『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

1999年9月創刊。≪阪神道路問題ネット≫交流誌のブログ版。『目次』のカテゴリーからの検索が便利。お知らせなども掲載。

『みちしるべ』道路建設における環境影響評価の注意点 Vol.1**<2003.7. Vol.24>

2006年01月09日 | 基礎知識シリーズ

環境影響評価の基礎知識
道路建設における環境影響評価の注意点 Vol.1

世話人 藤井隆幸

1-1 はじめに

 このシリーズを始めるきっかけになったのは「芦屋道路問題ネットワーク」から、アセスメント(環境影響評価)の話が聞きたいと要請があった事である。4月に行われた阪神間道路問題ネットワークの月例会は、芦屋のメンバーに会場をお世話いただき、アセスメントの簡単な勉強会を行った。しかしながら、この課題は複雑多岐にわたり、1時間程度でお話できることでもない。道路問題に関る限り、避けて通れるものでもない。よって、このシリーズを計画したわけである。

 芦屋市内を貫通する市道「山手幹線」の建設にあたり、芦屋市は通過する複数自治会で構成する「地域環境を守る会」と、山手幹線に関するアセスメントの勉強会をする事が決ったそうである。当然、芦屋市当局はアセスメントを山手幹線建設の免罪符に利用しようとする。住民側は、その論理の矛盾を指摘しなければならない。しかしながら、専門家でもない住民側に知識が無ければ、言いくるめられるしかない。

 専門用語が飛び交って、何が何だか判らない内に、当局が説明は終わったとするのが一般的である。ここで重要なのは、出来るだけ多くの住民が参集する事である。「百人寄れば文殊の知恵」という諺がある。人それぞれ社会生活の中で、色々の専門分野で高い知識を持っているものである。それらが融合する事によって、当局の専門用語の解読に成功するものである。

 或る人は数学に強く、或る人は工学に強く、或る人は土木の経験者であった。また、或る人は化学に強く、或る人は気象に強く、医者もいた。これだけ揃っている事は無いにしても、この人たちが知恵を出し合えば、おそらく芦屋市当局よりも強力な論陣が張れるのは間違いない。行政当局は、国土交通省の道路行政専門分野のバックアップで、専門用語で武装しているだけで、案外「張子の虎」であるのは数多の具体例で示されている。要は行政当局も、知ったかぶりをしたズブの素人集団なのである。

 ここで注意して頂きたいのは、化学的・数学的・医学的な高度な論戦にのめり込まない事である。所詮、人類の知りえる知恵は限られた範囲でしかない。環境基準の根拠といっても、水掛け論の域を脱しないのである。大切なのは、現に地域に住んでいる人々の気持ちである。要は道路建設で不利益を被りたくないのである。環境基準内であれば、環境を破壊しても良いと行政当局は言うのであるが、住民としては環境の非悪化が大前提なのである。

 道路建設で生じた環境の悪化は、広域住民が道路建設で得られた利益で、余りある還元をされたか否かが問われている。芦屋市の市街地の道路率(面積÷延長距離)は、地球規模で類例の無い高さである。新たな道路建設は眠れる潜在交通需要を喚起し、広域に見ると交通渋滞を増やす作用がある。大切な税金をもっと有効利用する方法が、道路建設以外に無い事が、財政破綻の危機にある芦屋市においては前提で無ければならない。日本の道路建設は、明細書を公表できないほど、訳の判らない所に多くの税金が流出している。

1-2 我国に於ける環境影響評価の経緯

 環境アセスメント(環境影響評価environmental assessment)とは、開発行為を行なう場合に、自然環境にどのような影響を与えるかを調査・予測・評価すること。1997年(平成9年)6月、環境アセスメント(環境影響評価)法が成立した。政府が環境アセスメントの推進を72年(昭和47年)に決めて以来、25年目にしてやっと日の目を見たものだ。74年には中央公害対策審議会が運用方針をまとめたものの、通産省などの開発官庁や財界からの抵抗が強く、環境庁が大幅に妥協した法案すら、国会提出もままならなかった。81年には、住民参加や公開の原則を削った骨抜き法案をやっとのことで国会に提出したが、会期を7回も棚ざらしにされたあげく、結局廃案にされてしまった。

 84年、閣議決定により、国が関与するダムや高速道路、空港など11種の大規模開発についてアセスメントを実施することを決めた。しかし、法的裏付けもなく、住民に開かれていない不充分なものでしかなかった。このために、77年の川崎市を皮切りに、地方自治体は国に先行して独自のアセスメント制度の整備に乗り出した。96年末現在で、42都道府県、9政令指定都市が環境アセスメントを制度化していて、このうち川崎市、北海道、神奈川県、東京都、埼玉県、岐阜県(施行順)では条例となっている(その他の自治体は要綱など)。

 96年、橋本首相の諮問を受けた中央環境審議会は97年2月、「行政指導のみのアセスメントではなく、早急な法制化が必要である」という答申を提出、これを受けた環境庁はアセスメント法案を国会に上程、6月には83年の廃案から実に14年ぶりに環境庁にとって悲願ともいえるアセスメント法が成立した。

 しかし、その内容を見ると自治体や住民の意見から調査項目を決める「スコーピング」や、一定規模以下の事業でも対象とするかどうか判断できる「スクリーニング」を制度として盛り込んだり、通産省が最後まで抵抗した発電所を対象事業としたなどの評価できる点も多いものの、アセスメントをするのも、アセスメント結果を許認可に反映させるのも、通産・運輸・建設などの主務官庁であることを考えると、どこまで実効性があるか、楽観視はできない。環境庁長官が意見を出せる仕組みが制度化されているが、要は開発に対していかにきちんと口を出すことができるかである。97年の諌早湾閉切りの際に、農水省との摩擦を恐れて、環境庁長官の現地視察が直前に中止になったが、こんなことではアセスメントで環境庁がきちんと発言ができるか、極めて疑問である。これがアセスメント法を実効性のあるものにできるかどうかが、環境庁にとっての試金石であるといわれる所以である。

 このようにして成立したアセスメント法だが、先進国(OECD加盟国)の中では日本が最も遅い法制化であったことを考える必要がある。内容的にもとくに進んだものではない。現在、先進国の間ではもっと長い展望をもった戦略的環境アセスメント(SEA)導入の機運が盛り上がっている。これは、個々の事業についてのアセスメントだけでは、国や地域の全体の環境を保全していくのは困難であることから出たもので、国のすべての計画や長期プラン全体に対してアセスメントの網をかけていくという考え方である。SEAはカナダ、オランダ、デンマークでは導入済みで、欧州連合(EU)も検討段階に入っている。

『現代用語の基礎知識1999年版』自由国民社編より

1-3 身近な環境影響評価の例

 私たちの阪神間道路問題ネットワークの仲間でも、過去に幾つかのアセスメントで当局とわたりあった経験がある。中国縦貫道と山陽自動車道のジャンクション付近で活動する「中の自然と住環境を守る会」は、第2名神の環境影響評価に対応した。都市計画案が94年に縦覧され、兵庫県の環境影響評価要綱(条例ではなく拘束力は無い)及び、神戸市の同要綱によるアセスメントが行われた。まだ、国の環境アセスメント法が制定される前のことである。

 この頃は都市計画案と同時に「環境影響評価準備書」が一定期間縦覧(数週間程度)され、それも限られた場所で職員の就業時間内という、一般の人が見られる状態ではなかった。数百頁に及ぶ「準備書」は持ち出しどころか、コピーも許さないのが一般的であった。そして94年末の県都市計画委員会で一人の委員を除いて、何も判らない委員達が賛成して、「準備書」は変更される事無く「評価書」となったのである。

 兵庫県の都市計画委員会では傍聴は出来ないのだが、県民が意見を述べる事(それは委員会の休憩中ではあるが)が許されている。「守る会」は他団体とも共闘し、3名の意見陳述をする事に成功した。1人5分の制限であるが、都市計画委員の中に1人でも住民側に立つ委員がいれば、質問をしてもらえるので、事実上の時間延長になる。

 都市計画委員の構成は半分が、その議会の議員で半分が、学者及び有識者というのが一般的だ。住民運動に理解のある党派の議員を増やす事も必要だが、芦屋市・宝塚市のように、住民からの公募委員枠を獲得する運動も必要ではないだろうか。また、西宮市や芦屋市では、都市計画委員会の傍聴が認められているが、総ての自治体に広げる必要がある。また、兵庫県のように意見陳述が出来る事も必要である。そう言った運動を広げる必要も痛感させられる。

 次に、先頃供用された阪神高速北神戸線の東伸部が、水道水源の金仙寺湖(丸山ダム)を通過する問題で、「北部水源池問題連絡会」が関った環境影響評価である。これも環境アセスメント法制定の前で、92年6月に「準備書」が兵庫県要綱により県から縦覧された。関係都市の西宮市でも縦覧されたが、この時は1日だけの持ち帰りとコピーをする事を勝ちとった。

 「連絡会」と協力関係にある3団体で、6通の意見書を組織したが、結果は前述の「守る会」と大きくは違わない。その後の知事交渉の結果、県・市・公団・連絡会の4者協議会を勝ちとる事が出来たのは、大きな成果であった

 また、現「山手幹線の環境を守る市民の会」は、市道での運動であったので、本来、環境影響評価の対象外であった。しかし、粘り強い運動の結果、西宮市は環境影響評価を実施し、沿道住民に公表した。西宮市でのこの成果が、運動を応援した芦屋市の山手幹線沿道住民にも波及した事は、共同の成果といえるだろう。

 他にも、毎年秋に行われている「道路公害反対運動全国交流集会」でも、多くの環境影響評価をめぐる運動の結果が報告されている。昨年11月9~10日に京都教育文化センターで行われた「全国交流集会」には、阪神間道路問題ネットワークからも6団体9名が参加した。B4判の百数十頁に及ぶ資料集の中には、多くの経験が集約されている。

 さて、国の環境影響アセスメント法案が環境庁から出されるに当たっては、広く国民からの意見を募集された。「全国交流集会」の連絡会や「公害なくせ!県民集会」の事務局長の故、井上准一氏には、大変お世話になり、私も意見書を出した記憶がある。残念ながら、非常に問題点も抱えながらではあるが、法律制定という新たな段階に達したのは前進である。これをどう発展させるかは、今後の私たちの運動にかかっているといえよう。

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 前書きが長くなってしまったが、次回から本論に入る事になる。まずは、道路環境アセスの基本となる交通量予測について、注意点を指摘したい。

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