『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

1999年9月創刊。≪阪神道路問題ネット≫交流誌のブログ版。『目次』のカテゴリーからの検索が便利。お知らせなども掲載。

『みちしるべ』斑猫独語(16)**<2003.3. Vol.22>

2006年01月08日 | 斑猫独語

澤山輝彦

<川を渡る>

 川を越えて対岸と行き来するには橋をかけねばならない。川は山間を流れているか、平野部を流れているか、川幅は広いか狭いか、また渡る道の規模の違いによって橋は様々な形に造られ、完成すれば名所になることも多い。“土佐の高知のはりまやばし”や“パリのミラボー橋”“ロンドン橋”など歌にうたわれる橋は世界中に数々ある。これら歌になるのはなにも詩人の感性だけがとらえ得るものではなく、橋をこえる時には誰もがもつ感じではないだろうか。橋の上にはぽっかり空間があいており、心を晴れ晴れとさせるし、流れを見下ろし、行く川の流れは絶えずして、と感動してもいい。すこし長い橋を歩いて渡れば行き先を眺め、来し方を振り返ることに人生の縮図を見るようだ、などと書けば一寸どころか大いに気障で、おおげさすぎるか。

 大阪市内を流れる木津川、安治川、尻無川などの河口、臨港地帯と言われる所では橋が必要な所でも橋をかけると舶運に影響が出ると架橋をひかえていた。船運が栄えていた時代だった。船のマストが橋にひっかからないように水面上10メートルから30メートルをこえる橋をかける必要があり、技術的には可能であったそうだが、基礎工事の費用が相当かかるという計算があり橋はかからなかったのだ。そんな頃、安治川など相当上流まで4、5百トンほどの貨物船が上って来て川沿いの倉庫に荷の上げ下ろしをしていた。船の接岸や離岸をよく見に行ったものだった。今、こんな船運は衰えてしまい車の時代になってしまえば、船に遠慮することはなくなった。車のためにどんどん橋を掛けようではないか。技術も進歩したし金もいくらでも調達できる。といってもまだ船は通る。だから河口にかかる橋は高くて大きいものばかりだ。高速道路が通っているものもある。そんな橋は人が歩いて渡ることを拒否している。そのせいかそこに橋の持つ詩情を私は感じない。車で通ればまたちがった詩情を感じることが出来るのだろうか。このような橋のかかる所には橋の代わりに渡し舟があった。渡しは橋が出来ても残されていて、今も人々を運んでおり、近頃では観光名所になり、渡し巡りのツアーが組まれたりして、水都と言った大阪の面目を保っているのが愉快だ。

 橋を掛けにくいのなら、橋ではなく川底にトンネル作って越えたらどうだと考え、そんなトンネルを大阪市は昭和19年9月此花区西九条と西区九条を結ぶ安治川底に作ってしまったのだ。安治川トンネルと言う。この川底トンネルは川を越す手段としては特異なものであろう。対岸へ行くにはまず両岸にあるエレベーターで18メートル下の川底のトンネルに下り、80メートルの川底トンネルを歩き対岸のエレベーターで昇る。扉を出ればそこは川向こうだ。エレベーター→トンネル→エレベーターで向こう岸へ渡るのは昭和33年開通した関門海峡トンネルの人道部分が同じ仕組みになっている。車社会に突入するまでは有料でトラックや単車なども渡していたが、今では人と自転車のみの利用に限られ、車を積んで上下した大型エレベーターは封鎖されている。車を渡す設計で、車も渡していたのに車社会の到来と共にそれが出来なくなってしまったのは皮肉である。渡し船と同じでここも道路扱いだから無料だ。階段さえ使えば深夜でも早朝でも一日中利用可能だ。このトンネルは将来両岸から傾斜道路でつなぐことが出来るように設計されていて、もう大分前のことだがその工事が始まるというようなうわさを聞いた事がある。そういえば連結道路建設反対と書いた看板を今でも此花区側環状線西九条駅近くで見ることができる。

 変わった橋と言えば特別な仕掛けを持ったもの、たとえば可動橋などがある。だが何の種も仕掛けもない堂々たる橋でありながら橋と名乗れない橋がある。これも変わった橋だろう。淀川の長柄橋上流、都島区赤川と東淀川区菅原を結ぶ所に城東貨物線の鉄橋、赤川鉄橋がある。この鉄橋は複線分の幅がとって造られているが、需要と供給のバランスが単線でとれているのだろう、線路は単線だけ敷かれている。その片側の空いた所にじょうぶな木材が張られ、人が渡れるようになっている。赤川仮橋だ。これはこれで珍しい橋だと思う。JR鉄道橋を人の往来に使わせてもらっているだけだから、国土交通省は直接関係ないのだろう。だから国土交通省所管のパンフレットにある淀川スーパー堤防整備図をみると他の鉄道橋と同様にこの橋も書かれていない。長柄橋の次には菅原城北大橋が書いてある。この橋は赤川仮橋の名を甘んじて受け続けて行くのだ。その通りのプレートを付けて。

 赤川仮橋を渡るには、対抗してやってくる人や自転車にさえ気をつけていれば、まず板橋の感触を十分体感することだ。そして橋上から川面や大阪市北部のビル群を眺めながらのんびり渡ることだ。今時こんな長くてしっかりした大きな板橋などどこにもないだろう。ここを渡る感覚は特別でいいものだ。

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