『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

1999年9月創刊。≪阪神道路問題ネット≫交流誌のブログ版。『目次』のカテゴリーからの検索が便利。お知らせなども掲載。

『みちしるべ』**「抑止力」について**<2015.7. Vol.90>

2015年08月06日 | 川西自然教室

「抑止力」について

川西自然教室 田中 廉

 安保法案について何か書きたいという気持ちがあるのだが、資料を調べるという作業が進まず今回は諦めることにした。

 ただ、「抑止力」について疑問に思うので少し述べたい。「抑止力」には軍事面だけでなく、交渉力、経済、人的交流などがあると考えるが、今回法案推進派のいう「抑止力」の主たる部分は「軍事力」だと思うので、ここでは「抑止力=軍事力」として話を進める。「抑止力」が本当にその国を侵略から守り「平和」を保証するのだろうか?

 もしそうであれば、最大の軍事力を誇るアメリカは戦後70年間どうして戦争をし続けるのだろうか? 確かに自国は攻撃されていないが、多くのアメリカ兵が死傷し、また、その戦費(特にベトナム戦争)によりアメリカ経済は大きな痛手を被った。第2の軍事大国であったソ連もアフガニスタン戦争で双方に多大な被害を与え、結局その「抑止力=軍事力」維持のため経済が圧迫され、それが主因で政権は崩壊した。

 双方とも、その「抑止力」を使って海外で戦争を行い、自国民、他国民、そして戦場の生き物に甚大な損傷を与え、その国の国民の憎しみを買っている。少なくとも両大国では、自国侵略阻止の為に「抑止力」が働いているわけではない。資源を確保し、自陣営の経済圏を守るというが、それは粘り強い交渉で解決すべきものである。

 イラクのフセイン首相がいかに「ならず者」でアメリカに反抗的で、自国民の弾圧があったとしても、またイスラエルにとって目の上のたんこぶであろうと、「大量破壊兵器を所有している」などのウソの理由で戦争を仕掛けるなど、言ってみれば言いがかりでケンカを吹っ掛ける「ならず者」と同じである。アメリカの中東介入は「パンドラの箱を開ける」と中東関係の識者によって懸念されたが結局はそうなった。大きな重しを外された中東は収拾のつかない状態である。そして、アメリカは手を引けば親米政権は崩壊し、石油などのアメリカの権益を失うので、引くに引けず泥沼にはまった状態である。

 米国が安倍首相の訪米を上下両院会議で演説をさせるなど大歓迎したのは何故か? アメリカは、尖閣諸島は日本領土であると認めていない。そこで、日本のために、強大な市場出会を失い、国債(借金)の最大の購入国を失うデミリットを冒してまで中国と軍事衝突をする危険をとるとは非常に考えにくい。日本に期待するのはアメリカの戦費削減の穴を日本に埋めてもらう、つまり、一番金のかかる戦争、中東での「対テロ戦争」を手伝ってもらうことではないか。

 中東諸国は非常に親日的である。どんな理由を付けようともアメリカの手伝いをすれば自衛隊員が殺し、殺すこととなり、日本が営々と築いてきた平和国家のイメージは崩壊し、中東での日本の評価は庶民レベルでは大きく地に落ち、中東でのNPO・NGOの人たちが攻撃され、活動の大きな障害になることは間違いない。

 話が横にそれたので元の「抑止力」に戻る。「抑止力」が働くためには、少なくとも相手と同等の戦力を保持するか、攻撃に対しては相手にもそれ相当の被害を与える程度の軍事力を持つ必要があるという。ただ、そこに落とし穴があるような気がしてならない。両国間に何か重要な権益にかかわる問題が起こった場合、特に、領土などではお互い「自国だけが正しい」と主張し、「メンツ」がかかるような場合、交渉による妥協が難しくなるのではないか。

 機密保護法で、国民には政権に都合の良い情報しか与えらず、交渉が難航するとお互いの国のマスコミが、相手の国に対する憎悪を高め、勇ましい意見が幅を利かすようになる。反対意見に対しては「国賊」、「非国民」、「売国奴」などの汚い言葉が新聞、ネット、TVで叫ばれるようになるだろう。その時点では、政権内部であっても現実主義派がまっとうな意見は言いにくく、又は言えない雰囲気になる。相手に負けない「抑止力=軍事力」があればあるほど何故譲歩するのかとの大衆の不満を抑える為にも、軍事力をちらつかせた交渉になるのではないか。

 交渉には、相手はこう出るであろうという読みがあり、相手の反応によっていろいろと戦術を練る。先の両大戦、そして湾岸戦争などのいろいろな戦争、紛争の後、講釈というか、記録、証言などを見ても、相手の意図を読み違えたり、望んでいないのに戦争に引っ張り込まれたなどの記述がある。

 「抑止力」が強力であればあるほど、自国に都合のいいように状況を解釈し、妥協できず武力衝突に流されていく可能性が高くなるのではないか? 「抑止力」がなければ常に交渉で譲歩を強いられるというのは果たしてそうだろうか? 弱ければ常に妥協を強いられ最後は侵略されてしまうものだろうか?

 そうであれば、圧倒的な軍事力を持つ、アメリカ、ソ連が戦後も国土を広げていたであろう。戦後、国際的に認められている国境を越えて国土を広げようとしたのはフセインのクエート侵略、そして現にパレスチナ領に侵略し続けているイスラエルぐらいではないだろうか。

 軍事力には国によって差が大きい。だからと言って強い国の意見がいつも通るわけではない。ごり押しすれば失うものも大きいからである。自国の安全ということを考えると、隣国と友好関係にあるのは最大の安全である。軍事的な脅しで解決しても友好関係は築かれない。結果、おのずから双方に少し不満がくすぶることもあっても、妥当なところに落ち着くのではないだろうか。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『みちしるべ』**ちゅら海③... | トップ | 『みちしるべ』**今こそ 憲... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿