『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

1999年9月創刊。≪阪神道路問題ネット≫交流誌のブログ版。『目次』のカテゴリーからの検索が便利。お知らせなども掲載。

『みちしるべ』斑猫独語(23)**<2005.7. Vol.36>

2006年01月13日 | 斑猫独語

澤山輝彦

<初日カバー>

 新しい切手が発行された日、切手趣味家はその切手を封筒に貼り(封筒にはその切手に関係する絵か何かが描いてある物が多い)それに発行日の消印(消印も記念消印ならなおいいのである)を捺したものを作る。切手趣味家はそれを初日カバーと呼び、自分宛てに送ったり、出来合いの物を買ったりして収集の対象にしている。私は高校生ころまで切手収集をしていたが、いつのまにか止めてしまった。わずかに残っている物の中に8枚の初日カバーがある。8枚の初日カバーはいずれも日本が侵略、占領した当時のフィリピンで作られたもので、ダイトーアセンソーイッシューネンキネンやヒトーギョーセイフイッシューネンキネン、バタアン・コレヒドールカンラクイッシューネンキネン、などいずれも日本の侵略、占領の歴史を記念したものであり、大日本憲兵隊検閲済の印も捺されている。これらを私は反戦平和の為の一つの小さな資料として持っておこうと思っている。と共に占領下の安定していたとは言えなかったであろう時代にあって、趣味に生き初日カバーを作り、集めていた人がいた、ということに人間というものはすごいものだなあと思うのだ。そういう時代にしっかり趣味の世界に生きることは裏返しの反抗なのだとでも言えるのだろうか、そんなことも考えてみた。

 この中の一つバタアン・コレヒドール陥落一周年記念初日カバーには、フィリッピンユービン、バタアン・コレヒドールカンラクイッシューネンキネン、ショーワ18ネン5ガツとカナで書かれ、バタアン・コレヒドールの地図を背景に、鉄兜をかぶり、銃剣を持つ兵士、日の丸、軍艦、戦闘機を描いた緑と赤の5センタポ、2センタポの二種類の戦意高揚まるだしの切手が貼ってある。日付は1943.5月7日だ。この初日カバーから私は「バタアン死の行進」を知ったのだ。

 日本軍は真珠湾奇襲攻撃の10時間後ルソン島の米空軍基地を空襲、戦闘機や爆撃機を破壊する。これでアメリカ軍はフィリピンの制空権をほとんど失う。これを機会に日本軍はマニラに進攻する。対するアメリカ、フィリピン軍はバタアン・コレヒドールの要塞にたてこもるが、兵糧攻めのようなかたちで敗れ、降伏する。アメリカ兵12000人、フィリピン兵64000人計76000人が捕虜となる。捕虜のほとんどが飢えとマラリアに犯され衰弱した状態であった。この捕虜を後方へ移送するのだが、日本軍にはトラックなど輸送手段がないので「徒歩」で行う。こうして約60キロといわれる道程の炎天下の行進が始まった。1942年4月のことだ。終点の基地に着いた者は54000人であった。アメリカ兵の死者は2300人と記録されている。残りの何人が行進の途中で死んだか明確ではないという。行進途中には残虐行為があり、それで死亡した者の数も少なくない。戦後この時の日本軍司令官は戦犯として裁かれ死刑になる。今になって日本人も同じように歩いたのだ、とか我々は艱難辛苦に耐える精神があったなどと言うが、降伏した兵士たちにそれを要求することは文化やそれに伴う人間観の相違などから無理で、その強要は虐待なのだ。この道には今、1キロごとにDEATH MARCH KM〇〇の記念碑が建っていて、観光コースになっているそうだ。

 今年は戦後60年、一区切りの年だといわれる。こんな「死の道」を二度と現してはならないと私たちは平和憲法を持ったのだ。だのに今、平和憲法を踏み躙り戦争をすることが出来る憲法にしようとする勢力の動きが加速している。私たちは平和憲法を守らなくてはならない。

 この文はこの先で終わりだったのだが、アメリカのイラク進攻に伴う混乱した彼の地の報道に、「死の道」という言葉があったこと、イラク人捕虜に対する人間の尊厳を大きく損ねた行為があったことを思いだしたので、一寸付け加えると、混乱の真っ只中のイラクの首都バグダットへは陸路ヨルダンから入らねばならないらしい。このヨルダンからバグダットヘの総延長1000Kmを超えるルートはあまりにも危険なため「死の道」と呼ばれているというのだ。イラクの反米武装勢力が報復のため通行車両に攻撃をかける道なのだ。日本の外交官が殺されたのもこの道ではなかったか。先のバタアン街道の「死の道」とは一寸内容が異なるがいずれも戦争がその根本にあり、そこから生まれたことは同じだ。もう一つはイラク人捕虜収容所で収容者に加えられた虐待写真の存在だ。あれは人としての尊厳、そんなことは空念仏に等しいとでも言うような大きな狂気をはらんでいる。そんなことを産むのが戦争なのだ。

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