私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 



Tielman Susato: Dansereiye 1551
Editions de L’Oiseau-Lyre 436 131-2
演奏:New London Consort, Philip Pickett(指揮)

ティールマン・スサート(Tielman Susato, 1500年頃 - 1562年頃)は、その名前(de Soest)から、現在ドイツのヴェストファーレン地方にあるゼースト(Soest)の出身と考えられているが、活躍の舞台であったアントワープに何時やって来たのかは分かっていない。聖堂の記録には、1377年以前から”Tielmano de susato Coloniensis”という人物が見られることから、彼自身はアントワープ生まれではないかと考えられている。1529年に聖堂の筆書人に就き、1531年からはトランペット奏者にも任じられた様である。1532年の記録によると、彼は町の楽団員として名が挙がっており、1549年までその職にあったようである。しかし彼の名を今日まで有名にしているのは、1543年に始めた音楽出版業のためである。1541年に他の2人とともに出版業を始めるがこれは失敗し、続いて1542年に他のパートナーと別の出版社を始めるが、これも1年で解消し、楽譜印刷の特権を獲得して印刷所を創設した。彼は生涯の内に25冊のシャンソン集、3冊のミサ集、19冊のモテット集、それに19巻の曲集(musyck boexken)を出版した。
 スサートは1551年に曲集の第3巻として舞曲集(Het derde musyck boexken ... alderhande danserye)を出版した。これは4声のパート譜からなっていて、それぞれに目次を持ち、13曲のバス・ダンス、9曲のロンド、サルタレッロ1曲、6曲のブランル、8曲のアルマンド、7曲のパヴァーヌそして15曲のガリアルドが含まれている。しかしこれらの舞曲は、スサートの作曲と言うことは出来ない。スサートは、当時流行していた様々な舞曲を収集し、4声の和音付けをした編曲者と見なすべきであろう。
 当時このようなパート譜形式の舞曲集は、町の楽士達が購入して用いたものではなかった。楽士達は、その折々の編成に応じて、自ら編曲して演奏していた。このような印刷楽譜は高価であり、それらを購入できたのは、裕福な市民でアマチュアの音楽愛好家達であった。その演奏も踊りを目的にしたものではなく、アンサンブルを楽しむためであったと思われる。
 中世やルネサンスの音楽、なかでも舞曲などの世俗曲を演奏するためには、ただ楽譜があればいいというものではない。楽譜には楽器の指定はなく、テンポに表示もない。このような楽譜をもとに演奏するには、当時の音楽家達の書いた文章とか、絵画、本の挿絵などに描かれた演奏風景などを参考にして楽器編成などを決めなければならない。通常打楽器は楽譜には含まれないため、打楽器を加えるかどうか、どのような打楽器を採用するかも、演奏解釈に含まれる。それ故多くの中世、ルネサンスの音楽を演奏する団体の指導者は音楽学者でもある。
 ここで紹介するCDで演奏している、ニュー・ロンドン・コンソートの指揮者フィリップ・ピケット(Philip Pickett)は、すでにプレトリウスのテルプシコーレ舞曲集のCDの項で述べたとおり、 ロンドンのギルドホール音楽・演劇学校に学び、当初はトランペット奏者であったが、アンソニー・ベインズやデーヴィッド・マンロウの影響でリコーダーやクルムホルン、ショームなどルネサンス、バロック時代の木管楽器に興味を持ち、これらの演奏をするとともに、ニュー・ロンドン・コンソートを組織して、中世、ルネサンスの作品の演奏を行って来た。このCDでは弦、管、打合わせて35種類もの楽器を用いている。擦弦楽器では、ルネサンス・ヴァイオリンのほか、ドローン・フィデル(共鳴弦を備えたヴァイオリンに1種)、レベック、ヴィオール、ハーディー=ガーディー、撥弦楽器では、リュート、ギター、シターン、管楽器では、トランペット、コルネット(3種)、サーペント、ザックバット(トロンボーンの前身)、リコーダー(7種)、ゲムスホルン、フラウト・トラヴェルソ、クルムホルン、クルタル、ラウシュパイプ、ショーム、ラケット、ソルドゥン、レガール、鍵盤楽器ではオルガンとチェンバロ、それに打楽器として、ティンパニ、タボール、サイド・ドラム(小太鼓)、タンバリン、ベルなど計10種である。これらの楽器の様々な組み合わせで、合計38曲が演奏されている。ロンドやアルマンド、ガリアルドはそれぞれまとめて演奏されている。テンポはゆったり目で、この演奏を聴くと、確かにこの曲集は踊るためではなく、演奏を楽しむためのものだと納得できる。それがピケットの意図なのかもしれない。そのためか、一聴すると単調で、変化に乏しいように聞こえるかもしれないが、曲ごとに編成が異なり、その楽器の組み合わせによる多様な響きを楽しむことが出来る。 3曲目のベルゲレッテ(Bergerette)などは、他の演奏でもしばしば聴く曲であるが、 ティルマン・スサートの舞曲をこれだけたくさん聴くことの出来るCDは他にはないと思われる。
 なお、現在ユニヴァーサル・ミュージック・グループに含まれる、デッカ・ミュージック・グループでは、オアゾ=リール・レーベルを復活させ、旧譜の再発、新譜の発売を行うそうだが、現在ウェブサイトには、このCDは掲載されていない。amazon.co.jpには、アメリカからの輸入として載っているが、最低で4,467と非常に高価である。

発売元:L’OISEAU-LYRE

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