帯とけの古今和歌集

鶴のよわいを賜ったというおうなの古今伝授。鎌倉時代に秘伝となって埋もれた和歌の艶なる情がよみがえる。

帯とけの古今和歌集 巻第八 離別歌 381~383

2009-05-19 07:10:03 | 和歌

  



 貫之、躬恒の別れの歌。儀礼の歌にどのような心が添えられてあるのでしょう。併せて、紀貫之「土佐日記」で新国守と前の国の守が送別の宴で交わした歌を聞きましょう。


  古今和歌集 巻第八 離別歌
       381~383


381
 人をわかれける時によみける
               貫 之
 わかれてふ事はいろにもあらなくに 心にしみてわびしかるらむ

 人と別れた時に詠んだ歌
 別れというのは、色ではないのに心に染みて、どうして侘びしいのだろう……離れるという事は、色事ではないのに、心に沁みて侘びしい、どうしてだろう。
 ひと、お、わかれた時に詠んだ

 「人…女」「人を…人と…ひとから…ひととお」「わかれ…別れ…離れ…合体の分離」。「色…色素…色情」「わびし…心ぼそい…ものさみしい…ものたりなくてつらい」「らむ…推量又は原因理由を推量する意を表わす」。



382
 あひしれりける人のこしのくににまかりて、としへて京にまうできて、又かへりける時によめる
             凡河内躬恒
 かへる山なにぞはありてあるかひは きてもとまらぬなにこそありけれ

 知り合いだった人が越の国にくだって行って、年を経て京に帰って参って、又越の国へ帰った時に詠んだ歌 
 かえる山、名にはあって有効なのは、来ても留まらないで、また帰ることだったのだ……返る山ば、何にがあってか、或る貝は、来ても京には留まらず繰り返す汝ではあったなあ。
 合っていたひとの山ば越したせかいにて間かりしていて、はやくも京に上って、又繰り返した時に詠んだ、

 「京…けふ…山ばの頂上…絶頂…宮こ」「かへる…帰る…返る…とって返す…繰り返す」。「山…山ば」「なにぞはありて…名にはあって…何かがあってか…何もない、昔から変わらない貝のさが」「かひ…甲裴…効果…貝…女」「な…名…何…汝…女」「けれ…けり…気付き又は詠嘆の意を表わす」。



383
 こしのくにへまかりける人によみてつかはしける
 よそにのみこひやわたらむしら山の 雪みるべくもあらぬわが身は

 越の国へ行った人に詠んで遣った歌
 他所でのみ恋しがっているよ、白山の雪、見られそうもないわが身は……よそながら恋しがっているよ、白山ほどのゆき見ることは、できそうにない我が身はなああ。
 山ば越すせかいへと間かったひとに詠んでやった、

 「越の国…国の名、戯れる。山ば越したせかい」「まかる…下ってゆく…間借りる」「ま…間…女」「人…目下の男…女」。「白山…山の名。男の情念の山、おとこ白ゆきの山」「白…おとこの色」「見る…覯する…合う」「べく…べし…可能性を推定する意を表わす」「ぬ…ず…打消」。

 上三首。別れに寄せて詠んだ儀礼の餞別の歌、相手を心地よくさせるおかし味が添えられてある。



 酔った国守の別れの歌

 惜別でも絶交でもない儀礼の別れの歌は、土佐日記(12月26日)に示されてある。
 都からはるばる来た新任の国守が主人で、帰る前の守を客として、守の舘で送別の宴が催された。人々はすでに酔って騒いでいるときに詠んだ。原文と、清げな姿と心にをかしきところを示す。

 やまとうた、まず、あるじのかみのよめりける、
 みやこいでてきみにあはんとこしものを こしかひもなくわかれぬるかな
 となんありければ、かへるさきのかみのよめりける、
 しろたへのなみぢをとほくゆきかひて われににべきはたれならなくに
 ことひとびとのもありけれど、さかしきもなかるべし。

 和歌、先ず、主人の守(あるじのかみ)が詠んだ、
 都を出て君に逢おうと来たものを、来たかいもなく別れてしまうのですなあ……宮こ出てしまって、わたしは君に合おうとしてきたのに、来たかいも無く、離れてゆくのね。
 とあったので、帰る前の守が詠んだ歌、
 白妙の波路を遠く行き交って来て、我に似てるのは、誰でもない君でしょうに……白絶えのな見じを、ほど遠くゆき交って、我に似てるのは、誰でもない君でしょうが。
 他の人々のもあったけれど、良さそうなのは無かったようだ。

 「かみ…守…上…女」。「みやこ…都…京…山ばの頂…宮こ…感の極み」「あふ…逢う…合う…和合」「しろたへ…白妙…白絶え」「白…おとこの色…果ての色」「なみぢ…波路…な見じ…見ない」「見…覯」「われににべきは…我に似ているに違いないのは…効も無く離れてゆく我と同じにちがいないのは」。

 実際の宴席で詠まれる歌は、この程度のものでしょう。その実例か貫之の創作。

         伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の古今伝授を書き記している。

         聞書 かき人しらず