若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

交際費とか政務調査費って、グレーゾーン多くありません?

2012年02月09日 | 地方議会・地方政治
○行橋市長交際費 市議と会食 3年9ヶ月 11回約37万円支出 西日本新聞20120209朝刊
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 行橋市の交際費取扱指針は「行政の円滑な執行のため、市長などが市を代表して外部と交際する際に支出できる」と規定している。公開された「支出伺」によると、2008~10年度の支出はそれぞれ総額約190万円、11年度は1月12日までで約125万円。このうち約37万円が「議会との懇談時」などと記され、市内の会席料理屋やホテルの請求書が発行されていた。
 市長をはじめ市当局の出席者分を含む費用全額を市長交際費から支出。08年度は4件で約10万6千円、09年度は5件で約17万9千円、10年度は1件で約5万7千円、11年度(1月12日まで)は1件で2万8千円だった。
 市の説明では、市側から呼び掛けて開き、少なくとも毎回1~5人の市議が出席したという。市長のほか副市長や教育長が同席した会もあった。取材に対し八並市長は「政策や議案についての情報交換のために開いた。会食相手の名前は言えない。ただ、市民から誤解を生むかもしれず公費の支出は極力控えたい。交際費の状況は公開し、使途基準も見直したい」と話した。

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※新聞には請求書の写真が掲載されており、そこには酒、ビール、焼酎の文字がある。

○交際費で市議と会食 行橋市長 3年超で39万円支出 読売新聞20120210朝刊
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 行橋市の八並康一市長(72)が、市長交際費を使って市議と会食し、市議側の飲食費も負担していたことが分かった。今年1月までの約3年9か月では、12回の会食で計約39万円を支出している。市長は「市政の課題に関して意見をいただくため、お礼を込めて支出した」と説明しているが、公費を使うのは不適切と判断し、今後はやめるという。
 市によると、会食は、市長が議員から話を聞きたい場合などに持ちかけ、市内のホテルや料理店で行った。1回で1~5人程度を相手にし、副市長や教育長が同席することもあった。たいていは交際費で全員分を負担したという。
 市長交際費の使途基準を定めた市の指針では、市政を円滑に執行するため市長が外部と交際する際に支出できるとしている。議員との会食について、市は「議員は職員が持ち得ない意見や情報を備えており、外部の人間と受け止めていた」と説明している。
 行橋市は市長交際費の支出を公開しておらず、市は「公開する態勢を整えたい」としている。

======【引用ここまで】======


・主催者:市長
・相手 :議員(1~5人)
・目的 :政策や議案についての情報交換、市政の課題に関する意見
・同席者:副市長、教育長、その他市当局(ときどき)
・費用 :たいていは交際費で全員分を負担


2つ記事を読んで、思いついた論点を挙げてみる。


(1)市長が議員と個別に、会食を伴って政策や議案について情報交換、意見交換することは妥当かどうか?

(2)市長と議員との会食で、市長(と市当局の出席者)の飲食代を交際費から支出することに違法性はあるか?

(3)市長と議員との会食で、議員の飲食代は交際費から支出されているのか?


まず、(1)情報交換の妥当性について。

議員と首長との情報交換は、一律に否定されるべきものではないと思う。政策が実施される時や議案が提出される時に、強固な反対意見を持つ議員、首長と考え方の近い議員、有力な議員に対し、事前に内々の説明をしたり、制度趣旨を理解してもらう、他の議員への説得をお願いする等、いわゆる「根回し」的なものは多かれ少なかれあるだろう。

公の場で説明し、討論をするのは当然必要。ただ、詳細な実情や内情、機微を公の場で伝えるのは難しい、という日本人的感覚は根強い。政策や議案について、情報交換をする場を内々に設けることを全てなれ合いとして否定するのは、厳しすぎる意見だろう。

ただ、これは程度の問題。例えば、提出予定の議案について内々の情報交換をし過ぎると、公開の会議でされるべき審査が秘密裏に終わってしまう「議案の事前審査」に該当する恐れがある。

「議案の事前審査」は地方自治法で禁止されているという人と、明文規定で禁止されてはいないが避けるべきという人とがいる。いずれにせよ、首長と議員のなれ合いと評されるレベルの緊密さは、好ましいことではない。

一部議員が提出前から議案の詳細を知っていて、首長と一体となって議案提出をするような実質を伴ってしまうと、執行機関としての首長、議決機関・チェック機能としての議員の二元代表制を採用している地方自治法の建前に反する。地方議会は議院内閣制ではなく、本来なら与党・野党は存在しない。非公式な場所で政策・議案に関する意見交換をし過ぎると、本会議や委員会での審査が形骸化しかねない。


次に、(2)の違法性に関して。判例を見てみると・・・

○最高裁判例 平成18年12月01日
======【引用ここから】======
(ア) 本件支払1
平成12年2月11日,市内のライブハウスの新店主披露祝賀会に市長が列席するに際して祝金を交付することとし,新店主に対し1万円を支払った。
(イ) 本件支払2
平成11年11月10日,武蔵野市部課長会の研修後の懇親会に市長,助役及び収入役が列席するに際して祝金を交付することとし,同会の会長に対し3万円を支払った。
(ウ) 本件支払3
平成11年11月29日,市内に所在するA寺の第10世住職継承披露祝賀会に市長が列席するに際して祝金を交付することとし,A寺住職に対し1万円を支払った。
(エ) 本件支払4
平成11年12月8日,B大学出身の市議会議員及び市職員から成る武蔵野市役所B会の懇親会に市長が列席するに際して祝金を交付することとし,同会代表幹事に対し1万円を支払った。
(オ) 本件支払5
平成11年12月21日,市議会の会派であるCクラブの忘年会に市長が列席するに際して祝金を交付することとし,同クラブ会派代表者に対し1万円を支払った。
(カ) 本件支払6
平成12年1月30日,宮崎県内の全焼酎製造業者によって結成された同県の特産品の消費拡大等を目的とする団体の定例会に市長が列席するに際して祝金を交付することとし,同団体幹事長に対し5000円を支払った。

~~~(中略)~~~
普通地方公共団体が住民の福祉の増進を図ることを基本として地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとされていること(法1条の2第1項)などを考慮すると,その交際が特定の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において具体的な目的をもってされるものではなく,一般的な友好,信頼関係の維持増進自体を目的としてされるものであったからといって,直ちに許されないこととなるものではなく,それが,普通地方公共団体の上記の役割を果たすため相手方との友好,信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることができ,かつ,社会通念上儀礼の範囲にとどまる限り,当該普通地方公共団体の事務に含まれるものとして許容されると解するのが相当である。しかしながら,長又はその他の執行機関のする交際は,それが公的存在である普通地方公共団体により行われるものであることにかんがみると,それが,上記のことを目的とすると客観的にみることができず,又は社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものである場合には,当該普通地方公共団体の事務に含まれるとはいえず,その費用を支出することは許されないものというべきである
======【引用ここまで】======

そして、
「支払1~支払3は違法」
「支払4~支払6は違法とはいえない」
というのが、最高裁の出した結論である。


最高裁は、議員会派の忘年会に市長が出席し、交際費から祝金を出すのは、地方公共団体が「行政を自主的かつ総合的に実施」する役割を果たすため、議員との「友好,信頼関係の維持増進を図ることを目的とすると客観的にみることができ」「社会通念上儀礼の範囲にとどまる」から「違法とはいえない」と判断している。

最高裁は、市長から見た議員を「対外的」な立場にある人と考え、市長が議員と交際することに一定の公務性を認めていることになる。

これに照らしてみると、
「会派の忘年会に出席して祝金を出すのが合法なら、市長と議員の情報交換の場で市長と職員分の飲食代を出すのも合法」
とも思える。これをどのように考えるか。

交際費(=公費)で負担をするのであれば、一定の公務性が求められる。公務性がある以上、
・出席する名目が公的なものであること
・出席する名目と支出の内容とが一致すること
が求められる。そして、名目と内容とが一致しない場合、「社会通念上儀礼の範囲を逸脱した」ものと考えることができる。

例えば、
・出席する名目が「老人クラブスポーツ大会」、支出の内容が「賞状代」であれば、名目と内容が一致する。
・名目が「議員忘年会」で、内容が「祝金」であれば、名目と内容が一致する。(最高裁は「儀礼の範囲にとどまる」と判断した。)

議員会派の忘年会を、年に一度のそれなりに改まった行事と捉えると、そこへの祝金は儀礼といえば儀礼なのかもしれない。だが、政策や議案の情報交換という名目で焼酎を飲むのは、儀礼の範囲とは通常言いにくい。

そもそも、名目である「政策、議案に関する情報交換、意見交換」は公的なものかどうか。

(1)で述べたように、内々での情報交換の有用性は否定できない。ただこれは、公の場での議論と対置される非公式のもの。公務性があって公表できる行事、事柄に支出すべき交際費を、内々で行われるものへ支出することは、交際費の性質からして問題だ。


(3)については、「自分は会費を払った」とする声もあるが、新聞記事によると議員分も含めた飲食費が支払われたようだ。



交際費の使途については、ホームページ上での公開が主流と言ってよいだろう。予め公開してあれば、人目を気にするようになる。見られている感覚が「この交際費支出は問題あるかな?」という意識を生み、税金を惰性で支出することを抑制する。

「住民参加」と「情報公開」が、昨今の自治体行政のあり方を考える上でのキーワードとなっている。

ただ、「住民参加」は支出抑制につながるとは思えない。下手をすると、住民からの「あれをしてほしい。これもお願いしたい」といった御用聞きの場になってしまい、歳出を後押しすることになる。

「情報公開」は、いくら公開してもし過ぎということはない。無駄遣いはいくらでもあるのだから。

交際費、政務調査費、各種補助金などは、内容をドンドン公開しようという流れになっている。そうすると、「これは合法?」「あれは効果あるの?」といった批判を常に受けることになる。グレーゾーンな支出を慣例として続けるわけにはいかなくなる。

支出の詳細を公表して検討する。これを徹底して各分野にわたって行うのが、事業仕分けだ。民主党政権でその評価はガタ落ちになってしまったけど、やはり、大雑把な目的や大義名分だけでなく、支出の内容まで検討していくことは必要なのだ。




~ 平成24年2月12日追加 ~

市長交際費で飲食をしていたのは、市長や市議だけではなかったようで・・・

○行橋市長 監査委とも交際費で会食 / 西日本新聞
======【引用ここから】======
 福岡県行橋市の八並康一市長が市長交際費で一部の市議と会食していた問題で、2010年8月に交際費から約5万7千円を支出して監査委員とも会食していたことが11日、西日本新聞が情報公開請求した市の会計資料で分かった。監査委員には行政の効率的運営を促し財務を審査する役割があり、識者は「監査委員の独立、信頼性の観点から好ましくない」と指摘。市は「委員から会費をもらったが、会計処理の行き違いで交際費から支出してしまう事務ミスだった」と釈明している。
 交際費資料などによると、会食は市内の飲食店であり、元市職員と市議が務める監査委員2人と八並市長、監査事務局長ら計6人が出席。市は後日、交際費から全額を支払った。
 市の説明では、会食翌日に委員2人から監査事務局長が会費を徴収し、事務局長分と合わせた3人分を総務部長に渡した。総務部長はしばらく預かっていたが、「正確な代金が分かり次第請求する」と3人分の会費を事務局長に返却。その後、総務部長は事務局長への催促を忘れ、事務局長も委員2人に会費を返してしまったという。
 監査委員の一人は「会費の支払いを何度か申し出たがそのままになってしまった。負担すべきだったと反省している」と話した。西日本新聞の取材後、委員2人と監査事務局長の会費が市側にあらためて支払われた。

======【引用ここまで】======

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