MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<26-2>交渉相手と親しくなるのはいいことなの?

2006-03-15 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
「無条件に建設的に」式のアプローチには、誤解されやすい重要なポイントが二つあります。
これら二つのポイントに注意することは、日本人が交渉する際に最も大切なこととも言えるでしょう。


(1)「建設的になる」ことと「へりくだる」ことは異なる

まず最も間違えやすい点が、「建設的になる」ことの意味です。
「建設的」であることは、相手に迎合したり、自分のミスを自分から認めたり、必要以上に厚意を見せることとは全く違います。

この点、日常生活でもタフな交渉が当たり前の国に育った人の行動を見ると、違いが良く分かるでしょう。
欧米(特にラテン系の国)や中東で育った人の多くは、交渉中に絶対に謝りません。(普段でも謝ることは少ないと言えますが)
自分のミスや主張の支離滅裂さが明らかになっても、まるで何もなかったかのように次の話題に進みます。

日本人なら、「すみません間違っていました。でもこうしてわざわざ自分から誠実にミスを認めたから私を信頼してくれるでしょう?」と考える所ですが、こうした姿勢は逆にこちらを軽んじる見方を生んでしまいます。

すなわち、タフな交渉で重要なことは、「結局これからお互いにどんなメリットを提供できるか」に集約されます。
「建設的になる」こととは、過去ではなく、これからの展開に貢献することなのです。
いわば、「ここまでの経緯がどうだったか」」を蒸し返したり、相手の情緒に訴えることで好意を期待することは、内容がどうあれ建設的な姿勢と直結していません。それまでの経緯がどうあれ、そこまでどんな無茶を言っていようが、結局のところ交渉を最後に互いのメリットがある形に導く発言ができること。
それこそが「建設的」な交渉姿勢として評価される部分があるのです。

(2)前提は性善説ではなく性悪説

一つ目のポイントは、文化によってコミュニケーションの捉え方が違うことに起因していました。
二つ目のポイントはそのさらに深層とも言えますが、日本人の場合、特に性善説に基づいて行動する人が多いようです。
言い換えれば、基本的に「みんな根はいいヒトだ」という前提で、好意や譲歩を見せれば相手も最低それと同じ程度には好意を返してくれると考えるわけです。

しかし交渉の場でこの発想は非常に危険な場合があります。
相手にいいように出し抜かれて、自分だけ損をすることになりかねないからです。

多くの国では、少なくとも交渉の場においては、逆に性悪説を取ることが常識のようです。
つまり相手に必要以上の好意を求める考え方をせず、相手はあくまで相手の利害で動くと考えるのです。
利害の対立する立場で交渉する場合、交渉者同士はかなり競争的・敵対的な関係になりますし、それが当たり前で特に不快なものではないと考えるのがこの立場です。
言い換えれば、世界は自分勝手なならず者であふれていて、自然に思いやりで物事が解決することはない、という前提で話し合いに臨むわけです。

日本人にとっては違和感の大きい考え方ですが、この性悪説に正面から対峙できるかどうか、エゴにまみれた絶望的な世界で最善の解決策を作り出す努力ができるか、それがネゴシエーターにとって最も重要な覚悟だと思います。

以上のポイントを考慮すると、結局のところ

交渉相手と親しくするのはいいことなのか?

は「親しい」ことの意味によると考えるのがベストなようです。
交渉を円滑に進めるために意思疎通がスムーズに図れるようにすることは重要ですが。
しかし、「親しい」からといって見返りや甘えを期待するようでは、厳しい交渉を勝ち抜くことはできないでしょう。
また逆の発想をすれば、相手が「性善説」的な発想で交渉に臨んでいる場合、相手の誤解を利用してこちらが相手を出し抜くことも可能なのです。

今回は交渉相手とのあるべき距離の取り方を考えてみました。
とはいえ、交渉相手と信頼関係を作ることが全く必要ないわけではありません。
そこで次回は、どうすれば交渉相手と信頼関係が作れるのか、を考えてみたいと思います。

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