むじな@金沢よろず批評ブログ

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台湾地方首長で民進党大敗も、08年総統選挙とはまた別

2005-12-05 01:21:04 | 台湾政治
 3日に投票があった台湾地方トリプル(県市長、議員、郷鎮市長)選挙のうち23の県市長選挙では、即日開票の結果、与党民進党が現有ポスト10から6県市長と大幅に後退、最大野党国民党が現有9から14県市長へと伸張、国民党に近い親民党は現有2が1へ、新党は現有1を維持、国民党系無所属が1を確保。与党大敗、野党大勝の結果となった。
 ただ、得票率では、民進党が前回2001年の45.27%から減らして41.95%、国民党が前回の44.93%から50.96%に増加させた。得票率からみれば、民進党は支持層が棄権に回った結果の微減であって、大敗ではない。国民党は民進党支持層の棄権で分母が減ったことと親民党支持層が戻った結果見掛け上増えたように見えるが、増えていない。
 ただ、小選挙区制と同じ一人を選ぶという首長選挙の特性から「より少ない得票の側が大敗する」ことになっただけともいえる。
 とはいえ、戦いの内容的に見れば民進党大敗というのはあたっている。

■民進党大敗の内部的要因

 今回、民進党が大敗した背景としては、一般的には、高雄MRT建設をめぐる疑獄事件に陳水扁総統側近、謝長廷行政院長側近などが介在したことで、清廉を売り物にしていた民進党の人気が急落し、民進党に逆風が吹いたことが挙げられているが、ただ、私自身は、汚職問題はそれほど大きな要因ではなかったと考える。
 民進党の場合、「クリーン度が高すぎたため、少しの汚点でもイメージが低下するが、国民党だともともとダーティだということは周知のことなので、汚点があっても目立たない」といわれている。しかし、それは本当か?地方選挙では民進党だって90年代からすでに買収を行っていることは周知の事実。いまどき「民進党はクリーンだ、だから今回の疑惑は寝耳に水だ」と信じている初心で純粋無垢な台湾人などいない。いると思っているのは日本人が地方選挙の実態を知らないだけに過ぎない。
 また、今回のさまざまな汚職疑惑は「騒がれたほど証拠もなかった」ことで、11月上旬にはある程度マイナス要因としては消化されていた。
 問題は、民進党がそれについて説明するなどの対応・処理が遅れていた、つまり危機管理能力が欠如していた点にある。危機管理能力の欠如が、行政能力と決断力の欠如とみなされ、陳水扁以下の評価の低落になったのである。
 疑惑というのは、放置して先送りすればするほど、疑惑を拡大生産する。早期に処理していれば傷は少ないが、先送りすると疑惑が疑惑を生む。従来民進党はこの手の疑惑が出てくると、すぐに調査委員会を設けて1週間もたたないうちに、当該者を除名するなど迅速に対応してきた。ところが、今回の民進党側の対応は、明らかに遅すぎた。それが「陳水扁自身も傷があるからではないか」という疑惑を生み、後手後手の処理が説得力を失わせた。疑惑そのものよりも対応のまずさが問題だった。
 ダーティなことは台湾人はなれているし寛容だ。問題は対応の遅さだった。
 さらに、今回の大敗はもっと別の構造的な要因、民進党の政権ボケに起因するものである。
 それはひとつは、民進党の選挙戦略、争点づくりがずれていたことである。民進党は台湾人意識、反中国(統一)を基盤とする政党であり、従来の選挙は台湾人意識に訴えることで、選挙終盤になって勢いをつけて勝利を続けてきた。ところが、04年末の立法委員選挙と今回は、終盤に「台湾人意識」を強調し、暗に国民党が「中国寄り」で民進党こそ台湾人を代表するものであることを訴えることによって、元来の支持層や中国を潜在的に嫌う若者や中間層をひきつけようとしたのだが、いずれも奏功しなかった。そして、民進党は「台湾人意識」以外のものを打ち出さなかったために、大敗したと見るのが正しいのではないか。
 これは、しかし、中国や日本の親中勢力が期待するように「台湾人が独立志向をすてて、中国寄りにシフトした」ためではない。台湾人の独立志向は実はどんどん強まっているし、中国離れは最近対中投資の減少も含めてあらゆる次元で広がっている。
 ではなぜ民進党の「台湾」アピールが奏功しなかったかというと、逆に住民の間で「台湾を守り、中国に抵抗する」ことが当たり前で主流の観念となったために、それが争点として認識されなかったからである。
 つまり、争点は「台湾か中国か」ではなかった。台湾はもはや国民党の外省人も含めて台湾社会の前提として共有されたのであり、そこには中国との距離感で多少の温度差があったとしても、中国統一はもはや選択肢にはない。
 さらに、地方選挙では、中国なんて誰も意識しないし、地方選挙で対中交流が争点になるわけがない。地元をどう建設するかが争点というか売り物になる。
 国民党の候補者も、外省人保守派である台北県長候補以外は、いずれも穏健派や本土派といわれる土着性に強い候補だった。彼らは、汚職で訴追されているなどダーティーな人がほとんどであるが、それでも地元に密着し、その地元で何十年もどぶ板で人脈と支持を獲得してきた人たちだった。
 これに対して、民進党はふざけたことに、中央政府で高官だった人を各地で「落下傘」候補として擁立、陳水扁の「威光」を背景に陳水扁とのパイプを強調して、建設を訴えた。
 しかし、相次ぐ汚職疑惑に後手後手で遅い対応か責任逃ればかりしてきた陳水扁は、もはや支持層にも愛想をつかされ、レームダックになっていた。いまさら「陳水扁の威光やパイプ」など、誰にも魅力などない。
 陳水扁は支持を失っているにもかかわらず、それを知らずか、盛んに応援演説に出たがり、それがさらに支持層の失望を買った。しかも、まともなことをいうならまだしも、台中市長が健康問題を抱えていることをネタにして「再選されても任期途中でぶるぶる震えてぶっ倒れたら、意味が無い」などと、それこそ病人の人権を無視する発言をして、憤激を買ったりもした(中国人ならともかく、普通、台湾人は病人や障害者に同情する神経を持っている。だから候補によっては「おれは病気で死ぬかもしれないから、勝たせてくれ」と懇願するのもいるくらいである。陳水扁の「ぶるぶる」発言は、彼がもはや台湾人庶民感情から乖離していることを示したものだった)。
 民進党の世論調査と票読みは、正確で確実であることが知られていたが、04年総統選挙で確実に読んで再選をものにしたのを最後に、どうも読みが鈍りつつあった。
 04年末の立法委員選挙では、台聯とあわせて過半数の読みが、完全にはずれた。今回も前日の幹部たちの予想のうち「それほどありえそうではない」最悪の下限だった6県市長だけと、やはり読みが鈍っていた。
 民進党内派閥の調整、あるいは台聯との協力と調整も最後までしっくりせずに、ごたごたが残っていた。
 落下傘候補の擁立、陳水扁のでしゃばりと失言、票読みの鈍化、内部の足並みの乱れ。これは政権二期目に入ってから驕りが出たのか?
 それにたいして、国民党は地元密着型候補、マスコミ受けするパフォーマンス、票読みの慎重化、内部調整の成功と、ここ最近例を見ないほど好条件が重なった。
 民進党が勝つためには、昨年末も今回も、台湾意識ではなくて、実はもっと政策や展望を打ち出すべきだったのである。そして、地方選挙ともなれば、日ごろの地道な有権者へのケアが重要となる。
 もちろん、独裁政党として地方の隅々に基盤がある国民党と違い、民進党には有権者ケアという点では、明らかにハンデはある。しかし、そこは民進党が国民党に比してまだまだ優勢を保っている「改革、進歩、清廉」イメージで補うことで、いくらでも国民党に対抗できるだけのアピール力は生まれるはずであった。
 ところが問題は、民進党が台湾住民にとって、地方選挙ではもはや当たり前になっていた台湾意識を前面に掲げて、ほかに訴えることをしなかったことである。
 たしかに公務員に対する税率、預金利息優遇政策の見直しといった社会公正問題の訴えはしていた。しかしそれもわざわざ選挙で訴えなくても行政命令や日ごろの措置でできることであって、選挙でいまさらながら訴えることの「わざとらしさ」は説得力をなくしていた。
 今回の民進党の大敗は、重なる汚職に対する民進党の対応の遅さとまずさ、陳水扁の失言と責任逃れ、有言不実行、落下傘候補による権力の誇示など、台湾人が最も嫌うことを民進党が次々に行ったことで、支持層が失望して、棄権に回ったことが大きい。
 実は民進党自身も支持層の棄権こそ恐れていたことだが、結果的に支持層を投票に向かわせるアピールはできなかった。
 もちろん、民進党も接戦で敗れたり、分裂を防げば当選していたであろうところは3-4はあった。これが当選できていれば、なんとか現状維持だったのだが、悪条件が重なった今回は、最悪の可能性のほうに結果が出たわけだ。

■台湾政治の流動性

 ただし、この結果について、日本では「台湾派民進党の大敗、中国寄り国民党の大勝で、国民党の馬英九主席が2008年の総統選挙で勝利は確実になった」などというしたり顔の見方が多いようだが、それは台湾政治の流動性を知らないで、一時的なムードで見ているだけである。
 そもそも、台湾政局は、緑(民進党など)と青(国民党など)の優勢が、ほぼ半年くらいの周期で繰り返されている。たとえば、民進党政権獲得後でいえば、2000年5-11月は民進党優勢、その後落ち込み2001年1-10月は親民党優勢、2001年11月-2002年は民進党優勢、2003年は国民党優勢、2004年1-10月は民進党優勢、2004年11月から2005年1月は国民党優勢、2005年2-7月は民進党優勢、2005年8-12月が国民党優勢、となっている。
 現在たまたま国民党が優勢に見えても、半年先はわからない。まして、総統選挙までまだ2年4ヶ月もある。変数が多く、現在の表面的な現象だけで、「馬英九有利」なんていっている人は、それなら昨年9月ごろには、「民進党長期政権は確実」という、やはり当時のムードに流されていたであろう。

■地方選挙はあくまでも地方選挙

 今回のような地方首長選挙と総統選挙では、選挙の性質が違うし、争点や意味も違う。
 だから、今回の結果だけから、2008年の総統選挙で国民党が有利と占うのは、軽率であろう。
 民進党が政権を握って以降、台湾人意識、台湾主体意識は主流、多数派の価値観になっており、いまや「台湾か中国か」というのは、立法委員、地方首長以下のレベルの選挙では争点にはならない。今回の県市長選挙を見ても、国民党候補と民進党候補では、台北県を例外として、台湾土着性の点ではそんなに変わらない。中には、花蓮県、嘉義市、苗栗県首長のように、国民党候補のほうが民進党候補よりも「台湾本土派」として明確なのではないかと思わせる「逆転現象」もあったくらいである。
 つまり、総統選挙ならある程度考慮するであろう「省籍」や「台湾か中国か」という問題は、地方選挙である今回には考慮する必要がなかった。
 台湾人有権者にしても、国民党もその地方では同じ台湾人であり、中国とは関係もなく、地方建設だけ考えているという「安心感」があったのである。
 たとえば、04年総統選挙では、陳水扁が多かった彰化県では、今回は国民党が県長選挙で勝った。伝統的に民進党が常に多い宜蘭県でも国民党が県長を物にした。
 いずれも国民党になったからといって、県長が外省人ばかり優遇するとか、中国にべったりになるという心配はなかったからである。というか、地方選挙でははじめから「両岸問題」「統独問題」「アイデンティティ」は争点にならない。
 それに、国民党の首長になったからといって、その県が国民党一色になるとはいえない。逆もしかりである。
 たとえば、台北県長に当選した国民党保守派外省人二世の周錫瑋も、当選に際して、台湾語も使い、また民進党の政策や人材も積極的に活用して、族群と党派を超えた台北県政を実施していく旨語った。
 周陣営では、投票前日に馬英九も演説したが、「われわれ台湾人」をしきりに強調していた。
 いずれも、本心かどうか別としても、しかし少なくとも彼らがそういわざるをえないほど、台湾政治が、着実に土着化しており、外省人ばりばりの発想だけではうまくいかないことを示している。
 また、桃園県長は現職で国民党の外省人、朱立倫が大差で再選された。しかし、朱は外省人とはいっても母親も妻も台湾人であり、県長としても桃園神社の保存事業に熱心で、むしろ反日外省人から反発されたほど、台湾土着意識は強い。台聯や民進党とも裏では密接にコンタクトをとっていて、民進党政権にも協力的である。だから桃園県では04年総統選挙で、本来青陣営が6割以上の実力があったはずだが、陳水扁は連戦との得票率差を10ポイント程度にまで縮めることができた。朱が連戦支持を熱心に行わなかったからである。
 04年総統選挙でいえば、当時の雲林県は国民党県長で国民党系地方派閥の力は強かったが、総統選挙では陳水扁が6割と圧倒している。台中県でも同様だが、総統選挙では陳水扁が過半数を得票した。
 さらに、今回の台北県長選挙では、外省人保守派の周錫瑋が当選したが、これをその下の郷鎮市別の得票、郷鎮市長の当選所属党派と対照してみると、瑞芳鎮では県長は国民党票が多かったが、鎮長は民進党が押さえた。三重市、平渓郷などは県長では民進党票が多かったが、国民党が首長になっている(ただしもちろん本土派)。
 つまり、国民党の地方首長であるからといって、全部が国民党になるとは限らない。
 総統選挙ともなれば、国民党の地方派閥も国民党を支持するとは限らず、台湾意識が発酵することもある。
 そもそも、台湾地方選挙では、下に行けば行くほど、国民党が多い。
 民進党が強いとされる台南県ですら、県議員や郷鎮市長クラスになると、国民党のほうが多い。だが、その国民党が一斉に国民党支持で固まるかというとそんなことはないから、民進党首長が誕生するのである。地方に行けば行くほど「党」籍は意味がない。人脈で動いているからである。
 だから、今回の結果だけをみて「08年は馬英九が確実だ」などといっている人は、台湾地方政治のそうした生態と実態を知らないだけだろう。実は人脈や台湾意識も含めて、もっと複雑な要因が絡んでいるのである。

■国民党と馬英九の「人気」の実態

 それから、実は馬英九が主席になってから、国民党が支持を増やしているとはいえない。
 民進党やさまざまなメディアが行った調査を見れば、国民党の支持率は最近増えているとはいえ、実は親民党が急落した分、国民党に舞い戻っているだけで、青陣営全体の支持率はぜんぜん増えていない。いや、むしろそのときの変動で減っていることもあるくらいなのだ。
 見かけ上、国民党が増えて勢いがあるように見えるのは、実は民進党が支持層から失望を受けて支持率が落ち込んで、支持率を変えていない国民党が相対的に得をしているだけである。
 民進党の支持層が失望したのは、陳水扁の姿勢のまずさが最大の要因であるが、これももし民進党が改革を行うとか、あるいは外省人保守派とみられる馬英九があまりにも強くなると、危機意識が働いて舞い戻る構造になっている。
 また、「馬英九人気」についても、彼が主席になって最初の選挙である今回の選挙では、「馬英九に恥をかかせるな」といって国民党が燃え上がり、国民党は大勝したし、それにたいして国民党以外の選挙民も好意的に受け止めたのは事実である。
 しかし、それはあくまでも馬が主席になったばかりという「ご祝儀相場」であって、いまや地に落ちた陳水扁だってそれぞれ一期目と二期目の最初の半年は支持率が高かったことを考えれば、半年後にはそうではないというべきだろう。
 馬英九にとってのつまずきの石は、まさに国民党が独裁時代に不当取得した膨大な資産の清算処分問題であろう。馬英九はかっこをつけたいのか、いい子ぶりたいのか知らないが、これを清算することを党改革・刷新の最大課題に掲げた。
 ところが、党資産を処分すれば、中央で外省人がコントロールすることで、台湾人の地方派閥を自らの手足として使っている今の構造が崩れ、地方派閥の自立性が高まり、国民党という組織そのものが有名無実化する可能性が高い。もちろんそうなったほうが国民党の本当の意味での本土化、普通の保守政党化、というか、無所属保守連合として再編されるきっかけとなるので、台湾の歴史にとってはありがたいことだが、外省人が中央から君臨する構造は解体され、馬主席は意味を失う。そうすると08年どころではない。
 だが、いったん宣言した以上は、これを果たさないと、馬英九への失望感は急速に広がり、やはり彼は支持率を急落させる。
 また、「馬英九人気」といわれているものも、実は国民党外省人系メディアがそういっているだけに過ぎない。
 そもそも「ハンサム」というが、民族によって基準が異なり、台湾人の多くはああいうのをハンサムだと認識しない。南部では、「オカマでキモイ」と見られるのが落ちである。さらに、「かっこいい」というのも、たしかに都市部の女性には人気が出るだろうが、南部では「何をかっこつけてんねん」ということになって、やはり人気がない。
 馬英九の「人気」は北部都市部の一部の上滑りのもので、実態はない。
 ただ、だからといって、軽視できるかというと、そうではない。それは国民党という組織が基盤となっていて、トップダウンの国民党は党主席の権力がかなり強いからである。
 だが、党資産問題がまさに馬英九と国民党のボトルネックになっている。馬がこれを進めても進めなくても国民党は弱体化する。それから、国民党は若者には人気がなく若手の人材もいない。さらに、08年に政権を奪取したとして、経済運営の人材もいない。いま国民党内に残っている経済専門家は、いずれも80年代の思考と思想を持っている人たちで、21世紀になって急速に変動している現在のグローバル経済に太刀打ちできる人はいない。「国民党は経済政策に強い」というのは、実はうそである。
 馬英九が08年総統選挙に勝つ可能性は、実は低い。というのも、以上挙げたすべての複雑な要因をクリアする必要があるからである。
 まして、馬英九は外省人で台湾のことを理解しない保守派とみられている。これは彼のボトルネックである。


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