『原爆前後XXVIII』
思い出集世話人・編/白井秀雄1974年
原爆投下された時、白い輪を見たという人がいる……。
昭和19年にもう、米軍上陸を考えておられたようです。下「」引用。
「昭和十九年七月、新聞には「サイパン島の皇軍、全員戦死」という大本営発表がのった。このぶんでは敵は長崎にも上陸してくるかもしれないというような噂がひろまり、人々は郊外にと疎開していったものである。」
県立高女、動員学徒。下「」引用。
「途中大きな男の人が黒焦げになって、狭い道を転げまわって苦しんで居られます。他にもう一人、道脇の溝に落ち込んで「アイゴー、アイゴー」と泣いているのです。私は恐ろしくてどうすることも出来ず、ようやく通り過ぎました。」
また、朝鮮の人のことが書かれてありました。下「」引用。
「私は第二工場の事務所から第一工場に帰る途中、若い女の人から、「そこに一人、家の下敷きになっているから助けてくれ」と頼まれる。四寸角の柱を差し込んで、二人で持ち上げる。引き出してみると、徴用で来ている半島の人で、「アイゴアイゴ」と言っている。歩くことが出来ない。そこで、通りがかりの人をつかまえて、この人と一緒に行ってくれ、と頼んでみたところ、
「駄目です。私も一人で歩くのがせい一杯だ」
と断わるので、私は、その人のビンタを撲って言ってやった。
「一人で歩けないから、二人では何とかなるだろう。頼む」
二人は肩を組みながら工場から出て行った。」
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女子挺身隊の断末魔……。下「」引用。
「附近一帯は三菱浦上兵器や三菱造船部品工場等の女子挺身隊員が多かったので、特に夜間になると断末魔の声で「おかあさん」「水を」と呼ぶ声がして、今でも耳の奥底によみがえってくるような気がする。」
--犬塚義雄氏(故人)が、三重で海岸を散歩しているとき。
長崎の方角から飛行機の爆音が聞こえ、見る。下「」引用。
「(一)長崎市の上空と思われるところに、水平の小さい輪が見えるのに気付いた。不思議なことだと見ていると、
(二)その輪が次第に大きくなり、その輪が長崎全市を覆ったと思ったとき、
(三)その輪からオーロラのような奇麗な光が地上に向ってさした。それは大きな摺鉢を長崎全市にかぶせた形であった。このオーロラのようなものの色は橙色であった。
(四)この奇麗な擂鉢状のものは、一瞬見えただけですぐに消滅した。
(五)摺鉢が消えたところ、こんどは中心部から一本の白い柱が、手前に見える山なみの十倍ぐらいの高さまで延び上がり、延び切ったと思ったところで、その天辺が爆発した。
(六)それから地上から黒い煙が一面に立ち昇ってきた。
(七)ここまで見てから一秒か二秒たったとき熱い爆風が来て、自分は砂浜に吹き倒された。」
疑問が残るという……。下「」引用。
「残る問題は、犬塚氏が三重で見た水平の輪とは何であったかである。長崎市に居合わせた人から一篇も、これについての記述がないので、ホントに輪だったのか、まことに頼りない。しかし、考えてみると、これを長崎の人に求めるのは無理である。」
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目 次
思い出集世話人・編/白井秀雄1974年
原爆投下された時、白い輪を見たという人がいる……。
昭和19年にもう、米軍上陸を考えておられたようです。下「」引用。
「昭和十九年七月、新聞には「サイパン島の皇軍、全員戦死」という大本営発表がのった。このぶんでは敵は長崎にも上陸してくるかもしれないというような噂がひろまり、人々は郊外にと疎開していったものである。」
県立高女、動員学徒。下「」引用。
「途中大きな男の人が黒焦げになって、狭い道を転げまわって苦しんで居られます。他にもう一人、道脇の溝に落ち込んで「アイゴー、アイゴー」と泣いているのです。私は恐ろしくてどうすることも出来ず、ようやく通り過ぎました。」
また、朝鮮の人のことが書かれてありました。下「」引用。
「私は第二工場の事務所から第一工場に帰る途中、若い女の人から、「そこに一人、家の下敷きになっているから助けてくれ」と頼まれる。四寸角の柱を差し込んで、二人で持ち上げる。引き出してみると、徴用で来ている半島の人で、「アイゴアイゴ」と言っている。歩くことが出来ない。そこで、通りがかりの人をつかまえて、この人と一緒に行ってくれ、と頼んでみたところ、
「駄目です。私も一人で歩くのがせい一杯だ」
と断わるので、私は、その人のビンタを撲って言ってやった。
「一人で歩けないから、二人では何とかなるだろう。頼む」
二人は肩を組みながら工場から出て行った。」
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女子挺身隊の断末魔……。下「」引用。
「附近一帯は三菱浦上兵器や三菱造船部品工場等の女子挺身隊員が多かったので、特に夜間になると断末魔の声で「おかあさん」「水を」と呼ぶ声がして、今でも耳の奥底によみがえってくるような気がする。」
--犬塚義雄氏(故人)が、三重で海岸を散歩しているとき。
長崎の方角から飛行機の爆音が聞こえ、見る。下「」引用。
「(一)長崎市の上空と思われるところに、水平の小さい輪が見えるのに気付いた。不思議なことだと見ていると、
(二)その輪が次第に大きくなり、その輪が長崎全市を覆ったと思ったとき、
(三)その輪からオーロラのような奇麗な光が地上に向ってさした。それは大きな摺鉢を長崎全市にかぶせた形であった。このオーロラのようなものの色は橙色であった。
(四)この奇麗な擂鉢状のものは、一瞬見えただけですぐに消滅した。
(五)摺鉢が消えたところ、こんどは中心部から一本の白い柱が、手前に見える山なみの十倍ぐらいの高さまで延び上がり、延び切ったと思ったところで、その天辺が爆発した。
(六)それから地上から黒い煙が一面に立ち昇ってきた。
(七)ここまで見てから一秒か二秒たったとき熱い爆風が来て、自分は砂浜に吹き倒された。」
疑問が残るという……。下「」引用。
「残る問題は、犬塚氏が三重で見た水平の輪とは何であったかである。長崎市に居合わせた人から一篇も、これについての記述がないので、ホントに輪だったのか、まことに頼りない。しかし、考えてみると、これを長崎の人に求めるのは無理である。」
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