「おい、そこのおじさん!」
「お、おじさん!?こう見えてもぴちぴちの大学生だぞ!世間では専ら童顔で通ってるんだぞ!」
「そんなことどーでもいいからさ、あれ取ってよ」
子供の指差す先を見ると、木の枝に引っかかった風船があった。
「お前、随分お約束な失敗してるんだな。おっけ、取ってやるよ」
木に引っかかった風船は、大人の僕にはちょっと背伸びしただけで楽に届いた。
「ありがとうおじさん!」
生意気なガキだな。でも、どこかの誰かさんによく似ている。
坊ちゃん刈りでホッペが赤くて、生意気で大人びていて、ピーマンと山田さんちの犬が苦手な5才の男の子。笑顔にえくぼが何とも可愛らしいじゃないか。
「君、弟がいるでしょ?」
「うん!何で知っているの!?この前産まれたんだ!」
「可愛い奴だろう?」
子供は目を輝かせてうんうんとうなずいた。
「大事にするんだよ。君はお兄さんなんだから、弟を大事にしなくちゃだめだ。」
子供はうつむき加減で答えた。
「うーん・・・・。でも、お父さんやお母さんは弟ばかり大切にしているから、僕はいつも一人で遊んでるんだ」
従兄弟の中でも一番年上な僕は、いつも子供と大人の中間にいた。
従兄弟達の面倒を見て、どんな時も自分を抑えてお兄さんお兄さんしていなくてはいけなかった。
ちょっとわがままを言おうものなら、「あなたはお兄さんでしょ」と諭されるだけ。大人びるのも頷ける。
「お兄ちゃん、何してる人なの?」
「いや、さっき言っただろ。大学生だよ」
「え!?大学生!?大学って小学校と中学校とえーっと・・・・高校?・・・・・の、次に入る学校なんだよね?すごいなーすごいなー」
「へぇ。大学生ってすごいんだ?」
「うんうん!かっこいい~」
そう。そんな風に思っている時期が確かにあった。大学生なんて手の届かない雲のように、憧れというか遠い存在だったのだ。
その大学生という通過点の一つに、僕は今いる。実感はゼロ。実力もゼロ。
「ねぇ?おべんきょうって楽しい?」
そうか。この子はまだ小学校にも入学していないのだ。
勉強って楽しい?自問自答してみる。
「勉強って、やっているその時は何のためにやっているか分かんなくて、退屈だったりするんだ。でもね、後になってやっていて良かったと、じわじわ痛感してくるもんなんだよ。もしちゃんとやっていなかったら、きっと後悔する。そして後悔した時に再度勉強を始めようとしても、大体はすでに遅かったりするんだ。他の色々なことがそれを許してくれない。
だから・・・・今は何のためにやっているか分からなくても、きっといつか役に立つ日を思って、勉強してほしいな。わかったかい?・・・・・っていねぇ!」
「わぁ、バナナムシだバナナムシ!」
ところで、バナナムシは正式名称ではないらしい。というかその名では全く全国に浸透してないらしい。
本当の名前はツマグロオオヨコバイ。何とも長ったらしい名前だ。
黄色くて小さくて昼下がりの公園によく似合っているかわいい奴。
僕らはいつの間にかそいつをバナナムシと命名していた。
バナナムシを追いかける子供を見ながら、僕はその子が成長していく姿を想像した。
公式なんて覚えなくていい。1787年に何が起きたかなんてどうでもいい。「この時の作者の気持ちとして適切なもの」を選択できなくてもいい。熟語も雰囲気さえつかめばいい。イオン化傾向も知らなくていい。大事なのは・・・・
「大事なのは、なぜバナナムシはバナナムシと呼ばれるのかだ。」小さくつぶやいた。
黄色くてバナナみたいな形だからバナナムシ。
そう呼ばれてから、そのムシは可愛がられるようになった。
ゴキブリや蛾と同じ虫なのに、バナナムシは皆から好かれている。
嫌われ者のゴキブリ。働き者のアリ。怠け者のキリギリス。お洒落な蝶々。向こう見ずなナメクジ。
皆、同じ虫。
気づいたら子供が目の前に立っていた。得意げに着ている服の一点を指差している。そこにはバナナムシがいた。
僕には見えるよ。黄色い羽が君の背中に。
「つまりさ、楽しくおべんきょうすればいいんだよね?」
意外。ちゃんと話を聞いていた。
「ん。それができれば苦労しないわな。」
「楽しくおべんきょうするコツを教えてよ~」
コツと来たか。俺が教えて欲しいくらいだ。でも、年上としての威厳は見せておかねば。
「友達を大切にすることじゃないかな?」
理由は、特にない。
ただ、一緒にいると楽しくて分かり合える仲間がいれば、どんな苦しいことも乗り越えられる気がする。月並みなことだけど、やっぱり友達がいることが一番だ。
「おぉ~!友達100人作るぞー!」
そういえば、そんな歌があったっけ。
本当の友達、100人作れたらその人はきっと幸せ者だろうなぁ。まぁ、僕には6人かそこらが限界だわ。
「最善を尽くしたまえ」
「お兄ちゃんって、色々知ってるんだねぇ」
「ふふん、まぁね。」
「僕も将来お兄ちゃんみたいになるんだ!」
ほ、本当かい?僕を憧れの的として見てくれるのかい?大学では単なる落ちこぼれの僕を。僕の生き方は、間違っていなかったのかい?
「だってお兄ちゃん、真昼間なのに公園のベンチで本読んでるんだもの。いいご身分だよねー」
僕はベンチの上でずっこけた。
「は・・・・はは・・・・いや、今日は授業が休講で・・・決してサボっているわけでは・・・」
運命には逆らえず、しかし宇宙は幾通りにも分裂するという。運命の到来と宇宙の分裂は独立の事象で、かつ新しい宇宙を感じる度に運命の目が決まっていくなら、僕が今日ここでこの子と出会ったことは小さなビックバン。なんちて。
「ところで君は綺麗な水晶玉を持っているね。ちょっとお兄さんに見せてごらん。大丈夫、盗んだりしないから。」
恐る恐る子供は水晶玉を渡した。
受け取った僕は瞬時に前もって用意していたよく似ているオーブと交換し、子供に返した。
「ありがとう。お父さんとお母さんを大切にするんだよ」
うん!と大きく返事してから、子供は走って公園を出て行った。
南は太陽が一番高く昇る場所。
友達はいつでも一緒にいてくれる強い味方。
親は僕を産み育ててくれた大切な存在。
縦から読めば、南友親。なんちゃって。
「お、おじさん!?こう見えてもぴちぴちの大学生だぞ!世間では専ら童顔で通ってるんだぞ!」
「そんなことどーでもいいからさ、あれ取ってよ」
子供の指差す先を見ると、木の枝に引っかかった風船があった。
「お前、随分お約束な失敗してるんだな。おっけ、取ってやるよ」
木に引っかかった風船は、大人の僕にはちょっと背伸びしただけで楽に届いた。
「ありがとうおじさん!」
生意気なガキだな。でも、どこかの誰かさんによく似ている。
坊ちゃん刈りでホッペが赤くて、生意気で大人びていて、ピーマンと山田さんちの犬が苦手な5才の男の子。笑顔にえくぼが何とも可愛らしいじゃないか。
「君、弟がいるでしょ?」
「うん!何で知っているの!?この前産まれたんだ!」
「可愛い奴だろう?」
子供は目を輝かせてうんうんとうなずいた。
「大事にするんだよ。君はお兄さんなんだから、弟を大事にしなくちゃだめだ。」
子供はうつむき加減で答えた。
「うーん・・・・。でも、お父さんやお母さんは弟ばかり大切にしているから、僕はいつも一人で遊んでるんだ」
従兄弟の中でも一番年上な僕は、いつも子供と大人の中間にいた。
従兄弟達の面倒を見て、どんな時も自分を抑えてお兄さんお兄さんしていなくてはいけなかった。
ちょっとわがままを言おうものなら、「あなたはお兄さんでしょ」と諭されるだけ。大人びるのも頷ける。
「お兄ちゃん、何してる人なの?」
「いや、さっき言っただろ。大学生だよ」
「え!?大学生!?大学って小学校と中学校とえーっと・・・・高校?・・・・・の、次に入る学校なんだよね?すごいなーすごいなー」
「へぇ。大学生ってすごいんだ?」
「うんうん!かっこいい~」
そう。そんな風に思っている時期が確かにあった。大学生なんて手の届かない雲のように、憧れというか遠い存在だったのだ。
その大学生という通過点の一つに、僕は今いる。実感はゼロ。実力もゼロ。
「ねぇ?おべんきょうって楽しい?」
そうか。この子はまだ小学校にも入学していないのだ。
勉強って楽しい?自問自答してみる。
「勉強って、やっているその時は何のためにやっているか分かんなくて、退屈だったりするんだ。でもね、後になってやっていて良かったと、じわじわ痛感してくるもんなんだよ。もしちゃんとやっていなかったら、きっと後悔する。そして後悔した時に再度勉強を始めようとしても、大体はすでに遅かったりするんだ。他の色々なことがそれを許してくれない。
だから・・・・今は何のためにやっているか分からなくても、きっといつか役に立つ日を思って、勉強してほしいな。わかったかい?・・・・・っていねぇ!」
「わぁ、バナナムシだバナナムシ!」
ところで、バナナムシは正式名称ではないらしい。というかその名では全く全国に浸透してないらしい。
本当の名前はツマグロオオヨコバイ。何とも長ったらしい名前だ。
黄色くて小さくて昼下がりの公園によく似合っているかわいい奴。
僕らはいつの間にかそいつをバナナムシと命名していた。
バナナムシを追いかける子供を見ながら、僕はその子が成長していく姿を想像した。
公式なんて覚えなくていい。1787年に何が起きたかなんてどうでもいい。「この時の作者の気持ちとして適切なもの」を選択できなくてもいい。熟語も雰囲気さえつかめばいい。イオン化傾向も知らなくていい。大事なのは・・・・
「大事なのは、なぜバナナムシはバナナムシと呼ばれるのかだ。」小さくつぶやいた。
黄色くてバナナみたいな形だからバナナムシ。
そう呼ばれてから、そのムシは可愛がられるようになった。
ゴキブリや蛾と同じ虫なのに、バナナムシは皆から好かれている。
嫌われ者のゴキブリ。働き者のアリ。怠け者のキリギリス。お洒落な蝶々。向こう見ずなナメクジ。
皆、同じ虫。
気づいたら子供が目の前に立っていた。得意げに着ている服の一点を指差している。そこにはバナナムシがいた。
僕には見えるよ。黄色い羽が君の背中に。
「つまりさ、楽しくおべんきょうすればいいんだよね?」
意外。ちゃんと話を聞いていた。
「ん。それができれば苦労しないわな。」
「楽しくおべんきょうするコツを教えてよ~」
コツと来たか。俺が教えて欲しいくらいだ。でも、年上としての威厳は見せておかねば。
「友達を大切にすることじゃないかな?」
理由は、特にない。
ただ、一緒にいると楽しくて分かり合える仲間がいれば、どんな苦しいことも乗り越えられる気がする。月並みなことだけど、やっぱり友達がいることが一番だ。
「おぉ~!友達100人作るぞー!」
そういえば、そんな歌があったっけ。
本当の友達、100人作れたらその人はきっと幸せ者だろうなぁ。まぁ、僕には6人かそこらが限界だわ。
「最善を尽くしたまえ」
「お兄ちゃんって、色々知ってるんだねぇ」
「ふふん、まぁね。」
「僕も将来お兄ちゃんみたいになるんだ!」
ほ、本当かい?僕を憧れの的として見てくれるのかい?大学では単なる落ちこぼれの僕を。僕の生き方は、間違っていなかったのかい?
「だってお兄ちゃん、真昼間なのに公園のベンチで本読んでるんだもの。いいご身分だよねー」
僕はベンチの上でずっこけた。
「は・・・・はは・・・・いや、今日は授業が休講で・・・決してサボっているわけでは・・・」
運命には逆らえず、しかし宇宙は幾通りにも分裂するという。運命の到来と宇宙の分裂は独立の事象で、かつ新しい宇宙を感じる度に運命の目が決まっていくなら、僕が今日ここでこの子と出会ったことは小さなビックバン。なんちて。
「ところで君は綺麗な水晶玉を持っているね。ちょっとお兄さんに見せてごらん。大丈夫、盗んだりしないから。」
恐る恐る子供は水晶玉を渡した。
受け取った僕は瞬時に前もって用意していたよく似ているオーブと交換し、子供に返した。
「ありがとう。お父さんとお母さんを大切にするんだよ」
うん!と大きく返事してから、子供は走って公園を出て行った。
南は太陽が一番高く昇る場所。
友達はいつでも一緒にいてくれる強い味方。
親は僕を産み育ててくれた大切な存在。
縦から読めば、南友親。なんちゃって。
ほんわかな気持ちになって好きですw
エスタークまでぶったおした俺は最強だった
子供の無知は何かを教えてくれた気がするじぇ
ツマグロオオヨコバイでレッツ検索!