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荻野洋一 映画等覚書ブログ

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小林信彦 著『「あまちゃん」はなぜ面白かったか?』

2014-06-07 01:11:36 | 
 小林信彦の「週刊文春」連載エッセイ16度目の単行本がかかげる『「あまちゃん」はなぜ面白かったか?』(文藝春秋 刊)なるこれ見よがしの書名は、“羊頭狗肉” とまで決めつけはしないまでも、看板に何やらうさん臭さが感じられる。2013年分およそ50回の連載中、NHKの高視聴率ドラマ『あまちゃん』を見出しにかかげた回はわずか3回のみ。たったこれだけで上記の書名はいくらなんでも、ヒット商品誕生秘話のたぐいをやたらと読みあさるビジネスマンを釣り上げてやろうという水増し商法とさえ思える。
 とはいえ私は上の見解を、否定的感情とともに書いているのではない。むしろ、小林御大と文春の編集者に対して「あいかわらずお人の悪い方たちだ」という微苦笑とともに、俗世間に差し向けたサディスティックなユーモアとして受け止めているのである。このタイトルを思いついた編集子を前に、小林御大が屋形舟の上でイヤらしい笑顔を浮かべつつ、「おぬしもワルよのう」とのたまわっているのが目に見えるようである。
 「小林信彦があまちゃん本を出したぞ」と早合点して本書をレジに運んだ人たちは、期待を大いに裏切られるだろう。じつを言うと『あまちゃん』に関する記述は、本書のなかで最も精彩を欠いた部分でさえある。獅子文六への参照が、多少なりとも大御所の知恵を醸してはいるが…。しかしきょうびのインターネット時代では、この程度の感想・分析はあまたのブログ等でいくらでも読める。

 その代わり、福島原発の収束不能への不安と焦燥、東京オリンピック招致への違和感、安倍政権による「戦後レジームからの脱却」に対する怒り、大島渚の死(同年生まれ)のショック、宮崎駿『風立ちぬ』に対する擁護etc.、小林信彦らしい堂々たる真っ当さが貫かれている。誰もがお気軽に戦後民主主義の限界を揶揄して得意になっている現代にあって、もはや貴重な書き手であると言わねばならないのは残念なことである。
 そしてなんと言っても、健在の毒舌ぶり。「アメリカのコメディアンたち」という回では、こう書かれている。「ジェリー・ルイスは若さと服の着こなしが良いだけの、つまらないコメディアンだった。(中略)…ジェリー・ルイスはひとりで〈底抜け映画〉を演じつづけたが、六〇年代後半から人気が下り坂になり、一部のフランスの映画批評家だけが高く評価していた。ぼくは『底抜け大学教授』(六三年)あたりで観るのをやめた。」


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