むじな@金沢よろず批評ブログ

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リビア・カダフィ元首の正論:「イスラエルと軍事協力している中国は文句を言うな!」

2006-05-14 22:42:16 | 台湾政治
台湾の陳水扁総統は中南米友邦歴訪の帰途、5月10日、リビアのトリポリに立ち寄った。8時間近くの寄航は、正式訪問であるといい、陳総統は直接認めていないが、前後関係からすれば、事実上の元首のカダフィ大佐とも会見したようだ。
台湾各紙が報道したところによると、カダフィ大佐は陳総統に対して、リビアが陳総統を受け入れることに中国が圧力をかけているが、(1)中国自身が台湾と密接に経済交流をやっている以上、リビアと台湾が交流することに反対できない;(2)中国はアラブの敵でアラブの土地を占拠しているイスラエルと密接な軍事交流を行っている以上、リビアが台湾と交流することを妨げることはできない----などと述べ、さらに台湾との代表部相互設置、経済・軍事・通商・農業などあらゆる分野での交流強化、台湾人の観光ビザ免除などが取り決められ、「台湾はリビアをアフリカ展開の橋頭堡に使ってもいい」というかなり好意的な発言もしたという。

すごい!すごすぎる!さすがは中東の暴れん坊、風雲児といわれたカダフィ大佐だけのことはある。中国が原油を買ってくれるという利権に目がくらんで、イスラエルと結託し、東トルキスタンのイスラーム同胞を虐殺している中国と関係を緊密化させているヘタレな封建王国サウジアラビアや、変な大統領がいるイランとは、デキが違う。米国に爆撃されて殺されかけた男だけのことはある。さすがだ。

#そういえば、以前おかしな中国派左派人士が、「台湾はイスラエルと友好国」だなどと実態と異なった話を捏造して、台湾を「イスラエルと同じ人工国家」と中傷したことがあるが、その人は、今回のカダフィ大佐の発言を見れば何の反論もできないだろう。

かつて、PLOのアラファト議長も、南アのマンデラ大統領就任式で、李登輝・台湾総統と会談したことがある。李登輝総統がアラファトの台湾訪問を招請したところ、アラファト議長は即OKした。李登輝総統が「中国の支援を受けているPLOだが、中国からの抗議は気にならないか」といったら、アラファト議長は「おれはイスラエルと米国に何度も砲撃されて殺されかけた。中国からの口先だけの抗議など怖くもない」と答えたという。そりゃそうだ。残念ながらこの話は、当時台湾外交部が、あまりにも米国べったりで頭が固すぎたため、アラファトを「テロリスト」に指定して入国拒否していたため実現しなかった。

そういえば、もう一方、中東で中国の圧力など気にせず、台湾と友好的な関係を保っていた指導者がいた。それはヨルダンの故フセイン前国王だ。さすがに78年に断交した国交は回復するまでには至らなかったが、台湾人が着地ビザを取得でき、台湾政府が「中華民国」名義の代表部もおいている。大臣級の相互往来は頻繁だ。フセイン国王も、何度もパレスチナ過激派、イスラエルなどに殺されかけ、難を逃れるために、幼少のころに里子に出されていたベドウィンの部族の元に身を寄せたこともたびたびある。

残念なことは、台湾国内で、リビアを「ヤクザ国家」だの「テロ支援国家」だの「人権弾圧国家」だのと罵倒して、関係強化の足を引っ張ろうとする人が多いことだ。これが国民党系だけでなく、民進党系にもいるのは、とんでもないことだ。そんなことだから、台湾が外交的孤立から脱却できないのだ。
大体、ある国の文化的歴史的背景を知りもしないくせに、その国をヤクザだの人権弾圧だのと罵倒することは、単なるオリエンタリズム、レイシズム、人種差別主義である。
国民党議員がリビアを「ヤクザ国家」などといっていることにいたっては、蒋介石という土匪、ヤクザの頭目を棚に上げて言えた義理かと思う。

民進党系の学者や政治家に、「リビアが人権弾圧国家であり、民進党政権の掲げる人権外交と反するし、米国にも歓迎されない」などと指摘する人間がいるのは、国民党時代の「反共でなければすべて敵」という反共孤立主義外交と同質の視野狭窄症である。「台湾の主体性」などどこにもない、米国の奴隷である。そもそも民主主義は万能ではない。
確かにリビアは、民主的な国ではない。カダフィ大佐の独裁である。言論も極度に抑圧されている。しかし、部族社会が基本の中東では、ほとんどの国が独裁体制になっているのはなぜか、それには地理的・歴史的必然性があると考えられる。
部族社会で、議会制民主主義を導入すれば、人口が多い部族や宗派が常に多数を占めて、少数派の声は常に反映されない。現在「民主化」したイラクがそうである。シーア派アラブの独裁になっている。結局、民主化しても独裁になるだけなら、民主化して少数派部族・宗派の不満が高まり、イラクのように不安になるより、リビアやシリアのように世俗的な指導者が独裁をするほうが、合理的ということになる。
だからといって、人権抑圧を正当化するものではない。しかし、中国のように軍拡に狂奔して、他国にミサイルを向けて脅しているような国と違って、リビアはアフリカ連合の提唱者であり、アフリカ各地に人道援助を展開しており、中東では米国とも戦った国として尊敬を受けている。また、イスラーム教社会主義の美徳として、「貧しい人への福祉」を常に考慮する頭が、シリア・アサド政権、リビア・カダフィ政権、イラク・旧フセイン政権に見られる。カダフィもフセインも、貧しい人のために病院を建てたりしているし、米国の爆撃から逃れるときに、遊牧民のテントで過ごすなど、常に庶民層と近い距離にいる。これも、中国や北朝鮮の独裁者が、庶民とかけ離れた贅沢三昧の暮らしをしているのとは異なる。
その意味で、台湾人がカダフィ政権を罵倒すべき理由はまったくない。

まして、リビアがアフリカおとび中東で占めている地位と各国との関係を考えれば、きわめて重要であり、カダフィ大佐が「リビアを台湾のアフリカ進出の拠点に使ってもいい」というのは、昨年西アフリカの重要国セネガルと断交した台湾にとって、神の啓示にも等しいきわめて重要な発言である。こんなカダフィ大佐を攻撃する一部台湾人の気が知れない。というか、リビアの重要性がわかっていないで「中東のわけのわからん男」だと蔑視しているだけではないのか?どうしょうもない傲慢な人種差別、視野狭窄である。

もちろん、不安要素はある。それはカダフィ大佐が、きわめて気まぐれだからだ。だから、数年後に突然台湾との関係をすべてご破算にしないとも限らない。それに、今回台湾との関係強化を図った真意も今ひとつ見えてこない。
そういう点では、リビアにべたぼれする必要はなく、冷静に付き合っていくべきだと指摘することは意味があるが、「人権抑圧」という非難は余計であり、台湾外交の発展を損なうものでしかない。


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