地球上に微小な生命体が生まれ、何億年もの年月をかけて人類が誕生したが、その人類も微生物の存在なくしては生きられない。微生物とは共存して進化して来た。人の身体の細胞は30兆とも言われるが、それをはるかに超える100兆もの微生物が人の身体には住みついている。特に腸にいるいわゆる腸内細菌は免疫力とも関係して、とても重要である。人に常在する微生物は共存関係を長く築いて来た。しかし自然界には人に有害な微生物もいる。体内に侵入した有害な細菌を退治する抗菌薬が開発されたのは1911年のサルバルサンに始まる。戦後の1970年代に最も多くの抗菌薬が開発されたが、以後は開発された抗菌薬の数が減少して行く。一方で、家畜の飼育や家庭の日用品に抗菌剤が含まれるようになり、細菌の方でもそれらに抵抗力を持つようになった。耐性菌である。人が身体を必要以上に有害な細菌から守ろうとした結果である。抗菌薬は耐性菌の出現や拡大を抑制しなければならず、そのために規制も厳しく、開発費が余分にかかってしまう。製薬企業にとっては当然収益性も悪いため、どうしても開発が少なくなって来ている。新規の抗菌薬の開発が減少する一方で、日常での抗菌薬の使用が広まり、耐性菌が次々に登場して来る。今月20日英国政府は警告を発した。現状が続けば、2050年には世界で耐性菌のために3秒に1人が命を落とすと言うのだ。年間1000万人とも言う。生活の中での抗菌薬の乱用は自ら抵抗力を弱くしていることにもなる。特にクリーン過ぎる環境で育てられた子供は健全な免疫力が身に付かず、かえって虚弱な大人になってしまう。人は本来動物の一種であり、動物は自然と共に地球上で生きて来た。あまりに急速に、短期間で自然を排した人工的な環境に自らを閉じ込めてしまった人類は自然界からの報復を受けようとしているのかもしれない。空調設備も微生物の生息環境を大きく変えているだろう。人工的な食品添加物も腸内環境を変化させている可能性がある。今やスーパーでそうした添加物の含まれていないものを見つけるのが難しいほどだ。体内で有害な微生物に対する抵抗力である免疫力を弱め、体外では耐性菌が増加し、抗菌薬の開発は進まない。今一度人は微生物を含む自然との共生を取り戻さなければ、死滅への道に踏み込んでしまうのかも知れない。
芍薬(しゃくやく)