むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

日本人のウヨクにも左翼にも欠けている台湾史の基本的認識

2009-04-28 16:50:57 | 台湾言語・族群
NHKスペシャル「JAPANデビュー」に関するネット界のさまざまな議論を見て思ったことは、日本人のウヨクも左翼も、台湾史の基本的認識を欠いていて、台湾人との歴史的・文化的差異を無視したまま、日本人中心の見方を勝手に台湾人に投影、投射していると言う点だ。
今回のNHKに対する反応でウヨクも左翼も一様に「台湾を反日的に描いている」ととらえていたのはその好例だ。もちろん前者は「反日的に描いたのはけしからん」であり、後者は「やっぱりウヨクがいっているのと違って反日じゃないか」という「評価」の違いはあるが。
しかしウヨクにも左翼にも通底するのは、少しでも日本統治批判があれば「反日であって親日などではない」と考える「親日であること」の異常な意味範囲の狭さだ。

ウヨクは台湾人やインドネシア人の「親日」という場合、「親日」を通り越して「媚日」「日本マンセー」を期待して、少しでも耳の痛い忠告や批判があると「反日」に断定してしまう。左翼も実はウヨクとは評価だけをことにして「むしろ台湾人も反日であるほうが好ましい」と考えているだけで、「批判があれば反日」だと短絡的に考える点ではウヨクと同じ、いや、いまや論壇で声が大きなウヨクに引きずられていて、自ら主体的に思考していないヘタレだとも言えるだろう。

また、台湾人ではないが、ウヨクがよく取り上げるマレーシア人、インドネシア人の親日発言「日本のおかげで独立できた」に対して、左翼は都合が悪いと考えるのか、それを「偽り」だの「そんな発言があるわけがない」だの否定するか、ひどいときには「そんなことをいうマレーシア人やインドネシア人はアホだ」とまで言う輩がいる。それこそ、マレーシアやインドネシアの人を侮辱する傲慢な帝国主義・差別主義の発言ではないのか?
マレーシア人やインドネシア人が日本のおかげで独立したという場合、日本人左翼が考えるのとは異なる視座や視点や背景があることを、日本人左翼は謙虚に考えたほうがいい。日本人の左翼と彼らでは、経験してきた歴史や見えている世界がまったく異なるのだ。
それをすっ飛ばしてあくまでも日本人の文脈で他者の発言をとらえて「捏造」だの「おかしい」だのという権利や資格は日本の左翼にはない。
いや、これを鬼の首をとったようにして「日本の戦争は正しかった」というウヨクもまたずれているのである。

台湾人には、独立国家になったことがないなかで、日本の後に米軍ではなく(これが韓国との大きな違い)、よりによって国民党が乗り込んできて支配したという不幸がある。日本人は幸いにして戦後国民党に支配されたことはない。
マレーシア人は、英国統治はそれほど悪くはなかったが、しかし日本軍占領下でマレー系の言語文化が尊重され、その近代言語化が促進され、さらに独立国家をになうための人材育成もなされたという点で、日本を相対的に評価している。
インドネシア人にいたっては、日本軍が来る前のオランダ統治があまりにもひどかったために、日本軍が来て解放されたと考えたのであり、さらに日本の敗戦後またぞろ占領しにきたオランダ軍に対して、各地でインドネシア人とともに残留日本兵が独立のために戦ってくれたことが、親日感情につながっている。日本人は幸いにしてオランダに支配されたことはない。
同じことが、中国東北部の朝鮮族にも見られる。日本統治よりも、戦後の中国人支配のほうがはるかにひどかったからだ。日本人は幸いにして戦後中国共産党に支配されたことはない。

いわば、アジアに普遍的にみられる「日本のほうが良かった」という評価は、その前や後の支配者と比べた相対的評価でしかないという点だ。
ウヨクが喜んだり、左翼が否定したりするのは、日本人と異なる歩みをもった台湾人なりインドネシア人の歩みを無視して、日本人の視点と視座で勝手に解釈しているだけで、それは単に日本人の傲慢だといえるものだ。

地域や民族によって、歴史に対する受け止め方は様々だ。いや、歴史についての解釈や受け止め方の違いこそが、「民族」や「エスニック集団」を形成しているといっていい。

そういう点では、台湾人は中国人とはまったく異なる民族だし、日本人とも異なる。

異なっているという点を認識せずに、「親日」だからといって必要以上に甘い期待を抱くウヨクは、日本人の典型的な甘えの構造だ。左翼も単に日本という殻に閉じこもっている島国根性に過ぎない。
世界は広い。日本人が当然のことだと疑ってかからない前提や思考過程やロジックが、異なる場所では通用せず当たり前のことではなくなる。

それを私は台湾に住んで、多くの台湾人と接して学んだ。

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