トーキング・マイノリティ

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イルマ・グレーゼ―ベルゼンの雌獣と呼ばれた女看守長

2006-03-01 21:21:47 | 読書/ノンフィクション
 一昨日“白バラの祈り”ゾフィー・ショルについて書いたが、同時代で同年代のナチスの女看守長イルマ・グレーゼのことも取り上げてみたい。イルマの名を知ったのも『アウシュヴィッツの五本の煙突』(オルガ・レンゲル著)というノンフィクションを読んだからで、『白バラは散らず』と同じ本に収録されていた作品だった。おそらくゾフィーより悪女と断じられたイルマの方が有名だろう。

 『アウシュヴィッツの五本の煙突』の著者はユダヤ人でなくチェコ人だったと思うが、ナチス風に呼べばアーリア人の女医だった。彼女の家は医師一家で父親や夫も医師だった。オルガは自分の両親、夫、子供と暮らしていたが、ナチスにより家族を全て失う。
  レンゲル一家はアウシュヴィッツに送られ、他の囚人同様家族とは別々となるが、芸は身を助けるのは収容所も同じだ。女医だったレンゲルは他の囚人より恵ま れた待遇で収容所生活を送る。彼女はここで20歳そこそこで看守長に就いたナチス親衛隊員のイルマ・グレーゼと出会うことになる。若い上に彼女は美人だっ た。レンゲルは彼女をこう表現していた。
「通りかかったイルマを見た女囚たちが「あの女は何と美しいのでしょう!」と言ったら、下手な小説のような話だが、現実に起こったことなのだ」
  私も本に載っていたイルマ・グレーゼの写真を見たが、キツい表情ながら華やかな美女だと思った。ナチスの制服を着て長い金髪を垂らした姿はブロマイドにも なるだろう。他の女囚の手記にも、彼女が“エンゲル(天使)”と収容所仲間から呼ばれていたとあった。天使のように可愛い顔だからだ。

 同僚からは天使と呼ばれても、囚人には冷酷な看守だった。「運動」と称し様々な肉体的訓練を科したが、事実上の拷問だった。女囚を殴り打ち据えるのは日常茶飯事だったとレンゲルは記している。
  ある時、イルマはレンゲルに「秘密の手術」を頼み込む。美しいイルマは当然同僚の男たちにモテたが、その火遊びの不始末の手術だったのだ。まずレンゲルに チョコレートを与え機嫌を取ろうとするが、ためらう女医にピストルを突きつけ決意させる。結局レンゲルは「秘密の手術」を執刀するが、囚人に散々苦痛を加 えていたイルマは手術の痛さに泣き叫んでいたという。レンゲルは術後に何故彼女が自分を殺さなかったのか不思議がっていたが、また「秘密の手術」を受ける つもりもあったのか。

 イルマは女医に戦後の計画を話した。自分は戦争が終わった後女優になるつもりだ、自分の美貌なら映画界で成功する だろう、と。戦後、確かに彼女は映画出演を果たした。だが、それは彼女が望んでいた大作のヒロインではなく、ニュース映画での端役だった。ニュルンベルク 裁判での映像だったが、死刑判決を受け泣き叫ぶ無様な姿で。
 ソ連軍の東進を受けアウシュヴィッツの看守たちはベルゲン・ベルゼン強制収容所に移 動する。イルマはここでも看守長に納まるが、ナチス親衛隊員の天下はまもなく終わる。逮捕された彼女はニュルンベルク裁判で死刑判決を受け処刑された。若 干22歳だった。収容所での残虐行為から彼女は死後も“ベルゼンの雌獣”と呼ばれるようになる。

 だが、この裁判を「歴史修正主義者」 は別の解釈をしている。イルマはその美貌ゆえに、法廷で嫉妬と憎悪に燃える女性捕虜からの証拠もない誇大な証言だけで死刑執行されたという。さらに美貌と 冷酷さに戦勝国側のマスメディアが興味本位で飛びつき、冷酷さを感情的に報道したとの見方もあり、彼女を悲劇のヒロインとして捉える者もいるそうだ。

 確かに「歴史修正主義者」の言うことにも一理ある。鞭を持った金髪美人看守など、マスコミにとってこれほど格好のネタもない。男優位のマスコミは女の犯罪者を美女に仕立てるものだが、ゾフィー・ショルのような“聖女”よりも悪女の話を好むのは大衆も変わりない。
 イルマに関しては到底事実と思えない噂話もある。囚人たちの皮で作ったトランプでよく遊んだ、などが典型だ。人間の皮膚でトランプを作るのは可能だが、その加工がまた大変なのは科学に疎い私でも分かる。そんな手間ひまが掛かる代物なら、簡単に量産も出来ない。それよりもナチスが作ったという人間の皮膚のトランプの実物が出てこないのがおかしい。

 ナチスハンターで有名なサイモン・ウィーゼンタール氏にインタビューした日本人ジャーナリストの記事を思い出す。ナチスはユダヤ人の皮膚でランプを作ったしかも、血管が浮き上がり表面に映えるためにまだ生きている囚人から皮を剥いだ、という話にはインチキだと思った。何故ならそのランプが提示できないからだ。そんなランプがあれば、ナチスの残虐性この上ない標本となるはずだが、証拠がないことには嘘と見なされるのが当然だ。物的証拠が提示できなくとも、ナチスが破棄した、で説明するだろう。ホロコースト産業という唾棄すべきビジネスに長けた連中なのだから。

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8 コメント

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Unknown (Unknown)
2012-07-15 23:28:22
結局「お前」は何が言いたいわけ?
名無しのカスへ (mugi)
2012-07-16 21:06:10
 お前こそいったい何を言いたいわけ?感想や反論にもなってねーよ。

 6年も前の記事にコメントするのは構わんが、名無しで一行コメとは超ショボイ。ま、こんな書込みからお前が「黄色いゴイム」なのは想像が付くが…

 児童への人体実験ならイスラエルもやっていたぞ。いくらユダヤ様に忠誠を尽くしても奴らなどこの程度なんだよ。ゴイム君。
http://ameblo.jp/onigasima-kaminarisinno/entry-10360438431.html
初めまして (ユノ)
2015-10-26 17:02:29
アウシュヴィッツの五本の煙突を読まれた方にお会い出来るとは…!私はそれで強制収容所を知り、何度も何度も繰り返し読みました。
古い本だった為痛みが酷く(亡き父の物でした)
処分してしまいましたが。

当時受けた衝撃が甦りました。
Re:初めまして (mugi)
2015-10-26 21:22:45
>ユノさん、初めまして。

 あなたも『アウシュヴィッツの五本の煙突』を読まれたのですか?私がこの本を見たのは高校時代だったし、教室の後ろにあった本棚にたまたま『アウシュヴィッツの五本の煙突』が収録されていた本が置かれていたためです。ちょうどТVドラマ「ホロコースト」が放送された後だったので、興味深く読みました。

 マイナーなネタばかりで開設以来の弱小ブログなのに、何故かこれは人気記事となっています。一体どんな人が見ている?先の名無しのように、ユダヤ様を批判するのは許せない、といったユダヤシンパだろうと思っています。
まったくその通り (元アリスリデル)
2015-12-08 19:55:32
公平な視点に立たれており、大変良い記事だと思う。イルマの逸話は私も以前から思っていたが、お伽話の世界だ。これにはウィーゼンタールのような偽善者や話題性を欲した者達の捏造も多々あったのだろうが、ベルゼン裁判ではイギリス当局の一方的な軍事裁判が行われた事にも起因していると思われる。
イルマの他にもアンスカー・ピヒンのような、恐らく囚人虐待に何の関わりもないような人物でさえ死刑判決を受けている他、ニュルンベルク裁判と比較して量刑の重すぎる事例が多い。
こういった点は歴史修正主義において追求すべきだと思われるが、それを認めないユダヤ人共、またポグロムという言葉も知らずホロコーストだけを取り上げようとする大多数の無知な日本人には腹立たしい限りだ。
Re:まったくその通り (mugi)
2015-12-09 21:53:20
>元アリスリデル氏、

 私如きが公平な視点に立っているというのは買い被り過ぎだし、レベル以上のお褒めの言葉を頂いて恐縮です。イルマに比べ、一般にアンスカー・ピヒンの名は知られておらず、私も貴方のコメントで初めて知りました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%94%E3%83%92%E3%83%B3

 日本と同じくドイツへの一方的な軍事裁判は、「勝てば官軍」の見本だし、公平さは望むべくもないのです。今でも世界のメディアを牛耳っているのはユダヤ系組織だし、ホロコースト神話は21世紀でも量産され続けている。洪水のようにユダヤ被害者論を垂れ流すことで、日本人を洗脳する戦略でしょう。
初めまして (希)
2016-11-17 16:33:36
初めまして。希(まれに)と申します。
古い記事で恐縮ですが、コメントさせていただきます。

ナチス&ホロコースト関連本を読むのが好きな、読書好き主婦です。
記事の『アウシュヴィッツの五本の煙突』は、未読でした。
探してみます。
未読の本に出合えるのは、大きな喜びです。
記事を見つけて、嬉しい&有り難い、と思っています。

また、人間の皮膚での加工品、ウィーゼンタール氏への思い等、
私と全く同じで、これまた嬉しい発見です。
ホロコーストに関しては、聖域化状態で、正直辟易していました。

また、神聖化する方々とのトークも虚しく、でして。
ホロコーストをユダヤ人限定に、という考えにも馴染めません。

と、初めてお邪魔して、書いてしまいました。
失礼しました。


Re:初めまして (mugi)
2016-11-18 21:33:47
>希さん、

初めまして。コメントを有難うございました。

 私も一時期、ナチス&ホロコースト関連本を読んだことがあります。しかし、今はすっかり興味を失いました。先日もアイドルグループがナチス風の衣装をしたということで、早速 サイモン・ヴィーゼンタール・センター(SWC)や、イスラエル大使館が抗議してきましたね。サイモン・ヴィーゼンタール・センター(SWC)の実態を書いたサイトもあります。
http://inri.client.jp/hexagon/floorA4F_ha/a4fhc600.html

 確かにホロコーストは悲劇ですが、聖域化状態やユダヤ人限定というのは選民思想があからさまです。このような姿勢は返って反ユダヤ主義を煽ることになるのに。「ユダヤ人のあいつら、今度は死んだ仲間で商売はじめてる」という欧州人も出ているようです。
 アンネの日記もビジネス化していますね。前に「アンネの日記と日本人」という記事も書きました。気が向いたらご覧下さい。
http://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/416bbe9380c5f41d5f546aa42d406385