MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<20-1>デキル人の交渉ってどんな感じ?

2005-09-22 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
今回から第三部、いよいよ交渉の実践的なテクニックに話を移します。
第三部では交渉する上で典型的な悩みを順次取り上げ、それぞれどう対処すべきかを色々な視点から考えていきたいと思います。
本題に入る前に、最初となる今回はネゴシエーターの「あるべき姿」について、著名な教授の論をもとにおさらいしておきたいと思います。

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-どんな話し方をしたら交渉で有利になるんだろう?

MBAで交渉実習をしているときにいつも悩んだ点です。

誰しも上手に交渉するには試行錯誤があります。
英語でやる難しさがあるのはもちろんですが、それ以上にどんな態度や姿勢が「勝ちパターン」なのか、感覚をつかむまではどうしても自分の交渉にしっくりこないのです。

そこでビジネススクールではあれこれ異なる交渉のアプローチを教えてくれます。
最適のやり方は一つだけではなく、自分に合ったスタイルをその中から抽出しましょう、というわけです。
色々な方法論の中でも、理論的な枠組みだけでなく実際に誰かがやってきた経験からの示唆が面白かったりします。
今回はそうした経験から結晶化した交渉の「黄金律」の中で、特に面白かったものを、実戦用ガイドラインとして紹介します。
今回紹介するのは、ハーバードビジネススクールのMichael Watkins 教授の議論です。
(同じ内容は「Breakthrough International Negotiation: How Great Negotiators Transformed the World’s Toughest Post-cold War Conflicts」という本にまとめられています)

教授は著名なネゴシエーターのやり方や歴史上大きなインパクトのあった交渉を”Breakthrough Negotiation”と定義し、それらを振り返って7つの大原則にまとめています。
”Breakthrough Negotiator”になるための原則を一つずつ順番にみていきましょう。


1.交渉の枠組みを自ら定める

まず、優れたネゴシエーターの条件として、交渉の状況を所与で固定されたものとは捉えない姿勢が挙げられます。

受身になって相手(あるいは周囲)が言うことを鵜呑みにしていては、創造的な解決策など浮かぶはずがないからです。
優れた交渉人は、交渉が始まると同時に交渉の基本的な枠組みを自分に有利なように定義しようと試みます。

基本的な枠組みとは何でしょうか。
具体的には、誰が交渉に参加すべきか、何が争点なのか、何が制約条件なのかといった、話し合いの前提条件です。
同じ交渉でも、捉え方一つで大きく進展が変わってくるものです。
例えば、互いが敵同士で妥協を要求しあっているのか、大きな共通の敵に向かって共闘するために必要な調整をしているのか、見方次第で同じ妥協も違った見え方をしてくるわけです。
多くの場合、優れたネゴシエーターは交渉そのものが始まる前から、こうした枠組み設定のために交渉相手(や影響力ある第三者)にアプローチします。
テーブルに着く前から交渉は始まっているのです。
話し合いが始まれば、交渉人は

-話し合う議題をコントロールする
-相手に妥協を強いるような具体的アクションをとることをほのめかす
-他の交渉とこの交渉とがリンクしていることを強調する(またはその逆)

といった手段で話し合いの枠組みに影響を及ぼします。


2.相手から体系的に学ぶ

次に、優れたネゴシエーターは交渉中に相手のホンネを学びとることに全力を尽くします。

勿論、交渉が始まる前に必要な準備は徹底的に行います。
しかしながら、どんなに優秀なスタッフが情報収集し交渉の準備をしたとしても、必ずそこには限界があるものです。
だからこそ、交渉中に仮説を立ててそれを試し、相手の反応をうかがって、相手がおかれている状況の理解を常に最新のものとするよう努力するわけです。


3.交渉プロセスを支配する

交渉では、プロセスを制する者が結果も制するものです。
交渉の日時、参加する人数、参加者が囲むテーブルの形、といった非常に細かな要素でさえ、交渉の雰囲気、ひいては話し合いの内容に馬鹿にならない影響を及ぼすものなのです。
例えば、協調を求めているのに、交渉の場やプロセスが相手に不快なものであれば、それだけ相手が協力的な考えに傾く可能性も限られてきます。
一方こちらが強い立場にあって、プレッシャーを与えることで即決を狙っているのであれば、相手の心理を追い込むためにも、用意すべき環境も異なってくるでしょう。
優れた交渉人はこうした交渉の細かいプロセスにも最新の注意を払うものなのです。

(第20回続く)

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