釜石の日々

岩手県釜石市に移り住んで16年8ヶ月が過ぎ、三陸沿岸部の自然の豊かさに感動する毎日。

耐性菌の脅威

2016-05-31 19:21:45 | 科学
地球上に微小な生命体が生まれ、何億年もの年月をかけて人類が誕生したが、その人類も微生物の存在なくしては生きられない。微生物とは共存して進化して来た。人の身体の細胞は30兆とも言われるが、それをはるかに超える100兆もの微生物が人の身体には住みついている。特に腸にいるいわゆる腸内細菌は免疫力とも関係して、とても重要である。人に常在する微生物は共存関係を長く築いて来た。しかし自然界には人に有害な微生物もいる。体内に侵入した有害な細菌を退治する抗菌薬が開発されたのは1911年のサルバルサンに始まる。戦後の1970年代に最も多くの抗菌薬が開発されたが、以後は開発された抗菌薬の数が減少して行く。一方で、家畜の飼育や家庭の日用品に抗菌剤が含まれるようになり、細菌の方でもそれらに抵抗力を持つようになった。耐性菌である。人が身体を必要以上に有害な細菌から守ろうとした結果である。抗菌薬は耐性菌の出現や拡大を抑制しなければならず、そのために規制も厳しく、開発費が余分にかかってしまう。製薬企業にとっては当然収益性も悪いため、どうしても開発が少なくなって来ている。新規の抗菌薬の開発が減少する一方で、日常での抗菌薬の使用が広まり、耐性菌が次々に登場して来る。今月20日英国政府は警告を発した。現状が続けば、2050年には世界で耐性菌のために3秒に1人が命を落とすと言うのだ。年間1000万人とも言う。生活の中での抗菌薬の乱用は自ら抵抗力を弱くしていることにもなる。特にクリーン過ぎる環境で育てられた子供は健全な免疫力が身に付かず、かえって虚弱な大人になってしまう。人は本来動物の一種であり、動物は自然と共に地球上で生きて来た。あまりに急速に、短期間で自然を排した人工的な環境に自らを閉じ込めてしまった人類は自然界からの報復を受けようとしているのかもしれない。空調設備も微生物の生息環境を大きく変えているだろう。人工的な食品添加物も腸内環境を変化させている可能性がある。今やスーパーでそうした添加物の含まれていないものを見つけるのが難しいほどだ。体内で有害な微生物に対する抵抗力である免疫力を弱め、体外では耐性菌が増加し、抗菌薬の開発は進まない。今一度人は微生物を含む自然との共生を取り戻さなければ、死滅への道に踏み込んでしまうのかも知れない。
芍薬(しゃくやく)

究極の債務放棄

2016-05-30 19:11:45 | 経済
1936年2月26日、陸軍兵士によって起こされた、いわゆる二・二六事件で暗殺された高橋是清大蔵大臣はその10年ほど前には総理大臣を歴任していた。財政家としての手腕を見込まれ、1929年の世界恐慌の影響下にあった日本の経済の立て直しに着手した。日銀引き受けによる政府支出(財政ファイナンス)の増額等で、混乱する日本経済をデフレから世界で最初に脱出させた。日本で初めて財政ファイナンスを行った人である。その後インフレーションを招くことを警戒し、政府支出の引き締めに転じて、軍事費を縮小させたことが軍部に反感を持たれることに繋がり、暗殺の対象となる。高橋是清が暗殺されると、以後は財政ファイナンスが拡大し、軍事費は膨張して行く。この戦前の軍事費の拡大の要因となった財政ファイナンスを戦後は法的に原則、禁じられた。しかし、安倍政権は戦後70年間守られて来たこの原則を、日本銀行の総裁を強引に交替させてまで破るに至った。財政法5条では、日本銀行による国債の引受けを原則禁じているが、「但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。」とのただし書きがあることを盾に、政府見解として、財政法5条には反していないとしている。今月27日、米国経済誌Bloombergジャパンに「coヘリコプターは離陸済み、行き着く果てはドル1000円か」と題する一橋大学野口悠紀雄名誉教授の論文が載せられた。「ヘリコプターマネーすでに実施、非生産的支出が膨らむ恐れ」「政府・日銀の財政出動・金融緩和続けば「円の価値は非常に危うい」」との副題が付いている。「ヘリコプターマネー」は日本銀行が貨幣を増刷して、ヘイコプターからばらまくように市中を貨幣で溢れさすことを言う。同名誉教授は「異次元緩和に基づく国債買い入れは残存期間が長い国債を銀行が右から左に売れるようになったので、事実上の日銀引き受け。財政法第5条の脱法行為だ」と言い切っておられる。昨年1月5日にはすでにロイター通信がコラムで「日本は先進国初の「ヘリコプター・マネー」発動か」と題する記事を載せている。野口名誉教授の記事が出る前日には、Bloomberg誌は米国版で「Gross Says Central Bank Forgiving Debt Is Only Endgame for Japan」と言う記事を出しており、同じ日に日本版でもその翻訳記事を載せている。「日銀による政府債務買い入れと返済免除が唯一の道-グロース氏」となっている。 債券投資で常に利益を上げて、債券王と称されるビル・グロースBill Gross氏は日本銀行は「ある時点で基本的に全ての債務を買い入れた上で財務省に対して返済を免除し、前進を図ろうとするだろう」とし、「日本には他の選択肢が見当たらず、そうした方向にあると考えられる」と語っている。しかし、その結果は「日本の通貨や貯蓄率、民間部門に劇的かつ破壊的な帰結をもたらすことになるだろう」としている。まさに日本政府は巨額の政府債務を帳消しにするために、あえて貨幣を垂れ流し、ハイパーインフレをもたらそうとしていると言うのだ。国外に資産を移している富裕層や巨大企業は被害を免れても、一般の国民は敗戦直後と同じく手酷い被害に直面することになるだろう。それはもうここ2~3年内にやって来るのかも知れない。
バラ

格差の是正こそが危機を回避させる

2016-05-28 19:19:48 | 経済
昨日のG7伊勢志摩サミットで、議長役の安倍首相は、現在の世界経済がリーマンショックの前と似た状況にあるとして、具体的なデータを示し、世界経済の危機(クライシス)に懸念を表明したのに対して、メンバー中の首相キャリアの最長者で、首相としてリーマンショックも経験しているドイツのメルケル首相は「クライシスとまで言うのはいかがなものか」と発言したようだ。安倍首相は自ら進めて来た金融緩和や財政出動、構造改革を改めてアピールしているが、財政赤字を積み上げただけであり、構造改革などは遅々として進んでいない。「危機」を強調することで財政出動の正当性を示そうとしたのかも知れないが、メルケル首相は財政出動には慎重だ。総務省が今日発表した4月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年同月比0.3%下落の102.9で、2ヶ月連続マイナスとなった。また、全国の先行指標と目される東京都区部の5月の消費者物価指数(中旬速報値、生鮮食品を除く)は前年同月比0.5%下落の101.7で、5カ月連続のマイナスとなっている。日本銀行の黒田総裁が掲げる2%の物価目標は未曾有の金融緩和にもかかわらず遠のいている。中国を中心とする新興国の経済の低迷が世界的な経済の停滞を招いていることは事実だが、それはあくまでも表面的な事柄に過ぎない。現在の世界の経済の停滞の根本原因は格差にある。富の偏重は経済効率を悪化させる。戦後、世界の経済が安定し豊かさを享受出来たのは中間層が厚い時期だけである。新自由主義が世界を席巻し、格差が広がるに連れて中間層は減少し、富が偏在するようになり、経済の基本である需要が激減した。先進国は十分な生産設備を何らかの形で保有しており、供給が過剰状態にあるため価格は低下する。所得が増えない人が多くなり、消費を手控えるために需要は一向に増えて来ない。メルケル首相は今舵取りを誤れば「危機」に陥る可能性もある、との趣旨の発言をしている。サミットで安倍首相が発言した内容は官僚が準備しており、従来通りの政策しか強調出来ないようでは、まさに「危機」に陥ってしまうだろう。いかに消費を増やすかが一番大事な問題だ。回答はとても簡単で、所得を増やすようにすれば良い。そのための税制活用でなければならない。個人や企業に蓄えられた資産が多くの人の所得として回転するようにすれば、消費が増えて来る。経済は学問などではなく、とても簡単だ。売り手と買い手がいるだけである。買い手にお金がなければ、売買は成立しない。またお金は「天下の回りもの」と言われるように回転して初めて意味を持つ。溜め込まれたお金は社会的には存在しないのと同じである。世界中で一部にお金が集中し、溜め込まれ、多くの部分でお金が不足している。多くの人が買い手になれないでいるのが現在だ。
苧環(おだまき)

岩手と秋田

2016-05-27 19:16:56 | 自然
岩手県は四国4県の広さがあると言われ、全国では北海道に次いで広い。北海道はしかし、岩手県の5倍の広さがある。面積で見ると10位までに東北6県のうち5県までが入っている。3位に福島県、6位に秋田県、8位に青森県、9位に山形県である。宮城県は16位になっている。岩手県は隣の秋田県の1.3倍の広さになっている。今年は4月と5月に秋田県へ行っているが、以前職場の方から秋田県は釜石のようにすっきりと青空が広がる日がない、と聞かされた。晴れた日でもいつ見ても霞がかかったようなどんよりとしたところがあると言われた。先日、唐松神社へ出かけた際に、ふとこのことを思い出して、気を付けて風景を見ていた。午前中の青空を背景にした鳥海山は比較的すっきりと見えていたが、午後になると確かに雲も流れていないのに、どこか霞がかかったように見える。鳥海山だけでなく、見渡せる範囲が全てそのように見えた。多分このことを言っていたのだろうと思った。釜石は南北を200~300mの高さの山で囲まれていて、上空の青空の見える範囲が狭い。それに対して、秋田では平野が広く、晴れた日は遠方がまさに陽炎のようなすっきりしない風景に見えてしまう。空気の層が厚くなるために、その空気が晴れていると熱せられて、遠方の風景の輪郭をぼかしてしまうのではないだろうか。岩手の平野は岩手県をほぼ縦断する北上川周辺に広がるのが主だ。やはり秋田の平野部の方がずっと広い。ウィキペディアで両県を比べてみると、県の鳥が岩手はキジで秋田がヤマドリとなっていた。岩手にももちろんヤマドリがいるし、秋田にもキジはいる。ただ岩手はキジの生息数が日本一だと言う。県の花では岩手は桐の花で、秋田はフキノトウとなっている。岩手の桐は淡紫色をおびて美しく「南部の紫桐」と呼ばれているらしい。秋田のフキノトウは「ばっけ」と呼ばれているそうだが、岩手でも同じく「ばっけ」と呼んでおり、フキノトウを使った味噌、ばっけ味噌が岩手の産直などでも売られている。岩手の県の魚はナンブサケで、鮭は北海道に次ぐ漁獲量になっている。秋田はハタハタが県の魚になっている。日本海の北部と西部に多く生息しているようで、名前は聞くが未見の魚だ。日本海には対馬暖流が流れる関係で、冬は湿度が高く、そのために日本海側は豪雪となる。昔ほどではなくなったようだが、それでもなお秋田は山形同様に9割が豪雪地帯だと言う。特に秋田自動車道沿いにある山内(さんない)は県下でも一番の豪雪地帯だそうだ。この山内地名と青森県の三内丸山遺跡の「山内」は何か関連があるように思う。地名の由来が古代東北の歴史と関連しているように思われる。釜石へ来てから間もなく太平洋の水平線から昇ってくる太陽を見た。いつか日本海の水平線に沈む太陽を見てみたい。
紫蘭

「タックスヘイブン(租税回避地)」に声を上げた経済学者たち

2016-05-26 19:18:07 | 社会
租税回避を行った世界の個人や企業が詳述された機密文書が昨年8月、ドイツの地方紙へ膨大なデータとして送られて来た。80カ国400名のジャーナリストが分析に加わり、本年4月3日分析結果が公表された。いわゆる「パナマ文書」である。世界中の著名な政治家や富裕層が含まれていた。一般の国民は収入を税務当局に簡単に把握されているため、税を逃れることは難しい。しかし、政治家や富裕層、大企業などは収益が大きいだけに、まともに納税をすれば、税額も巨額となる。そこで、現行法で許される範囲で「合法的」に租税回避を行う。こうして課税を免れた世界の資産は800兆円にもなるとも言われる。英国に本部を置き90カ国以上に支部を持つ、「貧困を克服しようとする人々を支援し、貧困を生み出す状況を変えるために活動する」国際協力団体オックスファムOxfamは各国政府の指導者に「対策の強化」を求めて公開書簡を今月9日に出した。この書簡にはフランスの経済学者トマ・ピケティ氏や、昨年ノーベル経済学賞を受賞したアンガス・ディートン米国プリンストン大学教授ら経済学者355人が署名している。残念ながら日本の経済学者はいなかった。しかし、今日と明日の二日に渡って開催される、いわゆる伊勢志摩サミットに向けて、昨日日本の経済学者ら47人が、タックスヘイブン(租税回避地)を利用した税金逃れ問題に関し、議長国の日本政府に対して「有効な対策に向けて、サミットの主催国として積極的な役割を担うことを呼び掛ける」との共同声明を発表している。しかし、政治家もタックスヘイブンを利用しており、ある意味では犯罪者に犯罪を取り締まらせるようなものだ。現在の世界に蔓延する格差社会を作り出すことを許して来たのも彼らである。世界の歴史を見ると、富の偏在は経済的には非効率であり、そうした偏在の持続は劇的な社会変化につながりかねない。これを避ける意味でも何らかの対策を立てる必要があるが、よほど大きな広がりの世界各国国民の声が上がらなければ、難しいだろう。富が偏在し、納税の不公平が放置され続くと、実際にはその国のためにもならないのだが。税には富の再分配機能があるが、現在、その機能が世界中で麻痺して来ている。トマ・ピケティ氏が『21世紀の資本』で述べているように資産への課税が重要になるだろう。これが様々の抵抗を越えて制度化されれば格差は解消へ向かって行くだろう。
鈴蘭

隷属と蔑視

2016-05-25 19:18:42 | 社会
もう山藤も終わりかけ、ニセアカシアの白い花が咲くようになった。甲子川沿いを歩くと、もうオオヨシキリの声が聴こえて来る。気温が高いのも当たり前だ。すぐ近くの山からはウグイスの声まで聴こえる。北海道では夏の花であった浜茄子(はまなす)の花も咲いて来ている。少し前にようやく春が来たと思っていたが、瞬く間に春が過ぎ、もう夏が近くまで来ているようだ。 沖縄で20歳の女性が米軍の軍属に殺害される事件が起きたが、こうした事件がいつまでも続く。その根底には日本人の沖縄蔑視と米軍の日本人蔑視の両方があるように思えてならない。戦後何度も沖縄では住民が犠牲となる事件が米軍によって引き起こされて来た。その度に不平等条約である「日米地位協定」の改正が叫ばれたが、この協定が結ばれて50年以上にもなるにもかかわらず、一切の変更がなく、不平等が放置されて来ている。日本の国会が改定に積極的ではないのは、米国への隷従意識と沖縄蔑視があるからである。これがいわゆる「本土」で事件が繰り返されたものであれば、国会はもっと真剣に改定の検討をせざるを得なくなっていたはずだ。同じように敗戦により米軍が駐留したドイツやイタリアではたとえ基地内であっても、犯罪は捜査権や逮捕権を有しているが、日本は地位協定により、基地内も大使館と同じく治外法権が認められている。こんなところに欧米とアジアの違い、はっきり言えば差別があるのだろう。日本政府の卑屈なまでの米国への隷従がなお米国に優越感を与えてもいるように思う。日本駐留の米軍の費用に対しても、ドイツやイタリアとは異なり、日本政府はむしろ日本側から「思いやり予算」などと呼称される過分な経費負担を負っている。特に現政権はまさに米国の属国のような振る舞いだ。戦後70年が過ぎたが、実質的に日本は真の独立国とはなっていない。戦後もたらされた民主主義の根幹である三権分立すらも樹立されていない国でもある。経済規模だけは世界的に大きくはなったが、国家としての基本的な制度はやはり悲しいが長く儒教に侵されて来たアジアの一国として、政治家や官僚が優越し、決していずれも公僕の意識はない。そして政治家も官僚も自己の利益追求しか考えていない。天下国家を憂えるのは国民だけである。中でも沖縄は特に歴史上常に蔑視されて来ており、日本人でありながら、日本人としての権利が「本土」の日本人ほどには保障されない。今回のような事件はこれまでにもあったし、今後もまた必ず起きるだろう。
浜茄子の花

南海トラフ巨大地震

2016-05-24 19:16:54 | 科学
陸上での位置は、現在ではスマートフォンを持っていれば、GPSを使ってすぐに確認される。しかし、海底となると簡単ではない。GPSの電波や光は海底までは届かないからだ。1985年に米国カリフォルニア大学サンディエゴ校、スクリップス海洋研究所のFred Noel Spiess教授が、GPSと音響による距離測定の組み合わせで海底の地殻の変動を測定する方法を提唱し、この方法により1990年代半ばに実測された。日本でも海上保安庁がこの方法で2000年から日本近海の海底の地殻変動を観測し始めた。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震後、28日と29日には測量船「明洋」により海底局の被害調査を実施し、震源のほぼ真上に位置する宮城県沖の海底基準点が地震前と比べて東南東に約24m移動、約3m隆起したことが判明する。釜石沖の陸側のプレート2点でもともに1.5m隆起し、それぞれ水平方向では東南方向へ15m、23mも移動していた。海上保安庁は本日付の英国科学誌 Nature の電子版に「Seafloor geodetic constraints on interplate coupling of the Nankai Trough megathrust zone」と題する論文を載せた。それによると東海から四国沖にかけて、また日向灘をも含む海域の海底に予想以上の歪みが蓄積されている。政府はこの海域で30年以内にM8~9の巨大地震が発生する確率を60~70%としていたが、海底の地殻にどれほどの歪みが蓄積されているのか、分からないままであった。さらにこうした歪みと実際の地震の発生との関係もまだ十分な解明はなされていない。ただ歪みの溜まりが大きければ、やはり地震は発生しやすくなる。四国沖から日向灘にかけてが特に歪みの溜まったところが広範囲になっている。日向灘は未だ治らない熊本地震の余震とも関連し、琉球大学の木村政昭名誉教授の予測とも一致する領域だけに不安が残る。南海トラフの三連動巨大地震となると、政府予測では最大で33万人もの犠牲者が出る可能性があるのだ。津波を伴えば、実際にはさらに多くの犠牲が出るだろうし、何よりも岬に建てられた四国電力の伊方原発が心配される。物理学者であった寺田寅彦は、関東大震災の後で、「天災は忘れた頃に来る」との意味合いのことを言ったそうだが、まだまだ記憶に新しい現在に、遠からず再び巨大地震が来る可能性もあるのかも知れない。
菖蒲(あやめ)

唐松神社

2016-05-23 19:16:17 | 歴史
昨日はとてもよく晴れた日曜で、以前にも書いた秋田県大仙市にある唐松神社へ出かけた。よく晴れていて、秋田自動車道からは鳥海山もきれいに見えた。しかし、北海道で30度を超えた暑さは秋田でもやはり27度まで気温を高めていた。協和ICで降りて、秋田市へ向かう13号線に出るすぐ手前で左折して、道なりに行くと、標識があり、それに従って再び左折した。雄物川の支流である淀川を渡ると、水田が広がる向こうの小高いところに小さな城のようなものが見えて来た。ここが唐松岳でかって唐松城のあったところだ。先に唐松神社へ行くことにして、また淀川の別の橋を渡り、淀川の右岸へ行く。神社の参道には秋田の天然記念物である樹齢300年の杉並木がある。この参道に沿った舗装路を進むと駐車場がある。杉並木の先に下の階段があり、唐松神社の奥殿はその階段の上から見下ろすとこにある。本来はこの奥殿は唐松岳にあったが、禁を犯して馬で神社に乗り付けた佐竹藩主が落馬したことから、怒って、神社を現在の低い位置に移させたと言う。随分と傲慢な藩主である。宮司の物部家の庭園内には唐松山天日宮なる社殿もある。こちらはドーナツ状の池とその中心に石積みした上に建てられた社殿がある、とても変わった配置の社殿であった。たまたまその社殿の背後から池の魚に餌をやっていた宮司さんが現れたので、少しお話を伺った。この社殿は1914年に建立されたもので、石積みに使われた石は全て信者さんたちの寄付によるとのことだった。そして、本来のものはそこに繋がった南側の少し規模の小さいドーナツ状の池のあるところであったそうだ。そちらにはやはり中心に石積みがされており、「玉鉾大神」と記された石碑が立っていた。宮司さんにこのドーナツ状の池を配していることの意味を尋ねたが、宮司さんにもよく分からないとのことだった。石積みやドーナツ状の池などは縄文の匂いがする。この唐松神社の代々の宮司を務めて来た物部家には『物部文書』と称される古文書が伝わる。この古文書では日本の神話に登場する饒速日(にぎはやひ)命が鳥海山に降臨し、唐松岳に住んだ後に大和に移ったとされる。饒速日命は物部氏の祖先で、大和で蘇我氏に敗れた物部氏が秋田のかって自分たちの祖である饒速日命が住んだ唐松岳に逃れて来たとされる。饒速日命については古事記と日本書紀では登場する時代が異なっている。古事記では神武の東征時期に登場し、日本書紀では天照の時代に天照の命で、天磐船に乗って河内国に天降ったとされている。いずれにしろ饒速日命については古事記も日本書紀もよくは分からない人物であった。つまり記紀編纂時の天皇家とは関係のない系統の人物だと思われる。和田家文書でも物部氏は何度か登場しており、ドーナツ状の池などもアラハバキの神との関連もあるのかも知れない。
唐松神社境内(航空写真)

唐松神社奥殿 さすがに人が次々にやって来ていた

私庭内にある唐松山天日宮へはほとんど人が来ていない

本来の池と石碑

唐松城址の能楽殿

唐松城址案内図 唐松岳山頂に唐松神社の元宮があった

微生物との共生

2016-05-21 19:18:04 | 科学
地球は46億年前に誕生したが、その地球に生命が現れた痕跡は2013年に東北大学とデンマークのコペンハーゲン大学の共同で、グリーンランドの38億年前の岩石から見出されている。2011年にはオーストラリアの石英砂粒から34億年前の最古の細菌の化石が見つかっている。この時代は地球はまだ水の惑星で、海水が風呂のお湯くらいの温かさだったと考えられ、この細菌は酸素がまだなかった環境で、硫黄化合物を食べて生きていたと考えられている。こうした化石から、地球上には40億年前頃に最初の生命が誕生したものとされている。以後、地球環境も幾たびも変動し、その変動する環境に適応しながら、細菌も進化して来た。地球上に発生した動物たちにも細菌は寄生し、互いに持ちつ持たれつの関係、共生関係を築くことで、互いに生き残って来た。現在では人の身体にも寄生する細菌が何百種類、1000兆個もいると言われる。皮膚と腸に常在し、いずれも重要な働きをしてくれている。皮膚では有害菌や紫外線から肌を守ってくれており、腸では食物繊維を消化したり、腸の粘膜細胞とともに人の身体の免疫の7割を受け持ってくれている。またビタミン類やドーパミンやセロトニンと言った重要な物質をも作り出してくれている。人間と細菌との共生関係は何万年もの長い年月をかけて築き上げられて来た。それをたかだか数十年で変化させてしまった。「清潔」にこだわり、抗菌力のある家庭用小物が増え、自然界にはない化合物が食品に含まれることで、腸内環境をも変化させている。無菌状態で生まれた子供は母親の産道を通過する時点で最初の細菌の寄生を受け、以後、いくつもの細菌が寄生するようになることで、免疫系の発達が促されて行く。そんな子供があまりにもクリーンな環境で育てられると、正常な免疫系の発達が損なわれてしまう。人類の歴史の99%は「不潔な」環境であった。人の身体はそんな環境に適応して来た。極めて短期間にその環境を「クリーン」に変えれば、細菌の寄生状態も当然変化して来る。現代の疾患の多くはこうした環境変化が細菌に及ぼすことから生じているところが大だろう。
朴(ほう)の木の花

熊本地震からの誘発

2016-05-20 19:12:38 | 科学
去る16日17時50分頃、日向灘でM4.7の地震が発生した。この日は大分で2回、熊本で10回余震があった。2012年8月31日メディアは地震調査研究推進本部が発表した九州の各地帯の地震発生確率を伝えた。今後30年の間に、玄界灘から福岡市中心部を貫く警固断層でM7.2程度の地震が起こる確率が6%、(熊本県の阿蘇外輪山西斜面から八代海南部に至る布田川・日奈久断層帯でM7.6程度の地震が起こる確率が最大6%、小断層の密集する雲仙断層群の南西部で最大M7.3程度の地震が起きる可能性が最大4%、別府湾から熊本県境まで延びている別府・万年山断層帯の東部でM7.2程度の地震の発生確率が最大4%と言うものだった。さらに2013年1月14日には地震調査委員会が、それまで九州でM7以上の大地震を起こす可能性のある活断層を8つとしていたものを二倍の16としたことが伝えられた。そして、同じ年の2月1日、地震調査研究推進本部は今後30年以内にM6.8以上の地震が起きる可能性は九州北部が7~13%、中部が18~27%、南部が7~18%で、九州全域では30~42%になると発表したことが伝えられた。しかもこの発表では「海溝型の日向灘地震を考慮に入れておらず、また、未評価の活断層もある。」と地震調査研究推進本部の本蔵義守地震調査委員長が述べている。日向灘沖は南海トラフの西端であり、フィリピン海プレートがここで大陸側のユーラシアプレートの下に潜り込んでいる。300年前の1707年に起きた宝永地震は東海・東南海・南海地震と三連動の巨大地震であったが、この時には九州や日向灘地震も連動して起きている。琉球大学木村政昭名誉教授は以前から自身のホームページで「近年予想される大地震と富士山噴火予想図」を掲げており、そこでは日向灘地震を2014年プラスマイナス5年とされ、規模はM8.7とされている。2019年までに起きる可能性があると言うことだ。ただ同名誉教授は南海トラフの三連動地震については否定的である。自然現象は過去に起きたことと同じように起きるとは限らない一方で、予想もつかないことも起き得る。九州には玄海原発、川内原発の二つの原発があり、日向灘に近いところでは愛媛県の伊方原発がある。前二者は直下型地震に、後者は巨大地震による津波にほぼ無力である。今後起きる天変地異にはもはや「想定外」は通用しないだろう。
山藤(やまふじ)