トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

世界初の共産主義運動

2007-04-04 21:32:51 | 読書/中東史
 共産主義といえば近代思想であり、共産主義原理が取り入れられた初の国家はソ連と答えるのが、世界史試験の基本回答。しかし、5世紀末から6世紀前半既 に共産主義運動が起きており、これを原始共産主義と呼ぶ学者もいる。この運動が発祥したのはローマでも中国でもなく、ペルシア(イラン)だった。

 5世紀末頃、サーサーン朝ペルシアマズダクという人物が現れ、新たな教えを説く。彼はゾロアスター教の僧侶だったが、マニ教の 影響も受けたとされ、宗教というより共産主義にちかい思想だった。彼は飲酒、貪欲、闘争を社会悪の根源として禁じ、平等の社会理論実現のため、富者の所有 物は財産、女性に至るまで貧者に平等に分配すべきであると主張した。ただ、マズダク自身は5世紀の人間らしく、これらの教えは全て神の啓示であると語って いたが。
 ペルシア皇帝カワード1世(在位488-531年)はこの思想に共鳴し、積極的にマズダクの運動を援助、新しい法律まで公布する。帝国 最大の物持ちで不平等社会の頂点に立つカワード1世が共産主義もどきの社会運動を支援したのは、貴族勢力をそぐのが目的だった。皇帝のお墨付きとなったマ ズダク教には多くの貧民階級が参加し、貴族の財産掠奪、土地没収、婦女誘拐を行い、国中に無秩序と大混乱が生じる。

 5世紀のペルシアは内憂外患状態にあった。特に前半に東部辺境から遊牧民エフタル族が 侵入し、重大な脅威を与えるようになる。歴代の皇帝は討伐軍を派遣するも、その勢力を駆逐できなかった。カワード1世の父ペーローズ1世(在位459- 484年)に至っては2度に渡りエフタルと戦うも戦死。その息子の治世には相次ぐ外敵の侵入で国土は荒廃し、エフタル王に朝貢するほど権威は失墜、事実上 実権を握られ、ペルシアは各分野に亘り大混乱に陥る。

 マズダク教徒による共産主義運動により重大な危機に曝された貴族や司祭たちは団結 する。497年にカワードを投獄、その弟を皇位に即けるが、カワードは妻の助けにより逃亡、その2年後エフタルの軍に守られ祖国に帰還し、再び玉座に登 る。マズダクの運動はその後も続けられたが、再即位後のカワードは必ずしもマズダク教徒指導者たちを支援せず、彼らの反対を無視してエフタルの元に逃亡の 途中、土民の女に生ませた子ホスローを後継者に指名する。

 ホスロー1世(在 位531-579年)はサーサーン朝歴代君主の中でも名君の鑑、中興の祖として名高い。イランでイスラム以前の理想的君主といえば、ホスロー1世が有名で あり、中世以来「アノーシールワーン(不滅の魂)」の異名で呼ばれてきた。ホスローは皇太子時代の528年頃、社会不安と混乱の因になった教祖マズダクと 多数の信者たちを偽って一堂に集め一挙に粛清し、権威回復に努める。
 即位後のホスローは不法に没収された財産をその所有者に返還し、連れ去られていた貴族階級の婦女子を保護、婦女共有で生まれた多くの婚外児の教育には国家が責任をもって当たり、社会秩序を回復させた。

  共産主義に女も加えたことで、マズダクの運動は近代の共産主義者からの評判はかなり悪い。婦女共有とはつまるところ、貴族の女たちを拉致した果ての淫行に 過ぎず、その結果親も引き取らぬ婚外児を量産しただけだった。こうして原始共産主義運動は終わったが、その後も中東では改革運動の旗手としてマズダクの名 は残った。
 20世紀の共産主義は全世界で凄まじい大混乱と犠牲者を出すに至ったので、元から含まれる暴力的因子が近代文明の利器により拡大した といえる。近代共産主義は表向きは男女平等を謳っていたが、反革命分子とされた旧社会階級の女たちは収容所で共産党員により、“婦女共有”の対象となっ た。

■参考:「滔々たる文化の流れ」-黒柳恒男教授のイラン史より

よろしかったら、クリックお願いします
『中東』 ジャンルのランキング
コメント (2)   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« ペルシア帝国-専制君主国家... | トップ | 英国のトルコバッシング »
最近の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
無品格、無人格者による暴論 (Mars)
2007-04-05 20:30:31
こんばんは、mugiさん。

「大賢は大愚に似たり」という言葉もありますが、革命家とテロリスト・社会秩序破壊者との線引きは、どうなのでしょうね(その評価は、後世の歴史家に委ねるものなのでしょうか?)。ただ、革命の名の美酒に酔い、実社会を軽視する者は、過激な行動に走りやすく、その末路も。過去も、現在も、そして未来も、そんな革命家は誕生するのでしょうね。

原始共産主義と呼ばれるものが、5世紀末にペルシアに誕生したのは、興味深いですね。また、中国、ロシア、日本、北朝鮮等の共産主義者は、この事をどれだけ存じているのでしょうか。洋の東西を問わず、共産主義が生むのはものは、格差社会という言葉以上の格差と、社会の混乱と、大量虐殺以外、何を生んだというのでしょうか。そんな、共産主義国家でも、極めて優秀な国家代表(古より、他民族侵略は百におよばず、他民族虐殺は千にもおよばず、自国民虐殺は万にもおよばない)が倭国に来るそうですが。

ただ、文明国を自称する国家郡も、その品格において、五十歩百歩だと思いますが。某ベストセラーのように、国家の品格云々という事自体、作者の世界オンチを示しているようにも思えるのですが、、、。
歴史オタによる極論 (mugi)
2007-04-05 21:39:39
こんばんは、Marsさん。

理想主義を掲げるのが宗教ですが、宗教人はパトロンにはその戒律をいとも簡単に曲げるのが面白いです。
飲酒、貪欲、闘争を社会悪の根源として禁じた宗教が、平等社会の実現のため貪欲と闘争を行っているのだから、皮肉ですね。

マルクスがマズダクを知っていたかは不明ですが、セム族一神教に多大の影響を及ぼしたのがゾロアスター教だから、原始共産主義もこの宗教起源だったというのは面白い。サーサーン朝時代はペルシア一カ国に留まっていたからよかったですが、近代は世界規模での影響だった。この先も似たような運動が起きると思います。

国家の品格を言ってられるのも大国だけですね。そうでない国は国の維持の為に品格などかまってられなくなる。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

関連するみんなの記事

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。
  • 送信元の記事内容が半角英数のみのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • このブログへのリンクがない記事からのトラックバックは受け取らないよう設定されております。
  • ※ブログ管理者のみ、編集画面で設定の変更が可能です。