしける
よそにのみこひやわたらむしら山の 雪みるべくもあらぬわが身は
越の国へ行った人に詠んで遣った歌
他所でのみ恋しがっているよ、白山の雪、見られそうもないわが身は……よそながら恋しがっているよ、白山ほどのゆき見ることは、できそうにない我が身はなああ。
山ば越すせかいへと間かったひとに詠んでやった、
「越の国…国の名、戯れる。山ば越したせかい」「まかる…下ってゆく…間借りる」「ま…間…女」「人…目下の男…女」。「白山…山の名。男の情念の山、おとこ白ゆきの山」「白…おとこの色」「見る…覯する…合う」「べく…べし…可能性を推定する意を表わす」「ぬ…ず…打消」。
上三首。別れに寄せて詠んだ儀礼の餞別の歌、相手を心地よくさせるおかし味が添えられてある。
酔った国守の別れの歌
惜別でも絶交でもない儀礼の別れの歌は、土佐日記(12月26日)に示されてある。
都からはるばる来た新任の国守が主人で、帰る前の守を客として、守の舘で送別の宴が催された。人々はすでに酔って騒いでいるときに詠んだ。原文と、清げな姿と心にをかしきところを示す。
やまとうた、まず、あるじのかみのよめりける、
みやこいでてきみにあはんとこしものを こしかひもなくわかれぬるかな
となんありければ、かへるさきのかみのよめりける、
しろたへのなみぢをとほくゆきかひて われににべきはたれならなくに
ことひとびとのもありけれど、さかしきもなかるべし。
和歌、先ず、主人の守(あるじのかみ)が詠んだ、
都を出て君に逢おうと来たものを、来たかいもなく別れてしまうのですなあ……宮こ出てしまって、わたしは君に合おうとしてきたのに、来たかいも無く、離れてゆくのね。
とあったので、帰る前の守が詠んだ歌、
白妙の波路を遠く行き交って来て、我に似てるのは、誰でもない君でしょうに……白絶えのな見じを、ほど遠くゆき交って、我に似てるのは、誰でもない君でしょうが。
他の人々のもあったけれど、良さそうなのは無かったようだ。
「かみ…守…上…女」。「みやこ…都…京…山ばの頂…宮こ…感の極み」「あふ…逢う…合う…和合」「しろたへ…白妙…白絶え」「白…おとこの色…果ての色」「なみぢ…波路…な見じ…見ない」「見…覯」「われににべきは…我に似ているに違いないのは…効も無く離れてゆく我と同じにちがいないのは」。
実際の宴席で詠まれる歌は、この程度のものでしょう。その実例か貫之の創作。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず