自民党の右に柱を立てる――国家や民族を重視する本格的な右派政党として衆院選に臨んだ次世代の党。インターネットで活発に発言する右派勢力などを頼りに、強い保守色を前面に出して戦った。だが、公認48人に対して当選は2人と惨敗。識者からは、保守の理念が先行し、生活に密着した政策に結びつけられなかったとの指摘が出ている。

 選挙結果を総括した19日の次世代の党の会議。平沼赳夫党首は、落選議員らを前に「私の力が足らず、心から反省している」と頭を下げた。石原慎太郎最高顧問も「十分な応援ができなかった」と謝罪した。

 旧日本維新の会から分裂し、8月に結党した次世代の党は、平沼氏や石原氏ら自民党よりも保守的な理念を掲げる政治家の「オールスターチーム」の様相だった。衆院選では中国批判、慰安婦問題に加え、「根拠がない」との批判を浴びながらも、独自調査をもとに「在日外国人生活保護受給率は日本人の8倍」などと訴え、「生活保護は日本人に限定」とする社会保障制度の抜本改革も公約に掲げた。

 次世代の選挙戦の象徴は、2月の東京都知事選で61万票を獲得した元自衛隊航空幕僚長田母神俊雄氏だ。東京12区で公明党太田昭宏国土交通相にぶつけ、支持母体の創価学会を徹底的に攻撃した。

 記者会見で田母神氏は「安倍晋三首相の足を引っ張る公明党を政権から分離させ、自民・次世代の連立政権を作らねば、日本は取り戻せない」と述べ、街頭演説でも徹底した公明党創価学会批判を続けた。

 ネット上で発言する右派の支持を得ようと、積極的なネット戦略も展開した。「子育て犠牲にしてまでなぜ働くのか」「慰安婦問題はでっちあげ」など、「誰もが知らんふりするタブー」を斬るとして、キャラクター「タブーブタ」を一刀両断する動画を制作。動画の再生回数は30万回を超えた。

 ツイッターも自民、公明に次ぐ約1万2千フォロワーを獲得。「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の桜井誠前会長が「期日前投票小選挙区、比例ともに次世代に一票を投じてきました」とツイートするなど、右寄りのネット世論に浸透したようでもあった。

 しかし、ふたをあければ、わずか2議席。当選はいずれも強固な地盤を持つ平沼氏(岡山3区)と園田博之氏(熊本4区)のベテラン議員だった。目玉候補の田母神氏も東京12区で約3万9千票にとどまり、4候補中最下位。平沼党首は15日未明の会見で、「急な解散で党の知名度が不足していた」と語った。

 

■「暮らしに寄り添っていない」

 ネット上の右派の民意がなぜ、次世代の得票に結びつかなかったのか。

 若手の保守論客で評論家の古谷経衡(つねひら)さんは、次世代が掲げた生活保護受給率のデータなどを挙げて「根拠のない数字だ」と批判。「ネットに閉じこもっている層の受けを狙い、『トンデモ』な話を振り回しても大衆的支持は得られない」と戦略の失敗を挙げる。

 その上で「日本の一部の保守は、憲法や歴史認識といった上滑りな天下国家論ばかりで、『左翼の発想』とばかにしてきた庶民の暮らしに寄り添っていない。理念を前面に出す共産党は、福祉や『ブラック企業』告発を掲げて票を伸ばした」と分析する。

 また、極右政党が台頭する欧州政治に詳しい佐賀大の畑山敏夫教授(政治学)は、欧州の極右勢力は、失業、犯罪の増加、社会保障財源の逼迫(ひっぱく)といった国民生活に直結するテーマを、移民排除やグローバリズム批判といった政策と結びつけ、国民を守る強い国家の復権を唱えていると指摘。「保守の理念だけでなく、安倍政権の競争、自己責任新自由主義的な経済政策で、こぼれ落ちた人々を救済する現実的な政策にも目を向けるべきだ」と話している。(秋山惣一郎)