むじな@金沢よろず批評ブログ

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裸の王様・KY陳水扁、息子らの「罪状自白」は司法取引戦術だが、陳水扁の政治生命の終焉を意味する

2009-01-24 17:14:07 | 台湾政治
陳水扁が獄中手記などをまとめた本を出したことは完全に裏目に出たようだ。
民進党の陳水扁に近い幹部の秘書も「あの本を読んで、愛想をつかした。こんなことじゃ弁護しようがない」と呆れていた。「これで陳水扁はオワタ。ただそれは同時に陳水扁事件を騒ぐことで、失政を隠してきた馬英九政権の命運の尽きでもある」。

それはともかく、陳水扁の新刊が出てから、側近や息子夫婦らきわめて親しい人たちが罪状認否で「罪を認めて謝罪する」のが相次いでいるのは注目すべきことだろう。
これは台湾の司法システムに無知な日本人や中国人などは「ほら見たことか、陳水扁は黒だ」と思うみたいだが、これは司法取引の一種。「罪を認めてほかの被告に関する証言をすること」で、その罪を認めた本人が被告ではなく証人になるとか、無罪になったり、せいぜい罰金刑になったりする、そういう取引なのだ。

なぜこういうことが行われるかというと、台湾の司法機関の能力の低さにある。早い話が台湾は民主主義といっても司法(および立法)はまだまだ前近代的なのだ。

そもそも台湾の司法は、日本などの多くの先進国のように厳格な物証にもとづいて認定していくのとは違って(ただし米国は司法取引を多用するが)、自由心証主義なので、捜査や裁判の過程での被疑者や被告の「態度」「人格」「発言」が判決を左右する。
だから、逮捕されてから態度がよければ、実際には犯罪を犯していても無罪になるし、態度が悪ければ犯罪を犯していなくても有罪になってしまう。
いってみれば、前近代的な大岡裁きみたいなもの、近代的な司法制度とは言いがたい。
そこを勘違いして、民主主義国家の司法制度だから、日本と同じようにきっちりやっているだろうと思ったら、それは国情の違いをわかっていないバカだ。
陳水扁やその家族が逮捕起訴されただの、有罪になったりしたとしても、それを日本の司法の常識で当てはめて、本当に犯罪を犯していると思い込んではいけない。台湾の司法は日本の基準でいえば司法ではないのだから。

ただ、郷に入れば郷に従えというか、そういう前近代的システムが機能しているのは事実である以上、それにあわせて被疑者や被告も行動すればいいのだ。態度がよければ心証も良くなって無罪になる。
そういう意味では、捜査が始まってからの陳水扁と家族が言動や態度は、民衆や裁判官の心証を悪くするものであり、そういう意味では頭が悪すぎた。

しかも、新刊書が出てからまもなくの段階で、側近や息子夫婦が相次いで「罪を認める」発言をしたということは、新刊書を読んだ関係者が「こんなやつを庇って、やってもいない罪で自分が有罪になるのはバカらしい」と思った可能性が高い。
陳水扁は自分を政治迫害の犠牲者と見立てて、新刊書で「自分はこんなにかわいそうだ」と訴えて、同情を引いて、それで無罪を勝ち取ろうとしたのだろう。
また同時に自分の獄中生活が長引き、さらに蔡英文や新潮流も不人気とあって、謝長廷が次の盟主に復活することが必然の情勢になっていることから、謝長廷の出鼻をくじくために謝バッシングを行ったのだろう。

ところが、世の中はそうは見ない。「私はかわいそうで、間違っていない」としたまではいいが、それで同じ民進党の同志である謝長廷らを攻撃してしまったので、逆効果になってしまった。
もっとも、謝長廷本人が出てきて反論を行うというミスをやらかしてしまったので(その後誤りに気づいたのが沈黙したが)、陳水扁による謝長廷の足を引っ張る戦略は少しは奏功したといえるが、肝心の自分自身の無罪につなげる戦略は失敗どころか、裏目に出てしまった。
そういう意味では陳水扁は「裸の王様」で、完全にKYになってしまっている。貧すれば鈍すともいうべきか。

台北市長から2004年の総統選挙までの、あの、輝いていて、仕事もできた陳水扁はどこに行ってしまったのか?もともと本を読まず深みがないキャパシティや器の小ささが災いしたのか。陳水扁を見ていると、漫画や芸能界の一発屋を見ているようだ。一時だけはすばらしいアイデアや能力を発揮するが、それで才能を使い果たし(その程度の才能しかなく)すぐに飽きられ、飽きられた後も下手にあがいて、自ら首を絞めてしまう、というパターン。
それだけ台湾の政界というより、政治の世界は淘汰が速い。

そういう意味では漫画の「こち亀」や「ゴルゴ13」、政治でいえばチェコのハヴェルなどは、驚異的に長持ちしている、天才というべき領域だろう。
台湾だって李登輝だってもうとっくに駄目になっているし、馬英九は就任からたった半年あまりでもはや駄目になっている。

というか、台湾人は陳水扁が嫌いだといって馬英九に入れたんだが、いずれも人間の器が狭く、教養がないという点では同じタイプだったのに、そこが見抜けなかった台湾人はアホなんだろう。

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