人を引っ張り込む力がすごかった
【故 砂場徹さんの追悼文】
みちと環境の会 神崎敏則
砂場さんとの出会いは、5月3日に憲法集会を開催するための実行委員会の場でした。1998年の3月頃だと思います。実行委員会では、企画内容と事前に賛同人をできるだけたくさん集めることが主な議題でした。何度目かの実行委員会が終わった時、「ちょっと君に話があるんや」と言われ、近くの店に二人で入り、軽い夕食とビールを摂りました。
砂場さんが言われたのは、賛同人の集まり具合がまだ不十分なこと、当日の参加状況を心配していることの二点でした。一時間程度の話でしたが「なんとかこの集会を成功させたい」との思いが、ひしひしと伝わってきました。当時僕は勤務先が変わったばかりで、正直なところ「それどころではない」気分でしたが、砂場さんの話を聴いていると「すこし自分も無理しようか」という気持ちに切り替わりました。なぜそんなに短時間に切り替わったのか不思議なのですが、ともかくその日の帰り道に自分の中で決意がわいてくるのを感じました。手元の資料を見ると、最終的には78名が賛同人に名前を連ねました。当日の集会も成功しました。
僕が『みちと環境の会』にかかわり始めたのは8年ほど前からです。パソコンを打つのが早いという理由で『青空だより』の版下をつくる担当になりました。
『青空だより』の仕上がりを見た砂場さんから時々注文が突き刺さってきました。「僕のところの『みちしるべ』を見てみい。書き手も多いし、いつも20ページやそこらになってるやろ。内容も豊富や。君のところももっと工夫をせなあかんし、書き手をふやさなあかん」と何度か言われました。注文内容はまさしくその通りでしたので反論できませんでした。でも内心では「えっ?それってどういう意味?」と聞き返したくなりました。「確かに砂場さんは『阪神間道路問題ネットワーク』の代表だけど、現役の『みちと環境の会』の運営委員なんだから、僕は砂場さんと一緒に活動しているはずじゃないの?」と少なからぬ違和感を覚えました。今から考えると、砂場さんの中では、“僕のところ”と“君のところ”と明確な区別を意図的につけていたのかも知れません。
『みちと環境の会』が尼宝線の拡幅整備問題に本格的にかかわり始めたのは04年2月からです。工事区間の沿道の住民のお宅を訪ねて項目の多いアンケート用紙に書いていただき、それを集めて回りました。そのアンケートを集約すると、多くの住民の方が、排ガスや騒音、振動、安全問題などに不安を感じていることが分かりました。よしこれから住民が話し合っていく場をつくろうと『みちと環境の会』の運営委員会で提起した時のことです。拡幅整備反対を前面に出すか、それとも中途半端な拡幅整備ではなく24m幅員(行政の案は幅員18m、歩道2.5m)にして自転車道と歩道とを分けた立派なものを要求するかで、議論になりました。この時、砂場さんは自らの意見を主張するのを途中からやめました。それは、いつもの砂場さんとは正反対なくらいに穏やかに主張しなくなりました。この文章を書きながら思うのですが、“ここから先は君のところの問題やから、自分の思った通りに一生懸命に頑張れよ”とこの時に託されたのかもしれません。でも、ここからが大変でした。
毎月『沿道住民の集い』を開いて、できるだけたくさんの住民のみなさんに参加してもらうように事前にニュースを手配りして回りました。でも、なかなか住民の参加者は増えませんでした。それでも、ニュースを配りながら話をすると、住民の関心の高さが実感できました。
あるお宅のインターホンを押すと若いお母さんが出てきて、「うちの子供が2階で窓を開けて昼寝をしていたら急にせき込みだして、あわてて2階に上がって窓を閉めました」と話されました。その人は、ニュースを手に取るといつも食い入るように読み始めます。毎月のニュースを待っている住民が少なからずいることを、ニュースを配るたびに実感していました。でも『沿道住民の集い』の参加者はいつまでたっても増えませんでした(今もそうです)。そのうち、『みちと環境の会』の運営委員会では、「住民はあきらめている」という意見が出はじめました。至極もっともな意見なのですが、この状況を突破するには、議論で打ち負かすことではなくて、「住民はあきらめてへん」という運動をつくりだすしかない、『沿道住民の集い』の参加者が増えればこの議論は自然と収束するのだから、参加者を増やすことを必死でやろう、と思っていました。でもやってもやっても参加者は増えませんでした。自分でもびっくりするぐらいに増えませんでした。そんな時に「砂場さんだったらこの状況を変えてたんやろなあ、人を引っ張り込む力が砂場さんと僕とで全く違うんやろなあ」と思っていました。今のところ僕の惨敗です。でも、まだまだあきらめるつもりはありません。砂場さんに胸を張って報告できるように、また頑張ります。
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