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映画『ティンブクトゥ』その時代背景~アブデラマン・シソコ監督来日(2)

2015-07-02 07:30:24 | アフリカ映画
今年のフランス映画祭。ンボテのお目当てはワガドゥグ・アフリカ映画祭、カンヌ国際映画祭で注目を集めたアブデラマン・シソコ監督作品の「Timbukutu」。昨日までの記事では、その前日、6月27日(土)に開催された「マスタークラス」セッションの様子をご紹介した。

フランス映画祭~今年のアフリカ注目映画は?!
映画『バマコ』~アブデラマン・シソコ監督来日(1)

そして6月28日(日)、いよいよ映画『ティンブクトゥ』の上映の日を迎え、ンボテも足を運んできた。今日はその映画の舞台と時代の背景について、ンボテの考えをご紹介してみたい。



『フランス映画祭2015年』ウェブサイトにはこのように書かれている。

本年度セザール賞にて最優秀作品賞など7部門受賞、米国アカデミー賞外国語映画賞部門ノミネートの快挙を遂げた本作は、世界遺産にも登録されているマリ共和国の古都を背景に、音楽を愛する父と娘がイスラム過激派の弾圧に苦しみ、戦う姿を真摯に描いた感動作。ティンブクトゥからそう遠くない、ある街でキダーンは妻のサティマ、娘のトーヤ、そして12歳の羊飼いのイッサンと音楽に溢れた幸せな生活を送っていた。しかし街はイスラム過激派に占拠され様相を変えてしまう。恐怖に支配され、過激派の兵隊が作り上げた法によって住民たちは、歌、笑い声、たばこ、そしてサッカーでさえも禁止されてしまう。毎日のように悲劇と不条理な懲罰が繰り返されていく中、キダーンと彼の家族は、混乱を避けてティンブクトゥに避難する。だが、ある日漁師のアマドゥがキダーンの飼っていた牛を殺したのを境に、彼らの運命は大きく変わってしまう。


映画を鑑賞した第一の感想。この作品のリアル感がすごい。事前に想像していた以上に心に響き、体が震えるものだった。特にンボテとしては、そこで起きたこと一つ一つをリアルタイムで遠くから観察してきたものだった。文字や言葉で語られた史実が、目の前でリアルなものとして再現されていた。

さて、この映画の時代背景を振り返ってみよう。

時は2012年、舞台はマリの古都・トンブクトゥ(仏語表記ではTombouctou、映画ではTimbukutu)。2012年といえば年初にマリが内戦化。その後3月には首都バマコでクーデターが発生し、マリの国家機能がマヒ状態に陥る。その機に乗じて、一気にマリ北部がイスラム武装勢力に占領され、6月頃から国家は南北に分断。局解されたイスラム法典(シャーリア)による不合理、暴力的な支配が横行した。舞台設定はその時代のトンブクトゥである。


主人公キダーンは青いターバンを巻いている。すなわちトゥアレグ族の設定だ。現代史ではマリとの中央政権での不和で語られ、あたかも地域の紛争の種のように扱われることがある。ともすると現在サヘル地域で進行するイスラム武装勢力として誤解される場面さえ目にするが、ここには大きな間違えである。

トゥアレグ族は有史において、彼らが「アザワド」と呼ぶこの地に古くから棲み、放牧と交易を営んで生計とした。西洋の描く歴史の前に、トゥアレグの歴史と生活圏があったのだ。またこの歴史の中において、異なる部族、異なる生活形態、異なる宗教を有する多くの社会グループが共存してきた。トゥアレグ族はしばしば好戦的性格を表面化させ、一部には隊商を襲う盗賊的なグループも存在した。また映画で描かれている通り、限られた水資源をめぐり、放牧民と農耕民の間ではしばしば争いが繰り広げられる日常はあった。しかし大半は異なる社会グループがお互いを尊重し、平和に歴史が進行した。


その後、西洋が侵入しこの地一帯を植民地化。1960年のアフリカ諸国の独立とともに、アザワドの地は国境線で5つの国に分割された。マリやその周辺国の独立の歓喜は、トゥアレグにとっては強制分裂の悲哀を意味した。

彼らの多くはイスラム教徒であるが、それ以前に「ケル・タマシェク」(タマシェク語を話す人々)としての独自の文化と生活規範を持っていた。イスラム法典の規定以前に、女系社会の伝統を引き継ぎ、歌や踊りを大切にした。

映画の中で、4人の通訳を介して会話が進むシーンがあるが、これは英語、アラビア語、バンバラ語(マリ南部で多く語られることば)、タマシェク語だったと思う。


映画の舞台背景の前夜となる2011年ころから、サヘル地域では目まぐるしくパワーポリティクスが動いた。

2011年、リビアのカダフィ体制が崩壊。トリポリに渡っていたたくさんのトゥアレグがマリ北東部を中心としたアザワドの地に帰還した。トゥアレグは傭兵に従事していたものが多く、武器と金とともに戻ってきた。貧弱なマリ国軍との戦力の不均衡の中、バマコの中央政権とトゥアレグとの間の古傷が再燃。2012年初から、散発的な紛争が起こると、マリ北部は徐々に内戦状態に突入していく。さらに、2012年3月にバマコでクーデターが発生、国家機能や秩序は事実上崩壊する。このような状況下でトゥアレグの攻勢が進んだ。ただしトゥアレグ勢力の強硬派は武器をとって権利を主張したが、急進派でさえ主張は無宗教であり、その他の住民に敵対する行動はとらなかった。


混乱に乗じてこの地に侵入し、勢力を広げたのが暴力的過激主義を擁するイスラム武装勢力だった。主要な勢力はマグレブのアルカイダ(AQMI)、アンサール・ディーン、MUJAOの三つであった。この中にはその後、2013年1月のアルジェリア・イナメナスガス田襲撃・人質事件を首謀するモクタール・ベルモクタールも含まれていた。

これらのイスラム武装勢力は、当初はトゥアレグ勢力と共闘して支配地域を拡大するが、その後はトゥアレグ勢力を凌駕し、マリ北部を占領・実効支配する。そしてイスラム法典の極解を住民に強要し、非人道的な支配と恐怖の政治を押し付けた。この彼らこそが、映画に描かれるイスラム武装勢力であり、そしてこの映画の時代背景もちょうどこの時期なのである。

(つづく)

(マリ北部の状況についてはこちらの記事をご覧ください↓)
映画『トゥーマスト』~ギターとカラシニコフの狭間で

(映画『トンブクトゥのウッドストック』イベント、トゥアレグ女性とのインタビュー↓)
編集後記・シネマ&トーク『トンブクトゥのウッドストック』~ご来場ありがとうございました!

『Timbukutu』
監督:アブデラマン・シサコ
出演:イブラヒム・アメド・アカ・ピノ、トゥルゥ・キキ、アベル・ジャフリ
2014年/フランス・モーリタニア/97分/16:9/5.1ch
配給:RESPECT  配給協力:太秦

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