若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

先進的な法律は悪法だ

2009年08月26日 | 政治
『ヒューマン・アクション』L.v.ミーゼス著 村田稔雄訳 649頁
労働時間を短縮し、工場から既婚婦人と児童たちを引き上げさせたのは、労働立法や労働組合の圧力ではない。賃金生活者が非常に豊かになり、彼自身や扶養家族のために、もっと余暇を買うことができるようになったのは、資本主義のお陰である。おおむね十九世紀の労働立法は、市場的要因の相互作用によって既に生じていた変化を法的に認めたものにすぎなかった。労働立法が産業の発達よりも先行したこともあったが、そのような場合には、富の急増によって、間もなく事態が正常に戻った。いわゆる労働者優遇的法律が、既に現れていた変化ないし直近未来に起こると思われる変化の予想を承認した措置の命令にとどまらなかった場合は、労働者の物質的利益を害した。


現在、日本には労働基準法や労働安全衛生法、労働者災害補償保険法など、様々な労働関係の法律がある。そこに規定されている事項が実際に多くの会社で遵守されるかどうかは、「そのことが法律に書かれている」「罰則がある」ということとはあまり関係が無い。

週40時間労働や有給休暇、年少者の保護、労災保険など、程度の差こそあれ、比較的多くの職場や企業で遵守されている事項は、これらが法制化されているから遵守されているのではない。これらの労働者優遇措置を守っていても、職場の業務遂行に支障がなく、企業経営が成り立つからこそ、遵守されるのだ。

各職場、各企業のおかれている状況でも遵守することができる労働者優遇措置を法制化してこそ、労働者優遇措置は初めて遵守される。様々なものが効率化され、より良い商品やサービスが手軽に利用できるようになり、生活コストが下がることで生み出される余裕が、労働者優遇措置の遵守を現実のものにする。

では、各職場、各企業のおかれている状況では到底遵守できない労働者優遇措置を法制化したら、どうなるか。
おそらく、
「あぁ、あの法律?うちは無理だよ。無理無理」
と開き直って、無視されるのがオチ。
そして、何かと理由をつけては、労働者優遇措置を従業員から遠ざけ、労働者優遇措置を利用する従業員に冷や飯を食わせることで、その利用を阻むだろう。罰則を設けたところで、その罰を受けることによるマイナスよりも、馬鹿正直に労働者優遇措置に従うことによるマイナスが上回るのであれば、遵守されないだろう。

ではでは、罰則や監視、取り締まりの強化で、現状では遵守できないような労働者優遇措置を徹底しようとしたら、どうなるか。

例えば、最低賃金時給1000円を徹底したら、バイトの数を減らし、残った従業員やバイトの回転数を上げて対処しようとするだろう。しわ寄せは残った者に向かう。また、それによって雇用を失う者も出てくるだろう。

また、例えば、育児休業の取得を徹底したら、育休で開いた穴を残された従業員がカバーしなければならなくなる。日ごろから人数に余裕があれば別だが、そうでなければ職場の渋滞は避けられない。中小企業であれば死活問題となる。

また、育休の取得が徹底されれば、その負担を回避するため、そもそも育休を取得しそうな人を予め採用しないようにする企業も出てくるかもしれない。


行き過ぎた労働者優遇措置は、かえって労働者の首をしめることになる。労働者優遇措置の法制化は、現実の職場・企業の状況を後追いするくらいで良い。労働者優遇措置を実効あるものにするためには、逆説的だが、労働者優遇措置の規定を含めた様々な法規制を廃止し、消費者のニーズに応えた多様なサービスがより効率的に提供される市場を整えることが必要だ。

「欧米の育休取得率は日本より高い」という議論があるが、これは単に欧米の職場や企業は日本より余裕がある、何だかんだいって日本より欧米の方が豊かだ、ということでしかない。無い袖は振れない。身の丈に合わない法制化は愚の骨頂。

最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
先進的な法律は悪法だ (ap)
2009-08-28 05:27:12
すると日本のGDPはどこに消えるんでしょうか?ヨーロッパの今では小国になってしまったポルトガルとかでも、日本人よりよっぽど余裕で生活してるそうです。これはどうして?
http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_countries_by_GDP_(PPP)_per_capita
おフランスとはどっこい、イタリアは日本よりさらに下。日本人の方がずっと働いてないかな?
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。