『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

1999年9月創刊。≪阪神道路問題ネット≫交流誌のブログ版。『目次』のカテゴリーからの検索が便利。お知らせなども掲載。

『みちしるべ』マンボウのある街**<2003.3. Vol.22>

2006年01月08日 | 山川泰宏

マンボウのある街

甲陽線地下化を考える市民ネツトワーク
山川泰宏

 西宮市の南、酒蔵通りを東西。そして夙川沿い南北。この地域は脚光を浴びている。人々は「Lライン」と呼んでいる。一つの観光スボットの散策が、話題になりつつある。それは、街の活性化に喜ばしい現象である。震災後に新しく脚光を浴びつつある、新しい街並みと、酒醸造の香り漂う風景。夙川沿いの緑と川面のせせらぎに癒され、ショウウインドウごしに引きつけるケーキの誘惑。そして音に変わらぬ風景、自然と緑豊かな街が変貌しようとしている。しかしまだ変わらぬ風景が残されているのも、この街の魅力なのかもしれない。

 ……奥畑ひとりニコニコして「そうだったか、此の近所に来ていなさるのか。そんなら一辺、僕所へ遊びに来たまへ。僕所はカドを越えた直きそこだ。……と言いながら、そのマンボウの入口を指して……僕所はあの一本松傍やよって直き分かります。」

 谷崎潤一郎の名作「細雪」の中で、妙子の姉の雪子の女中、お春と妙子の恋人、奥畑との阪神国道の西宮戎神社停留場で出会うひとこまである。(南野武衛著・西宮メモより引用)

 国道2号線北側のJR。土盛りした線路下に、今でも人が通行てきるマンボウがあり、人々は板敷きのカタカタとした音をたて往来している。踏切を待つことのない至極便利な交通路である。背を幾分屈み込んだ姿勢、自転車を押しながらマンボウを出ると、其処は閑静な住宅街。2号線の喧噪な雰囲気が一変し、小説の世界に身を置いたような風景が感じられる。線路沿い東へ歩き、初めの路地を北に向かうと、突然目の前に一本の松が飛び込んできた。松(クロマツ)は頑なに、俺の居場所は此処だよと、道路がよけて作られている。松の傍らには一本松地蔵尊の祠があり、其の前に「史蹟往古武庫菟原郡界傅説地」碑があり、西宮市の保護樹木(平成14年2月22日指定)の掲示が見られる。松の生きる姿に頑固な親父の容姿がだぶって目頭が熱くなる。

 再び歩むと新しく共用された山手幹線、西に向かう。建石筋(県道大沢西宮線)の交差点から、北方向は拡幅工事の最中。眼前の甲山を目指し、北上する。若松町・南郷町側に、新しく作られた広場(ポケットパーク)、美しい街路樹、季節の花々に抱かれた道路が、と感心する。

 しかし、共用された道路は車社会の便利さのために、騒音・排ガス等で環境が損なわれる。道路脇の広場。誰が利用するのかと思えば、摩訶不思議な光景が突然目の前に現れた。人間社会を無視した設計・施工は、自然と環境に配慮した都市計画なのかと、暗澹たる思いにさせられます。おまけに幼子の手形をモニュメントにして広場に置くこと、行政そして地域の自治会の住民にも、未来を見据えた計画を考えた人々がそこにいたのか。未来の子供達に今から詫びたい思いがある。世の大人達よ、もう少し声を出そうではありませんか。今、物を作るだけでなく、未来の街に相応しいかどうか考えて、生み出すことを教えてくれたように思われた。

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