釜石の日々

「真の進歩指標」

夕方、甲子川の土手を犬と一緒に歩いていて、途中で、ヒグラシの鳴く音に耳をすませて立ち止まり、川の流れを見ていると、気持ちが和み、ふと、人の生活の幸せとは何だろうと考える。釜石は製鉄の街としての過去を世界遺産にしようとしている。江戸時代の封建制を脱した明治政府は富国強兵、殖産興業を掲げ、「近代化」を急ぎ、日本は資本主義を確立して行く。特に、戦後は本格的に米国主導で資本主義を推進し、やがて自立的な資本主義の道を歩んだ。高度経済成長を通じて、GDP(国内総生産)の最大化をひたすら追い求めて来た。資本主義はとはお金がお金を生む経済制度だ。利子とか利潤と言う形でお金が新たなお金を生み出す。しかし、利子に限って言えば、日本の国債の利子が最大であったのは1981年であり、以後は利子は低下し続け、ゼロ金利の時代を迎えた。利子がゼロとなることは経済制度としての資本主義の行き詰まりであるとも考えられる。米国はその金利の低下を脱するために金融工学なる理屈を駆使して、行き詰まりを先延ばしした。GDPと言う指標だけを最大限に求める発想では、それも一つの対処法ではあるが、そもそもGDPの際限のない拡大が人を幸せにするのだろうか。経済大国となり、2000年代に入り、米国に倣って、新自由主義の名の下に規制改革を打ち出し、さらなるGDPの拡大を求めようとしたが、そこで生まれて来たのは格差社会の蔓延だけである。日本の総体としての幸せはどこにあるのだろう。米国のNGO Redefining Progressは1995年にGDPに替わる指標としてGenuine Progress Indicator(GPI)なる概念を提唱した。GDPは人の「幸せ」とは無関係な指標であり、家事やボランティア活動の価値、犯罪や汚染にかかわる費用などは考慮されない。GPIは所得分配、家事、ボランティア活動、高等教育、犯罪、汚染、長期的な環境破壊、余暇時間の変化、耐久消費財と公共インフラの寿命などを考慮して、「真の進歩指標」を求めようとするものだ。本年発表されたGPIでは日本は132カ国中14位となっている。日本は長寿が高く評価されている。上位10位にはニュージーランド以下、スイス、アイスランド、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、カナダ、フィンランド、デンマーク、オーストラリアが並ぶ。ドイツが12位、イギリス13位、米国16位、フランス20位などとなっている。若き日に米国ハーバード大学で学んだ経済学者の中谷巌一橋大学名誉教授は1993年の細川内閣での経済改革研究会委員を皮切りに、日本経済の旧弊である政官財の癒着を解消し、規制改革こそが日本経済を活性化出来るとして、政府への提言を行なっていた。しかし、その結果は格差社会を広げるだけであることに気付き、自分が学んで来た米国の自由競争を基本とした経済の在り方に疑問を持つようになる。それまでの考えを180度改め、何らかの政府介入がなければ、人々の「幸せ」は達成出来ないと考えるに至る。人の幸せにはお金と物以外もたくさん含まれており、さらには、生きるための最低限の生活の保障もされなければならいだろう。しかし、今の日本にはその最低限の生活も危ぶまれる人たちが増えて来ている。大国となった日本は果たして「進歩した国」と言えるのだろうか。
庭の山紫陽花
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