私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




W. A. Mozart: Sinfonia Concertante K. 364, Violin Concerto K. 216
DENON CO-78837
演奏:Sigiswald Kuijken (Violin, Viola), Terakado Ryo (Violin), La Petite Bande

協奏交響曲(Sinfonia Concertante, Sinfonia concertante, Symphonie concertante, Konzertante Sinfonieあるいは単にConcertante)と言うのは、古典派の時代、1770年頃から1825年頃までに作曲された交響曲と協奏曲を融合させたような形式の作品である*。ドイツ語ウィキペディアの記述によると、公開の演奏会の増加と、楽器、特に木管楽器の発達によって、木管楽器の独奏者の登場する作品への需要が高まった結果生まれた形式だそうだ。協奏交響曲の最初の作曲者は、マンハイム学派のカール・シュターミッツ(Carl Stamitz)とロンドンのヨハン・クリスティアン・バッハだという。しかし良く知られた作品と言うことになると、ヨーゼフ・ハイドンのヴァイオリン、フルート、オーボエ、ファゴットと管弦楽団のための協奏交響曲(Hob. I. 105)とモーツァルトのオーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットと管弦楽のための協奏交響曲変ホ長調(KV. 297b)、それにここで紹介するヴァイオリン、ヴィオラと管弦楽のための協奏交響曲変ホ長調(KV. 364)である。
 ヴァイオリン、ヴィオラと管弦楽のための協奏交響曲変ホ長調(KV. 364 [320d]**)は1779年に作曲された。1777年の後半から翌年に掛けて、母親と共に職を求めてミュンヒェン、マンハイム、パリを訪れ、パリで母を失った後ザルツブルクに戻って、1780年後半にミュンヘンに向かうまでこの地で多くの作品を作曲した。1779年には、戴冠式ミサ(KV 317)他20曲以上が作曲されている。ヴァイオリンとヴィオラを独奏楽器とするこの作品は、特にヴィオラの陰影ある響きによって非常に魅力的な作品となっている。両端の長調の楽章の明るく穏やかな曲想に対して、憂愁に満ちたハ短調の第2楽章は、特にヴィオラの役割が際立っている。
 このCDにはこの曲のほかに、ヴァイオリン協奏曲第3番ト長調(K. 216)が収められている。モーツァルトは1775年から1777年の中頃に掛けては、ザルツブルクで大主教のコンツェルトマイスターの地位にあり、ミサなどの宗教曲のほか交響曲など多くの作品を作曲したが、中でも真作であるヴァイオリン協奏曲5曲は全て1775年に作曲された。ト長調という調性が示すように、あくまでも明るい楽想の作品である。
 演奏をしているのは、ラ・プティット・バンド、独奏はジギスヴァルト・クイケン(Sigiswald Kuijken)が協奏交響曲のヴィオラとヴァイオリン協奏曲のヴァイオリン、寺神戸亮が協奏交響曲のヴァイオリンを担当している。ジギスヴァルト・クイケンは、すでに他のCDを紹介した際に触れた通り、ヴィーラント及びバルトルトと共に、オリジナル楽器演奏で活躍する3兄弟の1人である。ラ・プティット・バンドは、ジギスヴァルトが1972年にドイツ・ハルモニア・ムンディの要請で、グスタフ・レオンハルト指揮でリュリの「町人貴族(Le Bourgeois Gentilhomme)」の録音のために組織したオリジナル楽器編成の楽団である。当初は主にフランス音楽を演奏する団体であったが、次第にその分野を広げ、イタリア、ドイツ、イギリスの作曲家、バロック及び古典派の作品も演奏するようになって今日に至っている。寺神戸亮は1961年生まれで、桐朋学園でヴァイオリンを学び、1984年から2年間、東京フィルハーモニック・オーケストラのコンサートマスターを務めた後、1986年にオランダに行き、デン・ハーグの王立音楽・舞踏学校で、ジギスヴァルト・クイケンに学び、1989年に独奏者の学位を獲得した。その後主にヨーロッパで、コレーギウム・ヴォカーレ・ヘント、ラ・シャペル・ロワイアル、レザール・フロリサンなどのトップ奏者として活躍してきた。現在はラ・プティット・バンドのコンサートマスターである。録音は1995年5月に、オランダ、ハールレムで行われた。DENONの”MS(Mastersonic)”シリーズの録音の良さを強く打ち出したCDである。演奏空間の響きを取り入れた、高音部の透明感を重視した録音である。筆者の持っているものは、外国向けのCDであるが、国内盤としては現在「クレスト1000」シリーズの1枚として、 COCO-70900の番号で出ている。税込み1,050円でこの演奏が買えるのは、正にお買い得と言える。

発売元:Columbia Music Entertainment


* 協奏交響曲の定義については、ドイツ語ウィキペディア「Sinfonia Concertante(http://de.wikipedia.org/wiki/Sinfonia_Concertante)」を参考にした。
** ルートヴィヒ・ケッヒェル(Ludwig von Köchel)によって1862年に刊行されたモーツァルトの作品目録は、作曲年代順に番号が付されており、そのため改訂版が刊行されるに伴って、作曲年の変更、作品の追加により番号が変更される作品があり、作品番号の表示が複雑となっている。今日まで8版が刊行されたが、そのうち第2版、第3版、第6版に於いて作品番号に変更があった。ヴァイオリン、ヴィオラと管弦楽のための協奏交響曲変ホ長調の場合は、第1版、第2版(1905年刊行)では1780年の作とされていたが、第3版(1937年刊行)に於いて作曲年が1779年に変更されるに伴い作品番号もKV. 320dに変更された。

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