大八洲彦命は、天にも昇る心地し三個の珠を捧持(ホウジ)し、
木花姫命より賜はりし天(アマ)の磐船(イハフネ)に乗りて
空中はるかに西天を摩(マ)して、竜宮城に帰還した。
一方エデンの園に集まれる竹熊(タケクマ)をはじめ木純姫(コスミヒメ)、
足長彦(アシナガヒコ)の大将株は、村雲別(ムラクモワケ)の注進により、
大八洲彦命(オホヤシマヒコノミコト)の無事に帰城したることを知り、
周章狼狽し鳩首(キウシユ)謀議の上一計を案出し、ここに木純姫(コスミヒメ)、
足長彦(アシナガヒコ)はにはかに改心の状をよそほひ、竜宮城に参向して、
大八洲彦命の無事凱旋を祝するためにと詐(イツ)はりて盛なる宴をひらき、
大八洲彦命の御出席を請ひ奉(マツ)つた。
大八洲彦命はもとより仁慈に深き義神なれば、彼らの請を容(イ)れ、
他意なき体にてエデンの園にいたりたまひ、
八尋殿(ヤヒロドノ)の奥深く迎へられて酒宴の席につきたまうた。
その時の従者は守高彦(モリタカヒコ)、守安彦(モリヤスヒコ)、
高見姫(タカミヒメ)であつた。
木純姫、足長彦は表面帰順をよそほひ、
歓待いたらざるなき有様であつた。
大八洲彦命は八塩折(ヤシホヲリ)の酒に酔はせたまひて、
八尋殿の中に入りて心ゆるして宿泊することとなつた。
命の熟睡の様子を窺ひゐたる竹熊は、
時分はよしと暗夜に乗じ八方より八尋殿に火をかけて
従者諸共にこれを焼殺せむとした。
時に三柱(ミハシラ)の従神はおのおの三個の珠を一個づつ捧持して
命の枕辺(マクラベ)に警護してゐた。
火は猛烈に燃えさかつて八尋殿を今に焼きつくさむとする勢である。
このとき真澄(マスミ)の珠(タマ)よりは大風吹きおこり、
潮満の珠よりは竜水迸(ホトバシ)りて、
瞬(マタタ)くうちに殿の火焔を打ち消した。
また潮干の珠よりは猛火を吹出し、真澄の珠の風に煽(アフラ)れて
エデンの城は瞬くうちに焼け落ちてしまつた。
竹熊一派は周章狼狽死力をつくしてヨルダン河を打ちわたり
遠く北方に逃れた。
この時あまたの従神は河中(カチユウ)に陥り、
その大部分は溺死してしまつたのである。
(大正十年十月二十二日、旧九月二十二日、谷口正治録)
木花姫命より賜はりし天(アマ)の磐船(イハフネ)に乗りて
空中はるかに西天を摩(マ)して、竜宮城に帰還した。
一方エデンの園に集まれる竹熊(タケクマ)をはじめ木純姫(コスミヒメ)、
足長彦(アシナガヒコ)の大将株は、村雲別(ムラクモワケ)の注進により、
大八洲彦命(オホヤシマヒコノミコト)の無事に帰城したることを知り、
周章狼狽し鳩首(キウシユ)謀議の上一計を案出し、ここに木純姫(コスミヒメ)、
足長彦(アシナガヒコ)はにはかに改心の状をよそほひ、竜宮城に参向して、
大八洲彦命の無事凱旋を祝するためにと詐(イツ)はりて盛なる宴をひらき、
大八洲彦命の御出席を請ひ奉(マツ)つた。
大八洲彦命はもとより仁慈に深き義神なれば、彼らの請を容(イ)れ、
他意なき体にてエデンの園にいたりたまひ、
八尋殿(ヤヒロドノ)の奥深く迎へられて酒宴の席につきたまうた。
その時の従者は守高彦(モリタカヒコ)、守安彦(モリヤスヒコ)、
高見姫(タカミヒメ)であつた。
木純姫、足長彦は表面帰順をよそほひ、
歓待いたらざるなき有様であつた。
大八洲彦命は八塩折(ヤシホヲリ)の酒に酔はせたまひて、
八尋殿の中に入りて心ゆるして宿泊することとなつた。
命の熟睡の様子を窺ひゐたる竹熊は、
時分はよしと暗夜に乗じ八方より八尋殿に火をかけて
従者諸共にこれを焼殺せむとした。
時に三柱(ミハシラ)の従神はおのおの三個の珠を一個づつ捧持して
命の枕辺(マクラベ)に警護してゐた。
火は猛烈に燃えさかつて八尋殿を今に焼きつくさむとする勢である。
このとき真澄(マスミ)の珠(タマ)よりは大風吹きおこり、
潮満の珠よりは竜水迸(ホトバシ)りて、
瞬(マタタ)くうちに殿の火焔を打ち消した。
また潮干の珠よりは猛火を吹出し、真澄の珠の風に煽(アフラ)れて
エデンの城は瞬くうちに焼け落ちてしまつた。
竹熊一派は周章狼狽死力をつくしてヨルダン河を打ちわたり
遠く北方に逃れた。
この時あまたの従神は河中(カチユウ)に陥り、
その大部分は溺死してしまつたのである。
(大正十年十月二十二日、旧九月二十二日、谷口正治録)