磯野鱧男Blog [平和・読書日記・創作・etc.]

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夢のおもちゃ箱II その2

2005年12月09日 | 短編など
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4.

少年はベッドの上で寝ころがって考えます。
月あかりが部屋にさしこんできます。

「ミャー」
部屋のすみでネコが泣きました。

「ピエロさん、ピエロさん」
少年は必死にオルゴールのピエロに
向かって話しかけました。

「ピエロさん、ねえー。もう一度、
もう一度だけでいいから、ねえー」

ピエロは少しも動きませんでした。
「ねえ、ピエロさん」
少年はピエロが大きくなることを想像しました。

でも、ピエロは大きくもなりませんでした。
「ねえー、ピエロさん」
少年はピエロが大きくなる事を想像していいました。

でも、ピエロは大きくもなりませんでした。
「ふぅー」
うつ伏せになって、オルゴールを両手で持って、
「ねえー、ピエロさん」
と少年はいい、顔をベッドにつけました。

ミャーと、ネコは泣いて、部屋から出ていきました。

「痛!」
少年は声をあげました。
「あははは……」
笑い声がしました。

「あっ、ピエロさん」
「いやー、こんにちは」
ピエロは大きなジェスチャーをしていました。

「ピエロさんは、聞いて知っているでしょう」
「えっ、はい。ゴッツーンと腰にきましたよ」
投げられたときのことを話しました。

「ねえ、夢の世界に連れていってよ」
「ああ、それはできるけど。その後は私には、
どうしたらいいかわからない。
それでもよかったら、夢の世界に行こうよ」
ピエロは真剣な表情で少年を見て話しました。

少年は夢の世界へと
ローラーコースターに乗りました。

「ところで、ピエロさんには友達が一人もいないの?
おとうさんもおかあさんも……」
「いや、たくさん友達はいるかもしれない」
「たくさん」
「あの人間じゃないんだけどね。ピュスレー」
と大きな象を呼びました。
象はピンク色をしていました。

「ピュスレー」
ピエロが呼びかけると、
象は耳をパタパタとさせました。

ピュスレーの上には沢山の子どもたちがいました。

「夢を見ているんだ。
象のピュスレーの上に乗って眠っているけど、
きっと居心地がいいから、
楽しい夢をみているだろうね」
「まるで、ピンク色の象さんの上にのって、
楽しく揺られているって?」
「そのとおりだね」

ピエロは子どもたちを下ろして、
遊園地のメリーゴーランドや、
お猿の運転手がいる電車に乗せました。

「あはは……」
ピエロは楽しくなりました。
やさしく抱きかかえ、ラクダの背中に乗せました。
ラクダはパッと目をひらき歩き始めました。

「ピュスレー、人気があるなあー」
ピエロが言いました。
知らぬ間に、象の背中の上には、
さきほどと違う子どもたちがいました。

指をくわえて、ヨダレをたらしていました。
今度は小さな子どもを
ピンク色の豚の上に乗せました。
親豚の後には子豚がぞろぞろとついて行きました。

少年もピエロも楽しくって笑っていました。

「ピエロさん」
ピュスレーが話しかけると、
また、子どもがピュスレーの
上にのりました。

「この子は、象が好きでサーカスの
テントに入って
しかられた子だよ」
愉快そうにピエロは話した。

パッ!
また、小さな子どもがピュスレーの背中に乗りました。
「おやおや、オムツをしている赤ちゃんだね」

ピュスレーはすごい人気です。
ピュスレーは真剣な表情で考え込んでいました。
「そうだ。何年か前に……」
「何年か前に?」
ピエロと少年はピュスレーに近づきました。

「愉快なおじさんに会ったよ」
「愉快なおじさん」
二人は声をあわせていいました。

少女は飛びちったオルゴールの
ガラス玉を握ってねています。
少年が帰ってから、
お母さんが掃除をしていて発見したのです。
「へえー、きれいだわ」
「なぁによ」
少女はお母さんから手渡されて、
そのまま握って眠りこんでしまったのです。

ピュスレーは話します。
「愉快なおじさんね、へんてこな動物を連れてね、
やって来たんだよ」

「へんてこな動物」
「あー、そうなんだ。へんてこな犬だ。
あんなのにあったことはない」

「どんな動物?」
「何か、豚みたいで、何とか言ったなあー。
ほら~、何とかいったものに似ているんだよ~」
「タコ?」
「違うよ、タコが豚に似ているかい?」
「さあー、似ていないよね」
少年は考え込みました。

「そうだ、蟻くい、蟻くいだよ」
ピュスレーは言いました。
「蟻くい!?」
と二人は首をふりました。

「蟻くいって何」
少年はたずねました。

ピエロは「フムフム」と言いながら考えて、
「あー。もしかしたら……」
「もしかしたら……」
みんな明るい表情をしていました。

「夢をたべる動物、そう貘だ。
貘にちがいない」
ピエロは右手をグウにして、左手をパーにして、
パチンと音をさせました。

「夢を食べちゃう動物、
そんな動物がいるの?」
「あー、夢を食べちゃうんだ」
ピエロは恐ろしがっていました。

「その愉快なおじさんが連れていたよ」

「へえー。おじさんが」
何かいいことがあるような気がした。

「そのおじさんなら、何かいいことを
知っているかもしれないね」
象のピュスレーは話しました。

「でも会えるかなあー」
「さあー、どこにいるか、わからないもんなあー」
ピュスレーは困った表情をしました。

ピエロの提案で遊園地の飛行機に
二人はのりこみました。

「ピュスレー頼むよ」
飛行機のワイヤーをはずしてもらいました。

飛行機はとんでゆきます。
でも、スピードは早くなくって、
自転車くらいの速度。
でも、自転車とちがって景色はとてもいい。

「貘を連れているおじさんを探し出すんだ」
「でも、そんな時間あるの?」
「ないかも?……」
ピエロはがっかりした。


5.

暗い街です。ここは1年中くらいのです。
これも人間がつくりあげた心の世界なのです。
「ふうー」
少年は額に手をあてました。

少女がいました。
ベッドに座っています。
白い包帯が暗い世界に印象を際立たせます。

「どおしたら、いいんだろう」
ピエロは窓の外をながめてみました。

「どおしたら……」
ピエロが口ずさんだとき、
少年は少女の包帯をとりました。

「ねえ、ピエロさん。
この世界では話せない人でも
話せるんだろう」
少年は笑顔でピエロに聞きました。

しかし、ピエロは沈んだ表情でした。
「あー、しかし」
「しかし、どうしたの?」
少年はいいアイデアが浮かびそうなのに、
否定的なことをいうピエロにがっかりしていました。

「その人の心の目が開かねば、
見ることはできない」
「えっ」
少年は包帯を持ったまま、唖然としました。

「あー、どおしたら」
二人は多いに悩みました。

「愉快おじさんは、どこにいるのやら?」
ピエロは一人つぶやきました。

「見つける方法はあるんだろうか?」
「あー、夢の世界は広いからなあー」
ピエロは憂鬱な表情をしていました。

「あー、どうしたら」
ため息をみたいに話しました。

「うーん」
ピエロは考えました。

「あれ、手に何か持っているよ」
「何?」
少年はいって、少女の手をもちました。
指を一本ずつ広げて、
「ガラス玉だ」
と、話しました。

「ガラス玉? それオルゴールのだね」

「どおして持っているんだろう。変だね」

「君にすまないと考えたのかなあー?」
ピエロは考えながら話しました。

「あー」
と少年は言葉をもらしました。

「きみを恨んでなんていないよ」
ピエロは少年の心を読みました。

少年は泣きそうにして首をふってこたえました。

涙って何だろう
涙って何だろう
苦しい時の心の汗
悲しい時の心の汗

ピエロは少年の心を読みました。
「ねぇー」
少年はやさしく語りかけました。
「うん」
少年は間延びした声で、目をパチッととじ、
べそをかきました。

「この子、泣けないくらい悲しんだ」
少年はそう言いました。

「あー、うん」
少年は涙をこぼしました。

「涙も流せないくらいって、
とても辛いことなんだろうね」

ピエロは一生懸命考えて話します。
「いやな事や悲しい事って、
あっては困るものなんだけど、
やっぱりあるんだ。来るんだ」

目をぱちくりさせました。
「でもねえ、泣かなくっちゃいけないんだ。
そうしなくっちゃねえ。何か悲しいことが、
何か苦しいことか、わからなくなっちゃうんだ」
ピエロは涙を流しました。

「1+1=2ってことは、君にはわかるよねえー。
でも、なかなかわからなくって、困っているとき、
苦しまないでわからなかったら、
1+1=2という事もいやになってくるし、
わけのわからないものになってしまうんだ」
ピエロは白い地の赤い水玉の入ったハンカチを出しました。

「泣けないくらい、悲しいのか……」
ピエロはため息をつきました。

「泣くだけ泣いて、
1+1=2ってことを知らなくっちゃ、
本当に不幸せのままで終わってしまうよ」
ピエロは少女にむかって言いました。

「泣けないくらい悲しいことって、本当に悲しいことだね」
二人は大声だして、
「わーん、わーん」
と幼稚園児のように泣きました。

少年はガラス玉をもとの少女の手のなかに
戻そうと考えました。
指をまた一本ずつ開いて、
なかにガラス玉を入れました。

「ピエロのおじさん、飛行機にのっけて、
遊園地に連れて行こうよ」
少年はいい考えがうかんだと思いました。

ピエロはそんなことは何にも
ならないだろうと思いました。

しかし、あまりにも少年が熱心なもので、
「ああー、そうしよう」
と話してしまいました。

二人で少女を持ち上げようとしましたが、
少女の体は鉛のように重く、
うち沈んでいました。

「どおしたらいいんだ」
少年は悩みました。

ピエロは
「象のピュスレーを呼ぼう。
彼ならば持ち上げられるだろう」
と、いいアイデアを発表しました。

ピエロは飛行機にのって、
ピュスレーを呼びに行きました。

ドシン、ドシン、地響きをたてて、
ピュスレーがやってきました。

「私にまかせなさい」
と、ピュスレーは大きな声で堂々と言いました。

ピュスレーは太くて、
長い立派な鼻で、少女を持ち上げました。

そして自分の背中に乗せました。

「ずいぶん、重いなあ」
さすがのピュスレーも泣き言をいいました。

「がんばってね」
少年が頼んでいうと、
「まっかしといて」
と、ピュスレーは低い声でこたえました。

夢の世界のふつうの街にきました。
そこには大人も子どももいました。

「あはは……」
笑い声がきこえました。

「あれ」
と少年は思いました。
「どこかで聞いた声だ」

「どおしたの」
ピエロが質問しました。
「うん、どこが聞いたことがあるんだ。
なんだか、気になるなあー」

「ちょっと見てくればいい」
ピュスレーは話してくれました。

「見てくるよ」
少年は走り出しました。

「あはは……」
横丁をまがったとき、少年は驚きました。

病院で会った、あの義足の少年でした。
路地で遊んでいました。

「足、松葉杖ついていたのになあー」
少年は何だかうれしい気持ちになりました。

少年は象のピュスレーのところに走って来ました。
「はぁーはぁーはぁー」
「どおした、だれだった?」
「病院であった松葉杖の男の子だよ」
「そう」
「松葉杖をついてなかったよ」

「本当、それはよかったね」
「うん。あの子、たくさん、
たくさん泣いたんだろうなあー」
ピュスレーは話しました。
「そうだろうなあー。あの子、偉いなあー」
と、ピエロも笑顔でした。


6.

遊園地につきました。
「プフォー、あー重たかった」
ピュスレーはいいました。

「ありがとう」
少年とピエロはお礼をのべました。

パッ。赤ちゃんがピュスレーの上に乗りました。
「あはは……。ピュスレーは人気があるなあー」

「小さなころには何でもできるのになあー。
でも、大きくなるうちに
それだでは暗い世界に行ってしまうんだ。
だから、松葉杖の少年のように、
たくさんたくさん泣かなくっちゃー。
そして1+1=2ってことをわからなければならないんだ」
ピエロは少女の頭をなでました。

「あはは……。これこれ」
聞いたこともない声でした。

三人は遊園地、マウンテンハイを見ました。
その頂上に貘を二匹つれたおじいさんがいました。

「わたしを呼んだのは君たちかい?」
「あー、そうです……」
「そうかい、今、そっちに行くよ」

パッ、瞬間的におじいさんと二匹の貘は近くにきました。

「何だね、これこれ」
おじいさんは双子の貘が子どもたちの夢を食べないか、
用心していました。

「ふむふむ、そうか。そこのピエロくん、象くん。
この貘をみていてくれないか。悪戯者で困るんじゃよ」

「よろこんで」と、ピエロとピュスレー。

「それじゃ、魔法を使ってあげよう。
君にめんじてなあー。あはは……」
「ありがとうございます」
少年は心の底から感謝の言葉をのべました。

その魔法は少女の心の世界に、
少年を送りこむことでした。

「ねえ、悲しんでいても何かなるの?
つらいと思うけど……」
「あなた、なんで、ここまで来たのよ」

いくら少女でも、心のなかまで閉ざすことは
できませんでした。

「ねえ、きちんと悲しんで、
悲しむことは弱いことじゃないよ、きっと。
強がりばかりで、苦しんでいたら、
まわりの人たちまで不幸にしてしまうよ」

少女の体にはみるみる赤い血が流れはじめ、
肌の色も元の桜色になりました。

「ガラス玉、これあなたのオルゴールの……」
「あはは……。よかったよかった」

少女は目をあけました。少年を見たかったからです。
夢の世界では話せない人も話せるのです。
そして、目の見えなくなった少女も
見ることできたのです。

「本当だったのね!」
「そうだよ、夢の世界では、
話せない人も話せるし、見えない人も
見ることができるんだよ」

少年は少女と手をつないでいました。

「あっ、ピエロさん」
ピエロは笑顔でとてもうれしそうでした。

「これ、夢のおもちゃ箱の……」
ピエロはそれを受け取ると、首飾りにかえました。

「あはは……、よかったよかった」

みんなが感激してるとき、
おじいさんは走り出しました。

「こらこら!」

双子の貘を追って走り出しました。

「ありがとう、おじいさん」

「もしかしたら、あの人が夢の精……」

ピエロは赤いマフラーを少年に返すといいました。
「僕はこの世界で暮らすよ」
と、ピエロはうれしそうでした。

少年は赤いマフラーをし、
少女は首飾りをして、朝までステキな夢の世界で
くつろぎました。




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もくじ「夢のおもちゃ箱」





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