その①の続き
また、NHKハイビジョンで放送したイランの元女性革命家とファラ妃とのインタビューもあった。両者とも現代は欧州に暮らしており、立場の違いはあれ亡命を余儀なくされたのは同じだ。女性革命家は元マルキスト、若い頃はシーア派社会主義の理念で活動していた。時代や若気の至りもあり2千5百年間続いた王政が打倒されれば、公平で搾取のない社会が実現できると思っていたようだ。実は世界初の共産主義運動が起きたのはイランである。
しかし、イスラム革命政権誕生後、社会主義者は凄まじい迫害を受け、その多くが国外に逃れた。王朝時代なら収監される程度で済んだが、革命政府なら命の保障はない。女性革命家の二十歳にもならぬ弟も処刑され、彼女自身は娘と共に湾岸諸国に密入国した後、欧州への亡命が認められたという。
革命で祖国を追われたため、当然元王妃の革命政権や活動家への見方は厳しい。産油国ゆえパフラヴィー朝は当時世界でもっとも裕福な王家と言われ、現代はパリに住むファラ妃も生活に不自由はしていないようだ。しかし、暗殺の可能性もあるので身辺警護はつけているらしい。現にフランスに亡命したイラン要人で暗殺された者もいるため、杞憂ばかりとはいえない。
例え生活や生命の安全が保障されていても、異国に暮らさざるを得ない亡命者の心境は複雑だろう。元女性革命家は王妃が母親のような年長者であるためか、あまり鋭い質問をしなかったのは少し残念だが、相手を己の望むペースに乗せるのに王族の威厳は実に効果的だ。結局革命家が元王妃のメッセンジャーとなったのは否めない。
最近はイランの核開発疑惑が喧しく、この問題で欧米諸国と鋭く対立している。自国の原子力開発の経緯を紹介したイラン国営の英語専門衛星TV局Press TVの番組もNHK BS1海外ドキュメンタリーで放送された。プロパガンダ目的もあるにせよ、イランや欧米の識者からの意見を取り上げ、後者は必ずしもイランに好意的な者ばかりではないところにバランスの取れた構成が感じられた。一本調子で陳腐な文言を繰り返す儒教圏のプロパガンダ報道より格段に洗練されている。番組進行役がまだ若いイギリス人ポール・イングラム、肩書きは“国際問題専門家”とあった。
当然ながらPress TVは核問題でインドやイスラエルの核保有を認める欧米の2重基準を非難する流れとなっている。だが、イランが原子力開発を始めたのは'70年代のオイルショック以後、まだパフラヴィー王の時代で、話を持ちかけていたのは欧米諸国だったという。当時盛んに石油はあと30年後に枯渇すると言われ、産油国イランも石油以外のエネルギーを真剣に考えていたらしい。また核拡散の危険性がその頃は問題視されず、フランスやドイツはじめ欧州企業が原子炉建設のためこぞってイランを訪問したという。
アメリカも乗り出したのは言うまでもなく、元イラン原子力庁長官の話でイランも原子炉を持つよう積極的に働きかけたアメリカ政府要人にチェイニー、ラムズフェルト、ウォルフォウイッツらの名を挙げていたが、所謂ネオコンぞろいなのは苦笑させられた。
イラン革命後、欧州企業はイランから撤退するが、Press TVはその理由をアメリカの圧力に求めていた。イラン以外にイギリスのエネルギー担当閣僚やロンドン大教授(※アッバスの名から明らかにムスリム)も登場、当時から現代の国際情勢を分析する。平和目的利用にせよ、原子力開発計画はビックプロジェクトであり、巨額の金が動く壮大なビジネスでもある。
元イラン原子力庁長官は契約を交わし、費用も払ったにも係らず原子炉着工もしなかった国としてドイツをを名指しで批判、これはイランに対する差別だと憤慨する。そのためイランは自国で開発せざるを得なかったと語り、以前欧米はイランに原子力開発を勧めたのに、何故今頃になって騒ぎ立てるのか、と反論する。
3月16日の河北新報に、「イスラエルに圧力をかけ、中東全体非核地帯に」と題するロナルド・ドーア氏によるコラムが載った。氏は「中東全体を非核地帯にするため、イスエラルに核兵器を放棄するよう圧力をかけること」を提案、「イランに核兵器を断念させる可能性はそこにしかない」と力説する。イスラエルという中東全体に禍をもたらす国を後押しした祖国の過去を黙殺、まるで他人事のように論評するのがイギリス知識人の特徴だが、相も変わらずドーア氏は不可能事を主張しているに過ぎない。日本の地方紙如きに投稿する欧米人政治学者に元から優秀な者は期待できないが、愚にも付かぬ不可能事を大上段に繰り返すのがドーア氏のコラムの特徴なのだ。決してありえないが、イスエラルが万一核兵器を放棄したとしても、イラン以外のイスラム諸国もそれに応じるとは限らない。
番組の冒頭、元イラン原子力庁長官が語った言葉は強く印象に残った。「イランが原子炉を持つか持たないかは、イラン国民が決めることであり、他国が口出しをするべきではない」。真っ当極まる正論で、これほど胸がすく意見が言えるイランを羨ましく思ったのは私だけではないだろう。
◆関連記事:「シーア派」「ペルセポリス」
「イランは人権が尊重される国」
「アメリカン・ダブルスタンダードの背景」
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また、NHKハイビジョンで放送したイランの元女性革命家とファラ妃とのインタビューもあった。両者とも現代は欧州に暮らしており、立場の違いはあれ亡命を余儀なくされたのは同じだ。女性革命家は元マルキスト、若い頃はシーア派社会主義の理念で活動していた。時代や若気の至りもあり2千5百年間続いた王政が打倒されれば、公平で搾取のない社会が実現できると思っていたようだ。実は世界初の共産主義運動が起きたのはイランである。
しかし、イスラム革命政権誕生後、社会主義者は凄まじい迫害を受け、その多くが国外に逃れた。王朝時代なら収監される程度で済んだが、革命政府なら命の保障はない。女性革命家の二十歳にもならぬ弟も処刑され、彼女自身は娘と共に湾岸諸国に密入国した後、欧州への亡命が認められたという。
革命で祖国を追われたため、当然元王妃の革命政権や活動家への見方は厳しい。産油国ゆえパフラヴィー朝は当時世界でもっとも裕福な王家と言われ、現代はパリに住むファラ妃も生活に不自由はしていないようだ。しかし、暗殺の可能性もあるので身辺警護はつけているらしい。現にフランスに亡命したイラン要人で暗殺された者もいるため、杞憂ばかりとはいえない。
例え生活や生命の安全が保障されていても、異国に暮らさざるを得ない亡命者の心境は複雑だろう。元女性革命家は王妃が母親のような年長者であるためか、あまり鋭い質問をしなかったのは少し残念だが、相手を己の望むペースに乗せるのに王族の威厳は実に効果的だ。結局革命家が元王妃のメッセンジャーとなったのは否めない。
最近はイランの核開発疑惑が喧しく、この問題で欧米諸国と鋭く対立している。自国の原子力開発の経緯を紹介したイラン国営の英語専門衛星TV局Press TVの番組もNHK BS1海外ドキュメンタリーで放送された。プロパガンダ目的もあるにせよ、イランや欧米の識者からの意見を取り上げ、後者は必ずしもイランに好意的な者ばかりではないところにバランスの取れた構成が感じられた。一本調子で陳腐な文言を繰り返す儒教圏のプロパガンダ報道より格段に洗練されている。番組進行役がまだ若いイギリス人ポール・イングラム、肩書きは“国際問題専門家”とあった。
当然ながらPress TVは核問題でインドやイスラエルの核保有を認める欧米の2重基準を非難する流れとなっている。だが、イランが原子力開発を始めたのは'70年代のオイルショック以後、まだパフラヴィー王の時代で、話を持ちかけていたのは欧米諸国だったという。当時盛んに石油はあと30年後に枯渇すると言われ、産油国イランも石油以外のエネルギーを真剣に考えていたらしい。また核拡散の危険性がその頃は問題視されず、フランスやドイツはじめ欧州企業が原子炉建設のためこぞってイランを訪問したという。
アメリカも乗り出したのは言うまでもなく、元イラン原子力庁長官の話でイランも原子炉を持つよう積極的に働きかけたアメリカ政府要人にチェイニー、ラムズフェルト、ウォルフォウイッツらの名を挙げていたが、所謂ネオコンぞろいなのは苦笑させられた。
イラン革命後、欧州企業はイランから撤退するが、Press TVはその理由をアメリカの圧力に求めていた。イラン以外にイギリスのエネルギー担当閣僚やロンドン大教授(※アッバスの名から明らかにムスリム)も登場、当時から現代の国際情勢を分析する。平和目的利用にせよ、原子力開発計画はビックプロジェクトであり、巨額の金が動く壮大なビジネスでもある。
元イラン原子力庁長官は契約を交わし、費用も払ったにも係らず原子炉着工もしなかった国としてドイツをを名指しで批判、これはイランに対する差別だと憤慨する。そのためイランは自国で開発せざるを得なかったと語り、以前欧米はイランに原子力開発を勧めたのに、何故今頃になって騒ぎ立てるのか、と反論する。
3月16日の河北新報に、「イスラエルに圧力をかけ、中東全体非核地帯に」と題するロナルド・ドーア氏によるコラムが載った。氏は「中東全体を非核地帯にするため、イスエラルに核兵器を放棄するよう圧力をかけること」を提案、「イランに核兵器を断念させる可能性はそこにしかない」と力説する。イスラエルという中東全体に禍をもたらす国を後押しした祖国の過去を黙殺、まるで他人事のように論評するのがイギリス知識人の特徴だが、相も変わらずドーア氏は不可能事を主張しているに過ぎない。日本の地方紙如きに投稿する欧米人政治学者に元から優秀な者は期待できないが、愚にも付かぬ不可能事を大上段に繰り返すのがドーア氏のコラムの特徴なのだ。決してありえないが、イスエラルが万一核兵器を放棄したとしても、イラン以外のイスラム諸国もそれに応じるとは限らない。
番組の冒頭、元イラン原子力庁長官が語った言葉は強く印象に残った。「イランが原子炉を持つか持たないかは、イラン国民が決めることであり、他国が口出しをするべきではない」。真っ当極まる正論で、これほど胸がすく意見が言えるイランを羨ましく思ったのは私だけではないだろう。
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