『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

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『みちしるべ』**「はり半跡地開発問題」開発許可取消訴訟**<2010.3. Vol.63>

2010年03月02日 | 前川協子

「はり半跡地開発問題」開発許可取消訴訟
第1回公判(神戸地裁 2010/2/9)に於ける意見陳述

原告団代表 前川協子

1. 私は甲陽園に移り住んで30年余りになります。

 その頃同居していた主人の母が「まるで故郷に帰ったようだ」と緑に囲まれた静かな環境を喜び、穏やかな晩年を過ごすことができました。

 その後、昭和の高度成長期から平成のバブル期にかけて、当地は開発ラッシュとなり平和だった甲陽園も発破の音や工事騒音に悩まされるようになりました。

 新たなマンション建設のたびに豪雨時は土砂崩れや道路の陥没、鉄砲水が起き、近隣住民が「これではおちおち寝ていられない、何とか対策を」ということで、東山町自治会としては平成2年に「快適環境・安全推進宣言」を行い、風致地区にふさわしい「まちづくり」を心がけ、行政と業者に対しても「開発事業の場合は、住民との合意形成を諮り、紳士協定を結んでからの円満な着工を!」と呼びかけました。

 幸いに当時の背景として、西宮市が全国に先駆けての「文教・住宅都市宣言」を行ったことや、事業者側にもそれなりの社会貢献意識のあったことが、住民協議に役立ちました。

2. しかし、残念なことに、阪神・淡路大震災後は、規制緩和や特例措置に乗じた、ファンド系企業が土地転がしに走り、その結果、地元の基盤整備や公共設備をないがしろにしたままで、投機的なマンション建設ラッシュになりました。

 その最たるものが、本件の開発計画です。

 西宮市が作成した断層図や業者の行った複数回にわたる地盤調査を分析した専門家の意見によれば、本件開発区域の南側と北側には甲陽断層と甲陽園断層が走っています。また、兵庫県が指定した「土砂災害警戒区域」に含まれ、開発区域を縦断する水路の上流は「土石流予想危険渓流」に含まれています。しかし、開発業者は、事前の水位調査など十分な調査も行わず、行政もこれを黙認しているのが現状です。

 また、本件開発区域の南斜面下辺りには、旧海軍の地下壕跡が存在しており、兵庫県は当初、事前調査の実施を指示していましたが、結局開発許可前の調査は実施されませんでした。

 更には、本件開発区域を縦断する渓流の埋め立てによる水路の付け替えや、マンションの居住棟地階最下部に大規模な調整池を設ける等、これまでの開発行為でも例を見ないような異様な計画です。

 本件開発区域のような谷地形の所に、切土・盛土による宅地造成を行うことは、阪神・淡路大震災時に造成地における土砂災害で34名の人命を奪った仁川百合野地区に匹敵する惨禍を招きかねません。

 また、近年の異常気象による豪雨災害(一昨年夏の兵庫県都賀川事故、昨年夏の山口県防府災害、兵庫県佐用被害等)を目の辺りにし、それら被災地と本件開発区域との類似性を考えると、私たち住民は.いつ自分たちの住んでいる場所で同様の災害が起こるかと不安で一杯です。

 このように自らの経験から本件開発行為の危険性を予測している周辺住民は、無謀な乱開発に反対する署名約14,000筆を西宮市に提出しました。

 そして、私達は、その危険性を指摘し、周辺地域に住む住民の命と財産を守るために、当初から事業主に対して、真摯な住民協議を求めてきました。しかし、事業主とその代理人の不誠実な対応、高圧姿勢は変わることがなく、説明や資料も不充分なままで今日に至っています。

 このような経過にもかかわらず、西宮市は、住民からの危険性の指摘を無視して、この開発計画を容認し許可しました。

3. 止むなく私達は、市民を守り切れなかった市の開発行政をただすために開発審査会に対して審査請求を行ったのですが、結局は、市の許可を追認するだけの結果となりました。

 公正な審埋を期待していた私達は、裁決書を見て初めて、審査会が公費で鑑定を依頼した先が、本件開発工事を受注している業者が賛助費を納付し賛助員に名を連ねている団体であり、その鑑定結果によって私達の請求が退けられたことを知りました。

 このような開発審査会の姿勢は、本件に先行して提訴した「水路使用料の未徴収」住民訴訟の勝訴判決から証明された西宮市の監査委員の不実さとも相通じるものです。

4. あくまで私達のコンセプトは「住居は人権」であり、「安全安心なまちづくり」に資する長期的なパートナーシップを行政や業者に期待しているのです。

 従って私達は、真の意味での行政の役割と責任を問い、私達が暮らす地域の災害を防止し、今、甲陽園に住む子ども達がやがて未来にむかって羽ばたくときに、「終生の故郷」として甲陽園の素晴らしい自然環境や風土文化を生きるよすがにしてくれたら・・・という思いで提訴に踏み切りました。

 裁判長におかれましては、本件に係る数多くの問題点にご理解を戴き、英明、公正な御判断によって、本件許可処分と裁決を取り消して頂きますよう、切にお顔い申し上げます。

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