のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

長野行その3(川本喜八郎人形美術館)

2016-09-17 | 展覧会
長野行その2の続きでございます。


ホールのミニチュア人形たちを満喫し、満を持していよいよ展示室へ。
人形たちを太陽光や外気から守るため、展示室入口には窓のない自動ドアが設けられており、通路からは中の様子が窺い知れません。
憧れの大スターに会いに行くような心地で、いささか緊張しながらほの暗い展示室に足を踏み入れますと...
いきなり呂布&貂蝉!
ダウンライトを浴びて暗闇の中に寄り添い立つ呂布&貂蝉!
やっほう!

というわけで以下、怒濤の呂布語り。

さてひと口に三国志演義ファンといいましても、登場人物の好みはまちまちでございましょう。ヒーローすぎる劉備・孔明は嫌いだという人もあれば、義人とはいえ傲慢な振る舞いもある関羽はいけ好かないという人もおりましょう。悪役の曹操が嫌いだという人や、張飛は粗暴すぎて嫌だという人もおりましょう。しかし「演義」ファンの中で、呂布が積極的に嫌いだという人はいないのではないだろうかと、ワタクシ何となく信じております。何故ならば「演義」の呂布は、全話を通じて最強と言ってもいい程の武勇を誇るとんでもなく勇猛な武将である一方、あらゆる人間的な誘惑に屈するとんでもないバカでもあり、要するに憎めない奴だからでございます。

うちの呂布。(海洋堂出身、身長6cm)

装束の色合いは実物と若干違いますが、とてもよくできております。

バカ、といっても頭が悪いということではございません。天下無双の名馬に釣られて義父(兼主君)を裏切り、傾国の美女に釣られて次の義父(兼主君)も裏切り、目の前の城に釣られて協力者を裏切り、かと思えば口のうまい輩には簡単に丸め込まれ、妻に泣きつかれれば軍師の献策を踏み倒し、進退窮まっては酒に溺れ、ついには部下に裏切られ、捕らえられた後も潔く死ぬでもなく、最後の最後までじたばたしたあげくに処刑される、とまあ人間的弱さの見本市のようなキャラクターであり、行動がいかにも大人げないという意味での「バカ」でございます。しかもこれだけトラブルの種をまき散らしながら「俺は争いごとが嫌いな性分なのだ」と自分が裏切った当の劉備に向かって言い放つ無神経さ。

とはいえ呂布には、金銭にがめついだの地位にしがみつくだのといったいやらしさは見られません。また何かをいつまでも根に持つといったな底意地の悪さや、先々のためにこっそり根回しをする、表と裏の顔を使い分けるといった陰湿な側面もございません。ひたすら目の前の「いいもの」に釣られてあちらにぶつかり、こちらによろけ、その過程であらゆる信頼関係を破壊しながら突き進む様は、むしろ妙に子供っぽさすら帯びております。また一騎当千の猛者であり「人中の呂布、馬中の赤兎」ともてはやされながらも、短絡的な選択を重ねて自ら滅んで行くその姿には、一抹の悲哀が漂います。

単純脳筋野郎と見られがちなキャラクターではありますが、実際はそんな爽やかなものではありませんし(笑)、爽やかではない所が呂布の魅力の一つであろうとワタクシは思います。直情型でも張飛のような愛嬌はなく、勇猛でも許褚のように素朴ではなく、千人並みの武勇を誇りながら精神的にはひどく脆弱で、猛々しさと子供っぽさと悲劇性を併せ持つ英雄。こうした複雑な魅力が、川本人形の呂布には見事に表現されております。緑と赤を基調にしたいとも華やかな衣装も、天下の名馬・赤兎にうちまたがり無人の野を行くがごとく戦場を駈けめぐる猛将のイメージにぴったりです。声を担当した森本レオの演義も素晴らしかった。

ところでTV画面で見た時、呂布は他の人形たちと比べて大きく見えたものでございます。しかし実際に貂蝉と寄り添って立っているのを見ますと、少し背が高いくらいで、それほど甚だしい違いはございません。おそらく他の武人系人形と同じ程度の大きさかと。おそらく両肘を張ってのしのし歩く歩き方や、横目で睨みつけながら顎を反らすゼスチャーなどの傲然とした身振りが、実際よりも人形を大きく見せていたのであり、人形遣さんの巧みさの現れという所でございましょう。

そうそう、人形の動かし方なんですけれども。
展示室内に衣装を着ていない状態の人形が置いてありまして、何とこれを、来館者が手に取って動かしてみることができるんですぜ。持ってみて驚いたことには、人形の腕を動かすための棒が意外に重い。ピアノ線製なのだそうです。人形遣いさんは片手で人形の支柱を持って首の角度を変えるレバーを操りつつ、もう片方の手で支柱を支えながら人形の手首に接続している2本の棒を動かさなくてはなりません。これがまあ、やってみると実に大変で、人形の腕がすぐ変な方向へよれてしまいます。


実際の棒はもっと長かったです。

展示室に出されていたのは一番簡単なつくりの、首と腕が動くだけの人形でしたので、目を動かす時はどうするのかとスタッフのかたに尋ねた所、さっそく奥から目用と口用とレバーがついた人形を出して来て実演してくださいました。他にも衣装は人形の体に縫い付けてあるとか、三国志人形の中で一番の衣装持ちは劉備である(17着もあるんですって!)とか、色々と教えて頂きました。


需要の有無に関わらず次回に続きます。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿