2009.6.27 18:0産經新聞
全国で相次いで報告されたオタマジャクシの雨。何年もオタマジャクシの卵すらみていない都会人にとって、これ以上の怪奇現象はない。心配性の上司・ミスターKは、「やっぱり天変地異の始まりなのか…」と、心配そうに空を見上げる。ところがこのオタマジャクシ現象、海沿いや田んぼ近くに住む人にとっては、めずらしいことではないそうだ。大騒ぎになった裏には、日本人が陥りやすいある心理状態が働いていたことが判明! そして同じ騒動は、数年前にも起こっていた…。(今れいな)
静かな能登半島が一変 テレビクルーや新聞社がドッと押し寄せ…
日本海にせり出した能登半島の中央に位置する、石川県七尾市中島町。空から降ってきたオタマジャクシが最初に確認されたのは、今月4日、同町内の中島市民センター裏にある駐車場だった。
ボトッ、ボトッ…。音に気が付いた男性職員が駐車場をみると、数十匹のオタマジャクシが落ちていた。空から降ってきたのだろうか…。
センター内から、水上和夫参事(55)が駆けつけて2人で確認したところ、駐車場内の約300平方メートルの範囲に、100匹以上のオタマジャクシが散乱。あまりの珍しさに写真を撮ったものの、「町に報告するほどでもないか…」
しかし翌日、地元紙が大きく報道すると、同時に全国から問い合わせが殺到した。
「テレビ局や新聞社が押し寄せ、連日対応に追われました。多い日は1日10件弱、これまでに30件以上の取材を受けましたよ」
あまりの騒ぎに、同町は水上さんら2人を“オタマジャクシ担当”に任命。この一件で、地元ではちょっとした有名人になってしまい、街を歩くと「オタマジャクシの水上だ!」といわれるようになってしまったという。
竜巻説、カラス説、イタズラ説…。オタマジャクシが降ってきた原因については、さまざまな分野の専門家が分析をしているが、「先生方も言っていますが、サギが吐いたのでしょう」と水上さん。「びっくりしたのは100匹もいたからです。田んぼの周りに、鳥が吐いたオタマジャクシや小魚が落ちていることは、昔からの光景ですよ」と、あっさり。
結局は「昔からよく起きていたこと」に過ぎないのか…。日本鳥類保護連盟の神崎高歩さんも、「それが正解だと思います」
神崎さんによると、サギ類やウミネコなどは、田んぼなどで小魚やオタマジャクシを摂取。ウミネコは海岸、サギ類は雑木林の中などに巣を作り、摂取したオタマジャクシを持ち帰る途中で吐き出してしまうこともあるという。
「サギ類を観察していて、小魚などが落ちていたという話はよく聞く。たまたまニュースになっただけで、めずらしいことではないと思う。むしろ、こんな騒ぎになったことの方が不思議です…」
原因を心理学的に分析
これだけの大騒動になった理由について、「面白くてよくわかる! 社会心理学」(アスペクト)などの著書がある立正大学の斉藤勇教授は、「これまでの経験では説明できない事態が起きたとき、人にはどうにかしてそれを解消しようという動機が生じるんです。好奇心が強い日本人は、特にその傾向が強い。今回の騒動は、それが原因でしょう」と分析する。
斉藤教授によれば、現代人には、環境破壊や地球温暖化など、漠然とした将来への不安を抱えている人が多い。そこで、何か大きな環境の変化が起こると、「やっぱり地球の環境が大きく変わっているんだ」と自分を納得させることができるため、自然界で起きる不思議な現象に飛びつきやすい状況なのだという。
そこにネット社会という環境も加わって、「空からオタマジャクシが降ってきた」という“怪奇現象”が、都会の人たちの心をつかんで広まった。
「そうすると、今度は『オレのところにも起こってるぞ!』と言いたい人が現れる。それをマスコミが面白おかしく取り上げるから、騒動はどんどん広まったんですよ」
そこで思いだされるのは、「ガードレールに金属片」騒動だ。
平成17年5月、ガードレールにはさまった鋭利な金属片にぶつかって、通行人が負傷。この事件が報道された当時、金属片がどうしてはさまっていたのか分からなかったため、“金属片探し”が全国に広まった。
その後、各地で同様の金属片が見つかったことから、ナゾがナゾを呼び、各テレビ局や新聞社がトップニュースで報道するなど大騒動に発展した。しかし、しばらくすると金属片は接触した車の側壁だったことが判明。騒ぎは一気に収束した。
斉藤教授は「普段、オタマジャクシをほとんど見ることのない都会の人にとっては、とても話題性があったのでしょう。ガードレールの話と同様に、こういう騒動は一気に収束方向に向かうんです」と解説。確かに、オタマジャクシ騒動もすでに収束の方向に向かっているようだ。
これらの現象に、心理学的な呼び方はあるのだろうか。
「特にありませんが…。『オタマ現象』なんてどうでしょう」と斉藤教授。しかし、オタマ現象が再び起きるころ、多くの人はオタマ現象を忘れてしまっているのではないか…。
全国で相次いで報告されたオタマジャクシの雨。何年もオタマジャクシの卵すらみていない都会人にとって、これ以上の怪奇現象はない。心配性の上司・ミスターKは、「やっぱり天変地異の始まりなのか…」と、心配そうに空を見上げる。ところがこのオタマジャクシ現象、海沿いや田んぼ近くに住む人にとっては、めずらしいことではないそうだ。大騒ぎになった裏には、日本人が陥りやすいある心理状態が働いていたことが判明! そして同じ騒動は、数年前にも起こっていた…。(今れいな)
静かな能登半島が一変 テレビクルーや新聞社がドッと押し寄せ…
日本海にせり出した能登半島の中央に位置する、石川県七尾市中島町。空から降ってきたオタマジャクシが最初に確認されたのは、今月4日、同町内の中島市民センター裏にある駐車場だった。
ボトッ、ボトッ…。音に気が付いた男性職員が駐車場をみると、数十匹のオタマジャクシが落ちていた。空から降ってきたのだろうか…。
センター内から、水上和夫参事(55)が駆けつけて2人で確認したところ、駐車場内の約300平方メートルの範囲に、100匹以上のオタマジャクシが散乱。あまりの珍しさに写真を撮ったものの、「町に報告するほどでもないか…」
しかし翌日、地元紙が大きく報道すると、同時に全国から問い合わせが殺到した。
「テレビ局や新聞社が押し寄せ、連日対応に追われました。多い日は1日10件弱、これまでに30件以上の取材を受けましたよ」
あまりの騒ぎに、同町は水上さんら2人を“オタマジャクシ担当”に任命。この一件で、地元ではちょっとした有名人になってしまい、街を歩くと「オタマジャクシの水上だ!」といわれるようになってしまったという。
竜巻説、カラス説、イタズラ説…。オタマジャクシが降ってきた原因については、さまざまな分野の専門家が分析をしているが、「先生方も言っていますが、サギが吐いたのでしょう」と水上さん。「びっくりしたのは100匹もいたからです。田んぼの周りに、鳥が吐いたオタマジャクシや小魚が落ちていることは、昔からの光景ですよ」と、あっさり。
結局は「昔からよく起きていたこと」に過ぎないのか…。日本鳥類保護連盟の神崎高歩さんも、「それが正解だと思います」
神崎さんによると、サギ類やウミネコなどは、田んぼなどで小魚やオタマジャクシを摂取。ウミネコは海岸、サギ類は雑木林の中などに巣を作り、摂取したオタマジャクシを持ち帰る途中で吐き出してしまうこともあるという。
「サギ類を観察していて、小魚などが落ちていたという話はよく聞く。たまたまニュースになっただけで、めずらしいことではないと思う。むしろ、こんな騒ぎになったことの方が不思議です…」
原因を心理学的に分析
これだけの大騒動になった理由について、「面白くてよくわかる! 社会心理学」(アスペクト)などの著書がある立正大学の斉藤勇教授は、「これまでの経験では説明できない事態が起きたとき、人にはどうにかしてそれを解消しようという動機が生じるんです。好奇心が強い日本人は、特にその傾向が強い。今回の騒動は、それが原因でしょう」と分析する。
斉藤教授によれば、現代人には、環境破壊や地球温暖化など、漠然とした将来への不安を抱えている人が多い。そこで、何か大きな環境の変化が起こると、「やっぱり地球の環境が大きく変わっているんだ」と自分を納得させることができるため、自然界で起きる不思議な現象に飛びつきやすい状況なのだという。
そこにネット社会という環境も加わって、「空からオタマジャクシが降ってきた」という“怪奇現象”が、都会の人たちの心をつかんで広まった。
「そうすると、今度は『オレのところにも起こってるぞ!』と言いたい人が現れる。それをマスコミが面白おかしく取り上げるから、騒動はどんどん広まったんですよ」
そこで思いだされるのは、「ガードレールに金属片」騒動だ。
平成17年5月、ガードレールにはさまった鋭利な金属片にぶつかって、通行人が負傷。この事件が報道された当時、金属片がどうしてはさまっていたのか分からなかったため、“金属片探し”が全国に広まった。
その後、各地で同様の金属片が見つかったことから、ナゾがナゾを呼び、各テレビ局や新聞社がトップニュースで報道するなど大騒動に発展した。しかし、しばらくすると金属片は接触した車の側壁だったことが判明。騒ぎは一気に収束した。
斉藤教授は「普段、オタマジャクシをほとんど見ることのない都会の人にとっては、とても話題性があったのでしょう。ガードレールの話と同様に、こういう騒動は一気に収束方向に向かうんです」と解説。確かに、オタマジャクシ騒動もすでに収束の方向に向かっているようだ。
これらの現象に、心理学的な呼び方はあるのだろうか。
「特にありませんが…。『オタマ現象』なんてどうでしょう」と斉藤教授。しかし、オタマ現象が再び起きるころ、多くの人はオタマ現象を忘れてしまっているのではないか…。