『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

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『みちしるべ』道路公害被害の基礎知識 Vol.2**<2005.1. Vol.33>

2006年01月12日 | 基礎知識シリーズ

道路公害被害の基礎知識

国道43号線の実態から Vol.2

世話人 藤井隆幸

 国道43号線は西淀川大気汚染訴訟・国道43号線公害訴訟・尼崎大気汚染訴訟の三つの裁判で、いずれも国の設置管理の瑕疵(欠陥)が判決で確定した。そのために現在、民家は道路端から最低でも9m離れており、その多くの民家(商業施設も含む)は国に買い上げられている。従って今尚、居住する沿道住民は少なく、その受ける騒音レベルなども、他の幹線道路沿道住民と較べて、数値的には大差がないのが今日的状況である。

3-1 国道43号線の交通分析(物量)

 前号でお休みを頂いたので、Vol.1を少し振返っておこう。テーマは「交通量だけ見ていては、公害の実態を見過ごす」ということだ。単に交通量が多いことが、被害に直結しているわけではない。交通量調査の殆どは、大型車と小型車の2車種分類である為、実態が分かりにくい。大型車といっても、1t車から総重量100tを超える特殊通行許可車まで、様々である。その公害発生の差は、数10倍程度の差にはなるのである。従って、具体的交通の実態を把握する必要がある、ということであった。

 国道43号線の場合、神戸港という世界的にも巨大で、日本でも最大級の物流拠点を、その一端に控えていることが特徴といえる。また、他方には大阪港を控えており、衰退したとは言え、大阪湾岸のコンビナートから発生する物流も半端ではない。公害の発生量が巨大なのは、そのような地理的位置に起因する。

 ともかく、物量の多さは桁外れで、他の幹線道路で肩を並べる道路は限られている。最盛期には阪神高速3号神戸線と併せて、日交通量20万台を超えていた。また、大型車の混入率も20%台後半を維持している。

3-2 国道43号線の交通分析(質)

 物量の多さは、質の変化をもたらす。トラックやトレーラーの大型化も、一般の幹線道路では見られないものがある。トラックの総重量は法律の定めにより、総重量(車体重量と積載重量の合計)が20t以内である必要がある。大型ダンプは例外規定で、車体重量が15tで最大積載量が10tということになっている。総重量は25tである。一般的に積載量を倍の20t程度積んでいることが多いが、それでも総重量は35tでしかない。国道43号線でみる大型トラックには、過積載のダンプを超えるものが多い。

 

 一般的な大型トラックは11t車である。車体重量は9tで最大積載量は11tということになる。9tの車体構造は脆弱で、20tも積載すると車体がもたないということになる。11t車の車軸構成は前1軸・後2軸のものが多い。同じ9tの車体構造でも、前2軸・後1軸にすると、シャーシ(車体の背骨)が脆弱でも、分散して支えることが出来るので、過積載に都合が良く、一時流行した。しかしながら、30tの積載をすると、後軸にかかる重量が16~17tになってしまう欠点があった。

 

 車両総重量20tで規制されていても、全長18mにも及ぶトレーラーがまるまる収まるスケール(重量計)を、幹線道路沿いに簡単に設置は出来ない。その為、路上での積載量取締りは、何処にでも運べる軸重計で行われる。一番重くなる軸重が10tという規制になっている。スピード違反でも10km/h以下の違反を罰する制度はないのと同じで、13t以下の軸重に罰則は適用されない。そこで考えられたのが4軸車である。4軸に上手く重量を分散できれば、総重量52t(13t×4軸=52t)までは取締りに遇わなくなる計算である。車重が12tになってしまっても、40tの積載を取り締まられることはないのである。

 ここで特殊通行許可の制度を説明しておかなければならない。例えば、大型工作機械や船のエンジンなど、分割して運べないようなものが、結構多く発生する。実は、今日普通に見られる海上コンテナ・トレーラーも、重量に於ける特殊通行許可車なのである。夜間や早朝にユンボ(ショベルカー)を積載したトレーラーを見かけるが、大型ユンボは30t~50tの重量のものが多い。これは重量ばかりでなく、車幅が法定の2.5mを超えて3.2mにもなる特殊通行許可車となる。特殊通行許可車は車両登録で許可を取り、道路管理者(殆ど国土交通省の地方整備局)に許可を取ればよいことになっている。高さでは低い高架橋などないルート、幅では狭隘なルートは避ける。重量では旧式な構造の橋梁のないルートを指定される。通行時間帯も、一般的には深夜を指定されることが多い。危険な場合は、黄色の回転灯を装着した伴走車の先導を指定され、低速を指示され、本体にも赤いランプの装着を義務付けられる。

 一度通行許可を取れば、期間内は自由に制限を守れば通行可能である。たいていの場合は、許可が出ないことはない。単体重量物積載車で許可を取っておきながら、分割可能な鋼材を搬送していることが一般的であるが、当局も必要悪と認めている向きがある。

 国道43号線で問題となる重量車は、セミトレーラーである。トレーラーの種類には、トラックがトレーラーを引っ張るフルトレーラー、荷台のないトラクターが台車のトレーラーを引っ張るセミトレーラー、長尺モノを運ぶポールトレーラーがある。

 

 フルトレーラーの場合、11tトラックが総重量10t程度のトレーラーを牽引しているのが一般的で、合計総重量は30t程度と問題にならない。ポールトレーラーは長尺モノを運ぶもので、時には10数トンの鋼管を10本近く運んでいることもある。セミトレーラーの場合、アルミボックスのトレーラーは総重量が30t程度で、牽引しているトラクターも9tの2軸車で、問題ではない。15tの3軸トラクターが、10t程の台車のトレーラーを牽引しているものが問題になってくる。昼間でも50t程度を積載しており、合計総重量は75tにもなる。しかし、夜間に隠密に走行しているものは、100t程の積載は珍しくない。合計総重量は125tに達する。

 勿論、そのようなセミトレーラーは国道43号線だけを走行しているわけではなく、何処にでも出没するわけである。が、国道43号線での出没率が極めて大きいことが、問題を引き起こしている。産業物流幹線道路は、出来るだけ住宅地を迂回するようになってきたが、住宅地の真中を貫いたのが国道43号線の悲劇であった。

3-3 国道43号線の交通分析(時間変動)

 国道43号線において、如何にこのようなモンスターが走行しているか。国道43号線を走行することが多い人でも、あまり見たことはないのである。沿道に住んでいながら、多くの人は見ることが少ないのである。しかし、沿道に住む限り、そのモンスターの被害は避けるわけには行かないのである。

 日本における貨物車全体の積載率は、20%を少し超える程度である。殆どのトラックは空で走行しているに過ぎない。実際のトラック業者の業務を見ることにする。A地点の倉庫からB地点の工場まで、部品を運んだとしよう。運送会社はC地点であるから、C~Aは空車である。A~Bは100%積載したにしても、B~Cも空車である。このような好条件は少ないのであるが、それでも全体の積載高率は50%を下回らざるを得ない。タンクローリーの場合、運送会社から製油所までは空車。Aガソリンスタンドまでは100%積載にしても、Bスタンドまでは50%積載。Bスタンドから運送会社までは空車ということになる。好条件でも平均すれば30%程度の積載効率でしかない。コンテナの場合は最悪で、運送会社からトラクターが荷主の会社にトレーラーの台車を取りに行く。それから港に行って商品の入ったコンテナを積む。そのコンテナをA倉庫に運ぶ、ここだけが積載率があるわけだが、空のコンテナボックスを荷主の会社に運ぶ。トラクターのみが運送会社に戻る。実際には港湾と倉庫を何往復もするので、少しは積載効率は上がる。それでも積載効率が30%に及ぶ可能性は少ない。

 したがって、国道43号線利用者や沿道住民が見るのは、殆ど空車なのであって、最も公害の酷い場面を見るケースは少ないのである。路線トラックの行き先は半分が近畿圏であるが、その次は関東圏になる。関東圏までは5~6時間かかる。首都圏は午前6時には渋滞が始まるので、国道43号線を通過するのは深夜の11~12時ということになる。この時の積載率は100%もしくは過積載のものが大半である。この時間帯を見る人は殆どない。

 また、全国から阪神間に集ってくる貨物は、朝一番の入庫のケースが多い。工場や一般の倉庫は、午前8~9時に業務が開始される。しかし、午前7~8時は阪神間も通勤による渋滞がある。トラック業者はその渋滞を避けて、午前4~6時の時間帯に国道43号線を通過する。通勤のマイカーの人が見る時は、工場の前の路上に駐車しているトラックやトレーラーでしかない。午前4~6時台に国道43号線を見に来る人は少ない。沿道住民でさえ、すさまじい公害状況は見ないのである。

 まして、化物モンスターの特殊通行許可車のセミトレーラーなどは、殆ど深夜に走行する。夜間の信号はコマ目に変わるように設定している。信号で発進するモンスターは、一度は見てみる価値はある。牽引している積載物が重すぎて、ローギアでは発進できない為に、登坂シフトで発進する。トラクターの前が30cm程浮き上がってから、おもむろに動き出す。排ガスと轟音はすさまじいものがある。このような状況を、裁判の証拠として提出する為に、深夜に歩道橋で撮影するまで、長年沿道に住んでいたが、見たことは無かった。

 これらから発生する騒音と振動、排ガスは見ることはなくとも、沿道住民の生活と健康を蝕んでゆく。そのことを知らなければ、本当の意味で国道43号線の公害を知ったことにはならないような気がするのである。

4-1 自動車排ガス測定局の数値について

 次に、国道43号線の二酸化窒素と浮遊粒子状物質の数値について、説明しておかなければならない。裁判に於いて、被告の国・阪神高速道路公団は、「国道43号線の公害レベルは、全国の指標からも極めて低いものであり、特段の対処を求められるようなものではない。」と主張したものである。

 実際、国道43号線の自動車排ガス測定局のデータは、他の測定局のデータと比較して、それほど高い数値を示してはいない。また、全国ワーストランクに、国道43号線の自排局が入ることは無かった。その辺りの仕組みを、次回に説明したい。

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