荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『ダラス・バイヤーズクラブ』 ジャン=マルク・ヴァレ

2014-03-08 11:11:02 | 映画
 『ダラス・バイヤーズクラブ』は先日のアカデミー賞で主演と助演の男優賞を2つとも受賞(マシュー・マコノヒーとジャレッド・レト)した作品。カナダのフランス語圏であるケベック州の映画作家ジャン=マルク・ヴァレのキャリアは、本作によって大きな転機を迎えた。ヴァレと同じく、同州の都市モントリオール生まれの撮影監督イヴ・ベランジェは、ケベック州の若手注目株グザヴィエ・ドランが大成功させた『わたしはロランス』(2012)のカメラも担当している。
 HIVウィルスの陽性反応が出て余命30日と宣告されたダラスのカウボーイ(マシュー・マコノヒー)が、メキシコ・日本・ロシアなどを必死に飛び回り、エイズ特効薬を入手して延命する。そればかりか、それら米国で未認可の外国製薬品を非合法的に患者にさばきはじめ、持ち前の博奕屋気質を大いに発揮、みずからの生命危機をビジネスの成功に転化してみせる。やがてFDA(アメリカ食品医薬品局)との法廷闘争がはじまり、エイズとの戦いのほかに、カウボーイは2つの戦線を戦うはめに陥る。
 「泥から這い上がった美しい魚」を連想させる素晴らしいストーリーラインで、野卑な肉体に、知らず知らずのうちに高貴な精神が宿っていくという、いわばアメリカ映画の原初の物語性をそのままなぞったようなシナリオである。とはいえ、ヴァレの演出が格別に優れているとは見受けられなかった。プライベートタッチのクロースアップに重きを置くカメラは、病魔へのサスペンスという点でソダーバーグ『コンテイジョン』を、ゲイ・カルチャーを擁護する社会運動という点でヴァン・サント『ミルク』を想起させる。
 しかしながら本作の最大の特長は、アメリカの北側にあるカナダの、もっともフランス的かつ非アメリカ的な場所としてのケベックの若き映画人たちが、アメリカ最南端、カウボーイの根城であるテキサス州に陣取って現代のカウボーイ精神を撮ってみせようとする、その逆行性にあるのではないかと思う。


ヒューマントラストシネマ有楽町(東京・有楽町イトシア)ほか全国で上映中
http://www.finefilms.co.jp/dallas/


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