『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

1999年9月創刊。≪阪神道路問題ネット≫交流誌のブログ版。『目次』のカテゴリーからの検索が便利。お知らせなども掲載。

『みちしるべ』**緑の山河は誰のもの**<2000.4. Vol.4>

2006年01月02日 | 北部水源池問題連絡会

緑の山河は誰のもの

北部水源池問題連絡会 北神 雄一郎

 「緑なす祖国日本を目指していた中国からの引揚者を乗せた帰還船・興安丸が、ここ舞鶴港の沖合にその姿を現し始めました。、、、」中国からの帰還船の入港を告げるラジオ中継の声が、昭和20年生まれである私の耳に今も妙に残っている。

 その日から50余年、無一文からスタートし高度成長の波に乗った日本は、世界にその経済力を誇示するまでになった。しかし、やがてむかえるバブルの崩壊でそれまで蓄積してきた果実は泡と消え、いまは不況の大波に翻弄されて、全ての自信を失い自己喪失の状態に陥ってしまった。しかし、今もなお昔の夢を追い求める面々は、「景気回復には公共投資が有効」と、いわゆる従来型の公共事業に巨額の予算を計上し、その結果、国全体で約六百兆円にのぼる累積債務を抱えることになった。公共投資による景気浮揚は期待できないということは、ここ数年の経済動向で実証されているはずなのに。

 最近、愛知万博の跡地を住宅地にするという利用計画が万博国際事務局で否認され、国や県の慌てふためく様が大きく報道された。もし、いま私たちが取り組んでいる阪神高速道路公団の北神戸線東伸部建設計画も、国際的な審査機関があったとしたら、「ルート上に水道水源がある。」という理由で計画の変更をせまられたはずである。

 数年前、この計画について、地権者の住む山口町の有力者と話し合う機会があった。有力者に私たちの思いをこめて計画の問題点を説明し、ルート変更によつて水源池を避けるよう、行政に対して共に提案できないものかと理解と協力を求めた。しかし、この有力者は次のように語った。

 「あんたらは緑の保全や水質保全を言うけれど、最近になってここに越してきた君らと私らの考え方は根本から違うんや。私らかて霞を食って生きているわけやない。緑を見てるだけで腹は膨れへんで。私らの山林や田畑などの財産を、どない処分しようと所有者の胸先三寸と言うものやで。第三者からとやかく言われる筋合いはない。これは憲法で認められた個人の権利や。山林や田畑も金になってこそ、値打ちがあるというもんやで」さらに、「町のためになるこの計画に反対はできん。私らは、あんたらとは違って行政のすることに不信感はあらへん。」と言い切って話を結んだ。

 この話し合いで私達の心には虚しさだけが残った。戦後のゼロからのスタートから、今日に至る経過の中で、いつとはなしに皆が「金さえあれば」という拝金主義にまみれてしまったのだ。採算のとれなくなった山林や田畑が、公共事業によって買い上げられ、お金持ちになったという開発ドリームは数えきれない。

 自然環境を破壊してまで、鉄とコンクリートで構築される無機質な道路や橋梁などがこれ以上必要なのであろうか。多くの無駄が指摘されている従来型の公共事業に、湯水のごとく資本を投下するという手法から脱却し、本当の意味での「国づくり」とは何かを考える視点が必要な時期にきているのではなかろうか。

 このままでは、国の破産という重大な事態を招きかねない。そのような事態に陥って困り果てるのはいつも名のない庶民である。そして、このことは、すでに五十年あまり前に体験した歴史的事実でもある。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『みちしるべ』昼夜を問わず... | トップ | 『みちしるべ』交通渋滞概論②... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿