エー皆様、本日も自由広場までお越しくださいまして真にありがとうございます。
エーさっそくではございますが。師走ってのはどうもこう、皆さんソワソワしていて落ち着きませんな。おかげでストレスも溜まるようで、その反動が正月の怠けっぷりなんでしょうかねぇ。
いえね、昨日の夜なんですがね。家へ帰る途中の電車で珍事に巻き込まれたんでサァ。気分は電車男in師走って感じですナ。
あっしは車内の窓際で立って本を読んでたんですよ。司馬遼太郎さんの「竜馬がゆく」って奴でして。いやーあれは面白いですナ。止め時を知りません。正月はコレさえあればおせちもかくし芸もいりませんな。
おっと話が逸れましたァ。
とにかく窓際で本を読んでたあっしですが、すぐ隣の席がシルバーシートってやつだったんですよ。その席に二人の中年おじさんが座ってたんですよ。飲み会の帰りですかね?お二人とも知り合い同士ではないと思います。端と端、離れて座ってたんでね。
あっしは本に夢中になっておりました。
と、急に真後ろのシルバーシートから「何やってんだオラ!」、怒鳴り声が聞こえてきたんですよ。年末の人の少ない車内が一瞬凍りつきましたね。
振り返ってみると、中年おじさんの一人が携帯電話でね、電話してるんですよ。ソレをもう一人のおじさんが注意しているわけ。
皆さん見たことあります?シルバーシートに貼られている張り紙。『電源OFF』。シルバーシートの付近では携帯電話の電源はOFFにしないといけないんでさァ。といってもあっしも電源はつけっぱなしなんですがね、申し訳ねぇです。
でもさすがに車内で電話はしませんよ、しかもシルバーシート付近ではね。
携帯電話で電話していたおじさん、仮にDとしましょうか。怒鳴っていたおじさんをGとしましょう。
Gの注意をよそに、Dは電話を続けます。年末はオトナもコドモもおねえさんも。中年おじさんもなにかと忙しいんでしょうねぇ。
Gはさすがにぶち切れるんでサァ。
「おいてめぇ!ここをどこだと思ってやがるんだ!」
身を乗り出すG。Dもさすがに耐えかねて、電話を切って、
「何だこのやろう!喧嘩売る気か!」
お互い車内とは思えない声でしたね。言い合いは果てしなく続きますが、ここでは割愛させていただきますァ。
さて、俺はと言うとですね。『ああ、とんでもないことに出くわしたなぁ』。その二人に一番近いのは俺でしたから、ここは何とかしないとと思ったわけですよ。とにかく二人をなだめなくてはいけない。
しかしあっしはまだ20そこそこの若輩者。ここで割り込んで何か言っても、「わけぇもんは引っ込んでろ!」と言われて相手にされないかもしれない。そんなことを思ってたんですよ。
要するに怖かったんでしょうねぇ。何か心の奥でブレーキがかかってたんですよきっと。自分を守る保守的な立場にあったんですナ。人間だけでなく、生物が長年培ってきた知恵なんでしょうナ。
あっしは周りを見回しました。
ただ傍観している主婦二人。怯えているOL風の女性。小さい子供がいなかったのが何よりですな。
おじさん二人の向かいのシルバーシートに座っている若者なんかは、笑いを堪えてみてましたな。あそこは二人のファイトを一番良い眺めで観戦できる特等席ですナ。
DとGの戦いは、場外戦へと突入しようとしてました。
「次の駅で外に出るかコラ!」
「望むところだバカタレ!」
そんなこんなで次の駅に着きまして。二人は取っ組み合いながら外へ出ようとします。
ここに現れたのが一人の紳士。彼もお酒がまわっているようですが、冷静でした。オトナってかっこいい、正直に思いました。
「はいはいもう止めた止めた。一緒に出るぞ」
紳士はGを連れて外に出ます。Gは相変わらず鼻息が荒いです。ここで騒ぎを聞きつけた駅員がドアまでやって来ます。
外に出る時、紳士は携帯を使っていたDに向かって「あんたが悪いよ」と吐き捨てました。
まさにそうですナァ。
あっしは最初二人をどうにかしようと頭を巡らせていたとき、二人とも悪いという考えの元、この小さい空っぽのおつむを働かせていました。
でも悪いのは他でもない、Dなんですナ。
確かにGの怒鳴り方も尋常じゃなかった。あれも、確かに良くない。
でも全てはDの行動からでやんした。
あっしはそれを考えず、「二人ともうるさいぞ!」とでも言おうかと思ってましたから。こんなのは火に油を注ぐだけですナ。
紳士の一言で、Gは多少救われます。この後誰にも咎められることなく、無事に帰ることができますナ。DもDで、第三者からの発言で我に帰りますナ。
紳士は駅員に二人のことは目をつぶってやってほしいという話をしました。いやぁおいしいとこどりですナ。かっこよすぎです。
ここで駅員が、車内で平然と座っているDに向かって言ったことがまた面白い。
「お、お客様、シルバーシート付近では携帯電話の電源はお切りください」
車内にいた全員の耳と心に、響きましたな。
車内の張り紙に書かれていることをそっくりそのまま言っただけなんですがね。何とも胸に残りましたね。
ほんでもってDはといえば、開き直ったとでも言うんでしょうか。
「バイバイ♪」
Gに向かって手を振ります。
オトナじゃないですね。悪になってしまった者はとことん悪にこだわるんですな。もう後戻りはできない。
そして電車は再び走りだします。年末の静かな町を電車がガタゴト走ります。
Dは手を組んで眠りだしました。頭の中ではきっと、今の出来事がリフレインしていたんでしょう。怒りを他にぶつけなかっただけ、まだマシでしょうか。
緊張が和らいだ車内はいつものそれに戻り始めます。
今あった出来事を大げさにこそこそ話し出す主婦。OLさんも何事も無かったように本を読み始めました。
しかし、ここからがさらに面白かったですな。
次の駅に着いて、何ともチャラチャラした若者が乗ってきたんでサァ。
そして当たり前のようにシルバーシートに座りました。これだけでもあっしには信じられんのですがね。
座ってまもなく、着メロってやつがなるんです。オレンジレンジか何かなんでしょうなきっと。
そしてこれまた当たり前のように携帯を取り出して話を始めたんですよ。
皆目が点になりましたナ。
全く、人の運命は皮肉なモンです。
少しのタイムラグで大きく運命は揺れるんです。
今回はただの言い合いでしたが、同じことは何にでもあてはまります。
皆さんも普段、平然とやっているズル、ありませんか?
「今回だけ」といっては紙くずを路上に捨てたり、携帯電話を使ってはいけない場所で使ったり。
あっしもそういうことは多々あります。人に偉そうに忠告できたモンじゃねぇです。
そんな時、周りにGみたいな人がいなくても、「いかん」と注意されなくても、きっと神様だけは黙って見ているんでしょうな。
そう思うと、あっしも少しは悪事ができなくなっちまう。相変わらず小心者ですナ。
師走の珍事でした。一年を締めくくる面白い出来事でした。
最期までお聞きいただき、ありがとうございました。
エーさっそくではございますが。師走ってのはどうもこう、皆さんソワソワしていて落ち着きませんな。おかげでストレスも溜まるようで、その反動が正月の怠けっぷりなんでしょうかねぇ。
いえね、昨日の夜なんですがね。家へ帰る途中の電車で珍事に巻き込まれたんでサァ。気分は電車男in師走って感じですナ。
あっしは車内の窓際で立って本を読んでたんですよ。司馬遼太郎さんの「竜馬がゆく」って奴でして。いやーあれは面白いですナ。止め時を知りません。正月はコレさえあればおせちもかくし芸もいりませんな。
おっと話が逸れましたァ。
とにかく窓際で本を読んでたあっしですが、すぐ隣の席がシルバーシートってやつだったんですよ。その席に二人の中年おじさんが座ってたんですよ。飲み会の帰りですかね?お二人とも知り合い同士ではないと思います。端と端、離れて座ってたんでね。
あっしは本に夢中になっておりました。
と、急に真後ろのシルバーシートから「何やってんだオラ!」、怒鳴り声が聞こえてきたんですよ。年末の人の少ない車内が一瞬凍りつきましたね。
振り返ってみると、中年おじさんの一人が携帯電話でね、電話してるんですよ。ソレをもう一人のおじさんが注意しているわけ。
皆さん見たことあります?シルバーシートに貼られている張り紙。『電源OFF』。シルバーシートの付近では携帯電話の電源はOFFにしないといけないんでさァ。といってもあっしも電源はつけっぱなしなんですがね、申し訳ねぇです。
でもさすがに車内で電話はしませんよ、しかもシルバーシート付近ではね。
携帯電話で電話していたおじさん、仮にDとしましょうか。怒鳴っていたおじさんをGとしましょう。
Gの注意をよそに、Dは電話を続けます。年末はオトナもコドモもおねえさんも。中年おじさんもなにかと忙しいんでしょうねぇ。
Gはさすがにぶち切れるんでサァ。
「おいてめぇ!ここをどこだと思ってやがるんだ!」
身を乗り出すG。Dもさすがに耐えかねて、電話を切って、
「何だこのやろう!喧嘩売る気か!」
お互い車内とは思えない声でしたね。言い合いは果てしなく続きますが、ここでは割愛させていただきますァ。
さて、俺はと言うとですね。『ああ、とんでもないことに出くわしたなぁ』。その二人に一番近いのは俺でしたから、ここは何とかしないとと思ったわけですよ。とにかく二人をなだめなくてはいけない。
しかしあっしはまだ20そこそこの若輩者。ここで割り込んで何か言っても、「わけぇもんは引っ込んでろ!」と言われて相手にされないかもしれない。そんなことを思ってたんですよ。
要するに怖かったんでしょうねぇ。何か心の奥でブレーキがかかってたんですよきっと。自分を守る保守的な立場にあったんですナ。人間だけでなく、生物が長年培ってきた知恵なんでしょうナ。
あっしは周りを見回しました。
ただ傍観している主婦二人。怯えているOL風の女性。小さい子供がいなかったのが何よりですな。
おじさん二人の向かいのシルバーシートに座っている若者なんかは、笑いを堪えてみてましたな。あそこは二人のファイトを一番良い眺めで観戦できる特等席ですナ。
DとGの戦いは、場外戦へと突入しようとしてました。
「次の駅で外に出るかコラ!」
「望むところだバカタレ!」
そんなこんなで次の駅に着きまして。二人は取っ組み合いながら外へ出ようとします。
ここに現れたのが一人の紳士。彼もお酒がまわっているようですが、冷静でした。オトナってかっこいい、正直に思いました。
「はいはいもう止めた止めた。一緒に出るぞ」
紳士はGを連れて外に出ます。Gは相変わらず鼻息が荒いです。ここで騒ぎを聞きつけた駅員がドアまでやって来ます。
外に出る時、紳士は携帯を使っていたDに向かって「あんたが悪いよ」と吐き捨てました。
まさにそうですナァ。
あっしは最初二人をどうにかしようと頭を巡らせていたとき、二人とも悪いという考えの元、この小さい空っぽのおつむを働かせていました。
でも悪いのは他でもない、Dなんですナ。
確かにGの怒鳴り方も尋常じゃなかった。あれも、確かに良くない。
でも全てはDの行動からでやんした。
あっしはそれを考えず、「二人ともうるさいぞ!」とでも言おうかと思ってましたから。こんなのは火に油を注ぐだけですナ。
紳士の一言で、Gは多少救われます。この後誰にも咎められることなく、無事に帰ることができますナ。DもDで、第三者からの発言で我に帰りますナ。
紳士は駅員に二人のことは目をつぶってやってほしいという話をしました。いやぁおいしいとこどりですナ。かっこよすぎです。
ここで駅員が、車内で平然と座っているDに向かって言ったことがまた面白い。
「お、お客様、シルバーシート付近では携帯電話の電源はお切りください」
車内にいた全員の耳と心に、響きましたな。
車内の張り紙に書かれていることをそっくりそのまま言っただけなんですがね。何とも胸に残りましたね。
ほんでもってDはといえば、開き直ったとでも言うんでしょうか。
「バイバイ♪」
Gに向かって手を振ります。
オトナじゃないですね。悪になってしまった者はとことん悪にこだわるんですな。もう後戻りはできない。
そして電車は再び走りだします。年末の静かな町を電車がガタゴト走ります。
Dは手を組んで眠りだしました。頭の中ではきっと、今の出来事がリフレインしていたんでしょう。怒りを他にぶつけなかっただけ、まだマシでしょうか。
緊張が和らいだ車内はいつものそれに戻り始めます。
今あった出来事を大げさにこそこそ話し出す主婦。OLさんも何事も無かったように本を読み始めました。
しかし、ここからがさらに面白かったですな。
次の駅に着いて、何ともチャラチャラした若者が乗ってきたんでサァ。
そして当たり前のようにシルバーシートに座りました。これだけでもあっしには信じられんのですがね。
座ってまもなく、着メロってやつがなるんです。オレンジレンジか何かなんでしょうなきっと。
そしてこれまた当たり前のように携帯を取り出して話を始めたんですよ。
皆目が点になりましたナ。
全く、人の運命は皮肉なモンです。
少しのタイムラグで大きく運命は揺れるんです。
今回はただの言い合いでしたが、同じことは何にでもあてはまります。
皆さんも普段、平然とやっているズル、ありませんか?
「今回だけ」といっては紙くずを路上に捨てたり、携帯電話を使ってはいけない場所で使ったり。
あっしもそういうことは多々あります。人に偉そうに忠告できたモンじゃねぇです。
そんな時、周りにGみたいな人がいなくても、「いかん」と注意されなくても、きっと神様だけは黙って見ているんでしょうな。
そう思うと、あっしも少しは悪事ができなくなっちまう。相変わらず小心者ですナ。
師走の珍事でした。一年を締めくくる面白い出来事でした。
最期までお聞きいただき、ありがとうございました。