『シリーズ・戦争の証言4 学童集団疎開-世田谷代沢小の記録-』
浜館菊雄・著/太平出版社1971年、1988年7刷
最後の方にこう書かれてある……。下「」引用。
「なお本書は、一九五六年に『浮雲教室』として黒潮社から刊行したものに、新しい資料を加えて刊行するものです」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/71/5d/96636c594bd396aac683ee28e222b4dc.jpg)
通達によってなされたという。下「」引用。
「一九四四(昭和一九)年七月一七日、突然、学童集団疎開実施の通達がもたらされ、われわれ学校職員や、父兄たちをろうばいさせたのであった。
もっともこのことは、まったく予知できなかった寝耳に水のぬきうち的な話ではなく、すでに六月初めごろから、マリアナ諸島の危機が伝えられ、戦局の急速な転換が生んだ話題であったのである。
しかし、わたくしたちはいままで、この噂を極力否定し、一笑に付してきたのであった。-略-」
思考停止という人もいるかもしれない……。
食料の問題は大きい……。下「」引用。
「「野菜の配給はこれよりありません。ほかのものを食べさせるには闇の野菜を買うよりほかありませんし、そのためにはこの経費ではまかないきれません」ということになれば、文句のいいようがないのである。
もっともむずかしい問題は、子どもたちに特配される砂糖・バター・食用油などの処置をどうするかということであった。これは原則として、学寮長保管ということになっていた。しかしこれはまた気持のうえの問題で、原則どおりいかないばあいが多かった。われわれがこのような物資を、経営者側へ渡さないということは、すでにそれ自体が信用していないことになるのだし、経営者側もそれならとまた、規則づくめで子どもたちに親心を示さなかったら、副食物の変化は望めないことになるのだから、このデリケートな問題をスムーズに解決する道は相互の精神的な結付き以外にないのであった。」
退寮理由が必要だという……。下「」引用。
「家庭が東京以外の土地へ転出したとか、本人が病気で、学寮生活に耐えられないとか、なかには例外ですが、からだは健康でも寝小便をするからというばあいもあります。まあこんな理由がはっきりしたばあいのほかは退寮は許されないことになっています。これは国家の事業ですからね。いったんやった仕事を、そう簡単に崩すことはできないでしょう。もちろん、身体的理由や寝小便の理由は医師の診断書が必要です」
発疹チフスが心配だったという。下「」引用。
「ある学寮で子どもの下着を釜に入れて煮つめたそうだが、その後その後から新しく発生してくるのには抗し切れなかったそうである。真におそるべき大敵であった。もしこれで発疹チフスでもでたら、それこそ手をあげるしかないだろう。」
仲間はずれの理由……。下「」引用。
「顔が気にくらぬとか、気がきかないとか、理由はきわめてたあいのないばあいが多かった。」
「上級生は下級生にたいしてどんなむりな要求をしたか」
面会の品をもってこい! 貯金のある者のお金を使う……。
先生がお菓子を横取りしていないか? 調べてこい。
「11 厳冬と児童の死」
少年が心臓病で死んだという……。
特攻隊……。下「」引用。
「思い思いのことを語りあう子どもたちであった。かれらはあの五人の兵隊が、疑いもなく特攻隊の勇士と信じ、その日の疎開日記にこう書いたのであった。」
そして、ラジオ放送……。下「」引用。
「あの五勇士の名まえが、四月一日夜、はしなくも電波にのって子どもたちの耳に達したのである。
その夜も、いつものように、ラジオの「小国民の新聞」にききいっていた子どもたちは「アッ」と思わず声をたてた。-略-五つの名まえを、はっきりきいたのであった。
「やった。やった。あの兵隊さんたちだ」。
子どもたちはだれも興奮しきった。女児はもう感激に涙ぐんでいる。なにがなにやらわからない叫び声が室中を圧した。
「先生! 先生! あの兵隊さんたちが」。
と、職員室へ駆けこむ者もある。
ああ、出発の朝、子どもたちが固く信じて疑わなかったとおり、あの五勇士は、武剋特攻隊のなかにその芳しい名をつらね、うら若い生命を散らしたのであった。」
Index
もくじ
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浜館菊雄・著/太平出版社1971年、1988年7刷
最後の方にこう書かれてある……。下「」引用。
「なお本書は、一九五六年に『浮雲教室』として黒潮社から刊行したものに、新しい資料を加えて刊行するものです」
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通達によってなされたという。下「」引用。
「一九四四(昭和一九)年七月一七日、突然、学童集団疎開実施の通達がもたらされ、われわれ学校職員や、父兄たちをろうばいさせたのであった。
もっともこのことは、まったく予知できなかった寝耳に水のぬきうち的な話ではなく、すでに六月初めごろから、マリアナ諸島の危機が伝えられ、戦局の急速な転換が生んだ話題であったのである。
しかし、わたくしたちはいままで、この噂を極力否定し、一笑に付してきたのであった。-略-」
思考停止という人もいるかもしれない……。
食料の問題は大きい……。下「」引用。
「「野菜の配給はこれよりありません。ほかのものを食べさせるには闇の野菜を買うよりほかありませんし、そのためにはこの経費ではまかないきれません」ということになれば、文句のいいようがないのである。
もっともむずかしい問題は、子どもたちに特配される砂糖・バター・食用油などの処置をどうするかということであった。これは原則として、学寮長保管ということになっていた。しかしこれはまた気持のうえの問題で、原則どおりいかないばあいが多かった。われわれがこのような物資を、経営者側へ渡さないということは、すでにそれ自体が信用していないことになるのだし、経営者側もそれならとまた、規則づくめで子どもたちに親心を示さなかったら、副食物の変化は望めないことになるのだから、このデリケートな問題をスムーズに解決する道は相互の精神的な結付き以外にないのであった。」
退寮理由が必要だという……。下「」引用。
「家庭が東京以外の土地へ転出したとか、本人が病気で、学寮生活に耐えられないとか、なかには例外ですが、からだは健康でも寝小便をするからというばあいもあります。まあこんな理由がはっきりしたばあいのほかは退寮は許されないことになっています。これは国家の事業ですからね。いったんやった仕事を、そう簡単に崩すことはできないでしょう。もちろん、身体的理由や寝小便の理由は医師の診断書が必要です」
発疹チフスが心配だったという。下「」引用。
「ある学寮で子どもの下着を釜に入れて煮つめたそうだが、その後その後から新しく発生してくるのには抗し切れなかったそうである。真におそるべき大敵であった。もしこれで発疹チフスでもでたら、それこそ手をあげるしかないだろう。」
仲間はずれの理由……。下「」引用。
「顔が気にくらぬとか、気がきかないとか、理由はきわめてたあいのないばあいが多かった。」
「上級生は下級生にたいしてどんなむりな要求をしたか」
面会の品をもってこい! 貯金のある者のお金を使う……。
先生がお菓子を横取りしていないか? 調べてこい。
「11 厳冬と児童の死」
少年が心臓病で死んだという……。
特攻隊……。下「」引用。
「思い思いのことを語りあう子どもたちであった。かれらはあの五人の兵隊が、疑いもなく特攻隊の勇士と信じ、その日の疎開日記にこう書いたのであった。」
そして、ラジオ放送……。下「」引用。
「あの五勇士の名まえが、四月一日夜、はしなくも電波にのって子どもたちの耳に達したのである。
その夜も、いつものように、ラジオの「小国民の新聞」にききいっていた子どもたちは「アッ」と思わず声をたてた。-略-五つの名まえを、はっきりきいたのであった。
「やった。やった。あの兵隊さんたちだ」。
子どもたちはだれも興奮しきった。女児はもう感激に涙ぐんでいる。なにがなにやらわからない叫び声が室中を圧した。
「先生! 先生! あの兵隊さんたちが」。
と、職員室へ駆けこむ者もある。
ああ、出発の朝、子どもたちが固く信じて疑わなかったとおり、あの五勇士は、武剋特攻隊のなかにその芳しい名をつらね、うら若い生命を散らしたのであった。」
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