私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

アレクサンドル・プーシキン『スペードの女王・ベールキン物語』

2015-04-24 22:37:13 | 小説(海外作家)
 
工兵士官ゲルマンは、ペテルブルグの賭場で自分のひき当てたカルタの女王が、にたりと薄笑いしたと幻覚して錯乱する……。幻想と現実の微妙な交錯をえがいた『スペードの女王』について、ドストイェーフスキイは「幻想的芸術の絶頂」だといって絶賛した。あわせて『その一発』『吹雪』など短篇5篇からなる『ベールキン物語』を収める。
神西清 訳
出版社:岩波書店(岩波文庫)




訳者の作品が青空文庫にあるほどだから当然だが、なかなか古風な文体である。
しかしそれが古典的な作風の物語とマッチしていて、興味を引いた。


まずは表題作の『スペードの女王』。
これはいい意味で、古典的な内容の作品だ。言ってしまえば、これはもう因縁話なのである。

伯爵夫人が賭けに勝つための方法を知っていると聞いたゲルマンは、自分の我欲のために、不幸なリザヴェータの心を弄び、伯爵夫人の死の原因にもなった。
ゲルマンの行動ははっきり言って思いやりがない。
そんな彼に最後訪れる呪いのような展開は、まさに勧善懲悪、因果応報ってやつである。

それははっきり言ってベタで、古典的な流れである。
だがそれでもお話としては、そこそこおもしろかった。不満はあるが、これはこれでありである。



『ベールキン物語』の中では、『その一発』がおもしろかった。

侮辱を受けたために、凝った方法で復讐をしようとするシルヴィオ。
その復讐のためなら、勇気が足りないように見えても辞さないらしい。
しかしそれでいて、狼狽した姿だけ見て満足するあたり。どこか悪人でもない、人間臭さもある気がした。


『駅長』は実にひどい話である。
若い士官は確かに娘を大事に扱ったかもしれない。
だけど、父親に対する態度はあまりにもひどすぎる。娘をさらった上、尋ねてきた父親を追い出すなんて、人でなしと言ってもいい。
だけどこの手のことは当時、いろいろあったのかもしれない。
ラストは個人的に、幸福感には程遠い、そこはかとない絶望を感じた。

評価:★★(満点は★★★★★)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿