のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

ルーヴル美術館展3

2009-08-02 | 展覧会
7/30の続きでございます。

展示の第二室にはフランス・ハルスとレンブラントとフェルメールが一同に会しておりす。
のろはもうここだけで満足でございます。

ハルス『リュートを持つ道化師』

copyright:RMN/Franck Raux

荒っぽいまでの速描きでありながら対象を正確に捉える技術はさすがでございます。斜め上を見てにやっと笑いかける道化師の顔は、個性を持って実に生き生きと描かれております。口角をつり上げた頬や弓なりになった目元の絶妙な陰影。キュッとハイライトが引かれたひとみは躍動感のある髪と相まって、道化師が振り返ったまさにその瞬間の表情を表現しております。
全体的に荒めの筆致である中で、リュートをつま弾く右手はかなり繊細なタッチで陰影がつけられ、小指の甘皮までも描かれております。この繊細さがのっぺりとしたリュートの胴の上ではアクセントとなり画面を引き締めておりますね。


レンブラント『縁なし帽をかぶり、金の鎖をつけた自画像』

copyright:RMN/Jean Schormans

たぶん、鎖を描きたかった作品。
レンブラント26歳の自画像でございます。帽子の鎖、顔、襟元の鎖に光があたり、それ以外は黒く沈み、大きなストロークで描かれております。こうやって見せるポイントを絞るあたり、実にうまいですね。まあレンブラントつかまえて「うまいですね」もないですね。
画家は多かれ少なかれ自画像を描くものでございますが、レンブラントほど多くの、しかもしばしば非常に堂々とした自画像を残した人はいないのではないかしらん。この作品でも若い画家は身分も人格も高貴な人物のように誇らしげに胸に手をあて、顔をほとんど正面に向け、物怖じのない眼差しで鑑賞者を見据えております。
後年描かれる荒めな筆致の作品では、陰りを帯びた深い眼差し、そして本作のように若い頃に描かれた作品では、細かい筆致の明るく澄んだひとみと、レンブラントの描く肖像画や自画像はどれも奇妙に澄んだ眼差しが素晴らしく、いつまで見ていても飽くことがございません。
のろは絵に向って正面より少し左に寄ったベスト鑑賞ポイント(この絵は真正面よりもここがベストかと)に陣取り、その眼差しと視線をあわせ、彼がこれから経験しなければならない諸々の苦難-----経済的困窮、裁判沙汰、二人の伴侶と子供の死-----を思いつつ長いこと佇んだのでございました。

フェルメールでございますか。
のろの普段の信条とはまったく反対のことではございますが、フェルメールは展覧会に出かけて実物を拝むよりも膝の上に広げた図版でとっくりと眺める方が好きなぐらいでございます。と申しますのも「フェルメール来たる」=「会場超混雑」ということでございますので、押し合いへし合いしながら首を伸ばして見た経験しかないからでございます。「青いターバンの少女」が来た時なんぞは、遥か遠くの見返り少女を人の頭をよけながらチラチラ見るといった風でございまして、人気アイドル歌手のステージを最後列から見ているような気分でございました。今回はそこまで厳しい状況ではございませんでしたが、作品が小さい上に少々高い位置に展示されていることから、最前列(の片隅)から見てもまだ遠いような感じがいたしました。もっと近くでゆっくりじっくり見たかったなァというのが正直な所。贅沢ではございましょうけれども。
それにしてもフェルメールを見ていつも思うのはバランスの妙ということでございまして。色彩のバランス、空間のバランス、陰影のバランス、どれを取っても絶妙でございますね。


とまあこんな感じでここまで調子良く見て来たものの、10時半を回ったあたりから急に混み始め、気が付けばどっちを見ても押すな押すな状態になっておりました。団体さんが入っていらしたのかもしれません。そのせいにしてはいけないのでございますが、後半はすっかり集中力が途切れてかなり散漫な見方をしてしまいました。ひとつひとつの作品と丁寧に対峙できなかったのは勿体ないことでございます。
いかん、いかんよのろ。いかなる状況でも最大限に楽しめるよう努力しなくては。いやいやそうは言っても、大きな作品を引いた位置から見られないというのは、ワタクシとしてはやはりつらいものがあるのよ。

全体としては、絵そのものの美術的価値よりも文化的・歴史的な背景に興味をそそられる作品が多うございました。聖書や神話を描いた作品にしろ、ゴージャスな王侯貴族の肖像にしろ、あるいはヤン・ステーンの家族の陽気な食事のような猥雑な風俗画にしろ、ひとしく17世紀という時代の一面でございます。そういう点で、世俗的な繁栄と陰り、科学と異国へ関心、聖書と神話というセクション分けはなかなか面白いものでございました。




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