旅限無(りょげむ)

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園田直を知っていますか? その五

2005-04-17 09:12:42 | 外交・情勢(アジア)
■そもそも商売というものは、政治とは無関係に裏でも表でも逞しく続けられるものですから、日中間には少ないながらも貿易関係は有りました。しかし、70年代後期には中国側の外貨不足が露呈して、裏でこそこそやっている場合では無くなり、経済界からも「公費投入」の要求が出たようです。何のことは無い、最初の援助資金は中国側が穴を開けた日中貿易の穴埋めに使われたのです。しかし、こうして生まれた中国利権は田中派の独占状態となって、闇将軍の異名を取って田中さんが「キング・メーカー」として造り続けた内閣は、際限も無く中国への援助額を膨らませて行きました。「キック・バック」や「マージン」、「口利き料」などの諸雑費は、何処をどう流れて消えたのか、誰にも分かりませんなあ。相手が「賄賂」と「手土産」万能のコネ国家なのですから、日本側でも遣り放題だったと想像されます。
1979年12月、日本は中国に対して初の政府円借款の提供を承諾。翌年には無償援助と技術協力も始まって、

①西側の一員として中国の近代化を助ける。
②「資源の開発輸入」 などを含む対中経済関係を拡大する。
③戦争賠償を放棄した中国に対して出来るだけの協力をする。


という遠大な計画が打ち出されました。日本経済が上昇期で、「ODA中期計画」のように援助拡大への国際公約を掲げる輝かしい時期でありました。しかし、この頃の国債残高は何とか返済可能な金額に収まっていた事実も確認しておきましょう。日本は、庶民がバブルに浮かれ騒ぐ前に、政府が外交部門でバブル踊りを始めていたのです。1980年から現在まで、中国は日本から約三兆円超の円借款と、その約十分の一の規模の無償援助と技術協力を受け入れています。しかし、そんな事は一行も教科書には載せないし、人民日報にも書かないのが皇帝の国の流儀です。体質なのですから怒っても仕方が有りません。詐欺犯罪は、乗せられた方も半分悪いのですが、自分の金ではない「税金」を騙し取られても、偉そうに晩年を過ごせるくらいの心臓が無いと、とても政治家は務まりませんなあ。


● 第36回国連総会一般討論における園田外務大臣演説(抜粋)
[場所] ニューヨーク [年月日] 1981年9月22日

日ソ両国間には現在なお未解決の領土問題が存在しております。我が国がソ連に返還を求めている北方領土は,歯舞群島,色丹島,国後島,択捉島でありますが,これらの諸島が,我が国がサンフランシスコ対日平和条約で放棄した千島列島に含まれていないことは,歴史的にも,また,法的にも明らかであります。私は,この領土問題が未解決のため両国間の平和条約の締結をみるに至っていないことが,両国関係を安定的な基礎の上に発展させるための大きな障害となっていること,また,近年,ソ連が,我が北方領土において軍事力の配備・強化を行うという,極めて遺憾な事態が生じていることを指摘せざるを得ません。日本政府としては,このような事態の速やかなる是正を求めるとともに,北方領土問題を解決して我が国との平和条約を締結するための話し合いの関につくことをソ連に強く求めるものであります。私は,この問題が解決され我が国とソ連との間の真の友好関係が発展することはアジアひいては世界の平和と安定に寄与する所以であると確信するものであります。


■日中平和友好条約を締結し、対中援助も順調に「拡大」し始めた時期の園田さんは、きっと自分は世界一の外交通だと思い込んでいたのではないでしょうか?誰が書いた作文かは存じませんが、この時の国連演説は見事な出来栄えでした。天下の国連でソ連を名指しして「島を返せ!」と演説していました。最近、国連演説で注目すべき名演説が無くなってしまったのは、外務官僚の作文力が低下したからなのでしょうか?
当時の日本政府の認識では、国境問題は北にしか存在していませんでした。韓国とも中国とも「国境問題」を正式に交渉した形跡が有りません。金を与えて御機嫌を取っておけば、外交関係は円満に進む、そう信じ切っていたとしか思えません。余り相手を見くびっては行けませんなあ。韓国でも中国でも、国内の政治問題が片付けば、国民教育に努力を傾注して人材を育てて国力を蓄え始めるのは当然のことです。油断大敵火がぼうぼうですなあ。
この演説で園田さんが怒っている北方領土での「ソ連の軍備強化」は、園田さん御自身が締結した条約に紛れ込んだ一文が原因でした。こういうのを世間では「マッチ・ポンプ」と言うそうですなあ。
当時のソ連はアフガニスタンに侵攻して、いよいよ泥沼化が始まっていたのですから、好き好んで北方領土に兵隊を集めたくはなかったのです。日本が中国の口車に乗って「喧嘩を売った」から、それなりの対応をしたのでした。

■中国にとっては、葱を背負ってきたカモが「咬ませ犬」にまでなってくれるのですから、外交部では祝杯を上げていた事でしょうなあ。当時の日本の自衛隊の皆さんは怒髪天を衝くような怒りに震えていたのです。核保有国相手に「専守防衛」と言う名の「標的」になれ、と命令されるのですから、それは神風特別攻撃隊よりも惨めです。「自分から志願したんだろう」などと無責任な言葉を吐く同胞の声を背に受けて、ソ連軍と対峙するのですから堪ったものではありませんでした。ソ連がロシアになって、やっと、「島二つ」返そうかなあ?などと言い始めています。どうして、四つが二つになるのか、外務省から納得の行く説明を聞いたことが有りません。確かに日本側の誰かさんが「二つで手打ち」と言ったらしいのですが、とんでもない事です!もっと酷いのが、「樺太」の扱いです。70年代までは、日本で発行される地図には樺太の南半分は白い色で塗られていたではありませんか?樺太の南半分は、北方領土と同様に日本が降伏したどさくさに紛れてソ連が強奪した領土です。それが、何時の間にやら交渉記録も外交文書も無いまま、何となくロシア領になっているらしいのです!日本の外務省は、「総領事館」を樺太に建ててしまいました。日本国内に日本大使館や領事館は建てませんから、これは外務省が樺太をロシア領だと勝手に認めてしまった事を意味します。そんな外務省なら、尖閣諸島だろうと、竹島だろうと、沖縄だろうと、国民に無断で他国に渡してしまうかも知れませんぞ!

■外務省を統括・指導するのが外務大臣という役職です。それを統括するのが総理大臣です。余り、馬鹿馬鹿しい選挙を続けていると、頭のオカシイお役人が、日本の予算どころか領土まで食いつぶしてしまいますぞ!
組閣の時期になりますと、新閣僚が順番にマイクの前に出て、珍妙な就任会見を催しますなあ。


「ええー、オホン、この度ぃ、○○大臣をぉ、拝命致しましたぁ。△△××でございます。ええー、浅学ぅ菲才のぉ身ではございますが、粉骨砕身、全身全霊を以ってぇ、職務をぉ全うする所存であります。つきましてはぁ、これからぁ良く勉強させて頂きましてぇ、大臣の名に恥じない仕事を致す所存で御座います。」


これがただの作文ではなく、本当に大臣職に必要な知識も経験も無い!という正直な告白だったらどうしましょう?大臣様が勉強するなら、その先生は官僚群しかいませんぞ!「三尺下がって師の影を踏まず」官僚の操り人形になります、という意味の決意表明です。勢いだけで外務省に殴りこんだ田中真紀子さんは自滅しましたから、同じ目には遭いたくないなあ、と誰でも思うでしょう。政治家にとって最も必要な能力が、官僚直伝の答弁棒暗記能力である限り、日本の領土は定まりますまいなあ。

■園田直さんは、艶福家としても有名で、何でも臨終間際の床を囲んだ家族から「もう、他に隠し子はいませんね?」と確認を取られたという伝説が残っています。その園田さんのジバン・カンバン・カバンを継承した御子息が、今も国会議員として頑張っておられます。おそらく偉大な父を尊敬なさっておられるんでしょうが、間違っても日中外交を褒め称えるような、恥の上塗りは謹んで下さるよう。切に望むところであります。


●2003年選挙  熊本4区
得票数第一位 園田博之、父親は衆議院議員(園田直)
自由民主党所属 前 137,428 当選


父上の汚名を晴らすべく是非とも頑張って頂きたいものです。中国に言われるまでもなく、「正しい歴史認識」は必要なのです。これから「尖閣諸島」の名がマスコミに氾濫するでしょうが、その時に園田直さんの名前を思い出して下さい。浅薄なマスコミの解説に隠れた歴史が分かります。長い間の御静聴を感謝いたします。

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2 コメント

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園田直さん (がんこ)
2005-04-19 15:30:53
素晴らしい見識ですね。

園田直さんは私の父(故人)の熊本天草中学の先輩と聞いています。(父も空挺隊の仕官として敗戦を迎えました)



>この条約には「領土問題」への言及が無いのです!当時から尖閣諸島周辺には有望な海底油田とガス田の存在が認められていたのですが、このテレビ・インタヴューの中でこの問題が出されると、園田外相は、嬉しそうに復活したばかりの小平さんと面談した話を披露してくれたのです。

園田さんは両腕をいっぱい広げて見せ、「小平さんが言いましたよ。園田先生、この問題を話し合うには、私達は年を取りすぎていますよ。この問題は、私達の次の世代、その次の世代に任せようではありませんか。とね。いやあ、私は感動しましてねえ……」



これは有名な逸話でいまでも、中国人の叡智として引用されると言う間違った解釈がされています。

どなたかの識者のコメントでしたが、これは、

「もともと尖閣列島は疑う余地のない日本固有の領土であり、次の世代に任せる問題ではないのである。」

つまり存在しない領土問題を、無理に問題化して先送りしたという逸話なのですね。中国人の狡猾さと日本の外交的敗北として引用する話です。



私は岸田秀先生に師事しており、このブログには「官僚病の起源」からきました。旅限無さんは関心がおありのようですので、是非「史的唯幻論」的に中国を読み解いていただきたいです。拙文ですがブログを書いています。感想なりいただけると嬉しいです。

官僚病の起源にTRを張らせていただきます。

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がんこさんへ (旅限無)
2005-04-19 15:59:43
過分のお言葉、痛み入ります。本当に最近になってから、「領土」という言葉が、まるで新しい言葉のようにあちこちに出て来まして、呆れております。こうして、がんこさんと通信している間にも、あちこちの国境線が破られ続けているのを、まったく気付かずに暮らす多くの同胞には、当惑してしまいます。さて、岸田秀先生ですね。学生時代に、吉田松陰先生を冒涜?するような日本史の精神分析を読んで激怒したのは若気の至りでありました。年を経ますと、確かに「説教好きのテロリスト」では、困るなあ、と思うようになりました。『唯幻論』に関しまして、かたじけない御助言を頂きました。これは生涯かけて考え続ける問題に直結するところを衝かれてしまいましたね。フロイトの読み直しによる新たな文明論、日本論を模索中であります。テキストとなる「歴史」は残念ながら欧州史しかありませんので、日本史の再構成は大仕事です。一見無関係のネタの中にも、がんこさんが求める小さな答えが紛れ込むでしょうから、これからも御愛読下さい。有難うございました。
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