『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

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『みちしるべ』分断が進む一方で、行政不信も強い被災者**<2014.1. Vol.82>

2014年01月17日 | 神崎敏則

分断が進む一方で、行政不信も強い被災者

尼崎・神崎敏則

≪第81号(2012年11月)掲載「富岡町の復興ははるか遠い道のり」の続編≫

仮設住宅の被災者――行政への不信はぬぐえない

 翌日は、いわき市内の仮設住宅に行き、そこの自治会長さんのお話を伺いました。中央台高久第1仮設住宅(地図によれば第10まである)のN自治会長、途中から生活支援相談員のKさんも合流してお話していただいた。

 第1仮設住宅は2011年5月から入居。最初にできた仮設なので、至急入居を要する人が入った。189世帯のみなさんは、いわき市の全域と双葉郡のあちこちの町村の方だ。他の仮設は市町村ごとに、例えば広野町からの避難者の仮設住宅、あるいは、楢葉町からの避難者の仮設住宅とかためられている。

緊急時に一番肝心なのは情報、なのに届かない

 N会長は震災までいわき市久之浜町に住んでいた。いわき市は、面積1,231㎢(尼崎市の25倍近く)で太平洋に面する海岸線は60㎞もあり、沿岸部は津波の被害にあっているが、いわき市全体ではそれはほんの一部になる。久之浜町も津波被害を受け、町の人口6,000人のうち10名不明、60数名が死亡した。

 福島では、地震と津波の後で火災も発生し久之浜町では60軒以上が燃えた。そして原発事故が顕在化した。

 久之浜町では、防災無線が鳴らなかった。防災無線がきちんと鳴っていれば、被害がいくらか少なかったかもしれない。その代り、消防車がマイクで津波警報を流していた。その消防車も津波にもっていかれた。

 N会長の自宅は海から500mも離れていたが、2m以上の波が来て、畳や床板を天井近くまで持ち上げ、家の中にはガレキがつまった。

 震災の日は寒くてみぞれまじりで、避難先では、非常用の毛布の数が足りず、取り合いになった。ストーブはあっても灯油がなかった。寒くてしょうがなかった。非常用備品は全く足りなかった。

 自宅で寝たきりの人が中学校の保健室に運ばれていた。保健室のベッドも足りなかった。

 地元の先輩が避難所で泣いていた。孫と自分の嫁が流されたと言っていた。かける言葉がなかった。

 津波にのまれるとき、奥さんを握っていた手が離れて、奥さんだけが流された友人もいた。

 3月12日の朝、1回目の原発の爆発の時、屋内退避を指示されていただけで情報がこなかった。たまたま外出していると、消防から駅舎内に入るように言われたので入ると、扉が閉められた。1時間はそこに入れられていた。その日の昼に地元の中学校に行こうとしたら検問がはじまっていて「中学校に行っても誰もいないよ」と言われ、「それでも用があるので」というと、「自己責任で」との返事だった。市民には知らせずに、行政の側は緊急対応をしていたのだろう。

分断されている被災者

 第1仮設の189世帯のうち原発の補償を受けているのは約20世帯。やはり補償を受けている人と受けていない人との間で軋轢があるそうだ。

 双葉郡からの被災者といわき市民の被災者との間にも溝があると言う。「ゴミ出しでは、分別がきちんとできていない」、「双葉郡の人の自動車の運転は、怖くて、車間距離を大きくとらないとこちらが巻き込まれる。何故って、ウィンカー出さずに平気で右折するから。とろとろ走る車がいたら、双葉郡の人だとすぐ分かる」など、簡単に乗り越えられる溝ではなさそうだ。

政府からも県からも見放されているのか

 「海辺の町の復興では、『高い堤防を造ってくれ』という人が多い。でも高い堤防を造ると海の様子が分からなくて、余計に危険だ。それよりも、家が無くなった人の家を建ててほしい」とN会長は熱弁をふるった。

 「双葉郡の子ども達が、線量の低いいわき市の仮設にいるのに、わざわざバスを出して線量の高い小中学校に通学させている」そうだ。子ども達の安全が優先されない。当たり前のことが通らない。理不尽なことを福島県民はずいぶん味わわされた。

 Kさんは言う。「東京でオリンピックをやるのをよろこんでいる福島の人はいません。とんでもないことがはじまったとみんな思っています」と福島県民の思いを代弁する。いまだに苦渋のただ中に福島県民をおいておきがら、それを忘れたかのような政府や日本国民。
 県立医大による健康管理調査がおこなわれている。

 調査の主旨を県のホームページから引用しよう。「福島県では、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故による放射性物質の拡散や避難等を踏まえ、県民の被ばく線量の評価を行うとともに、県民の健康状態を把握し、疾病の予防、早期発見、早期治療につなげ、もって、将来にわたる県民の健康の維持、増進を図ることを目的とし、『県民健康管理調査』を実施しています」と謳う。しかし県の本音は、県民が数年後に仮にガンなどの疾病にかかった際に、「原発が原因ではなかった」、「東電への賠償は発生しない」、と言いくるめるための調査である事を感じているのだろう。(※注)

 県民は政府からも県からも見放されているのかもしれない。

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(※注) 毎日新聞記者・日野洸行介著『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』(岩波新書)によれば、「2011年9月の県議会で、子どもの内部被曝を調べるため乳歯の保存を県民に呼びかけるよう提案する自民党県議からの質問に対して、(中略)当時の福島県の保健福祉部長は『さまざまな意見があるようだ。今後研究したい』と述べるにとどまり、その後、福島県が何か具体的な行動を起こすこともなかった」そうだ。乳歯を保存しておけば、ホールボディカウンターですら放射性物質のストロンチウム90の内部被曝を測定できないが、事故後に抜けた乳歯を分析することで内部被曝を後から証明できる可能性がある。

 著者は、同年12月19日の朝刊に事実関係をつかんで批判記事を書き、広く県民の知るところとなった。

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