1月23日のNHK BS1「世界のドキュメンタリー」で、珍しいイランのドキュメンタリー「大統領になりたかった男」を放送していた。題名どおり、イラン大統領選挙に3度立候補したミール・ガンバール老人を取材している。彼はとうに70を越えているが、「庶民のための政治」のスローガンを掲げ、選挙活動に頑張る(名前からしてガンバール!)人物である。
ミールさんはイラン北西部アゼルバイジャン州に住んでおり、話からどうもトルコ系らしい。イランは「アーリア人の国」を意味する国名と裏腹に、アーリア系 イラン人はやっと過半数を超えるだけの多民族国家である。もし大統領になったら、閣僚にどのような者を採用するか、との問にミールさんは半分は地元アゼル バイジャン州の公務員、残り半分はテヘラン(首都)に住む友人たちと率直に答えている。縁故主義そのものであり、これは何もイランに限らず中東では当り前 だが、地元のコネがなければ権力基盤すら危うくなるのだ。そして彼は死ぬまで大統領を辞めない、大統領を辞めさせる権限など誰にもないとも言う。これでは シャー(王)と変わりないではないか。民主主義がまるで分かってないのだ。
ミールさんは人が集まる場所に出かけては(ただし、人が集ま る店といえども女の姿は見かけない)、自分への支持を訴えていた。彼の話に聞き入る男たちは口々に政治家は私腹を肥やすばかり、農民のために何かした議員 などいない、と支配層への不平を愚痴るところを見れば、何処でも政治家という人種の最優先事項は己の懐なのだ。もっともどの政治家も「庶民のための政治」 をスローガンとするのは同じであり、当選すれば自分の取り巻きのための政治をするようになるのだ。
ドキュメンタリーの最後の方で、インタビュアーがミールさんにした質問項目が6つある。それらの質問へのミールさんの回答はいかにも典型的ムスリムらしいので是非紹介したい。
①民主主義→聖なるイスラム社会では社会の正義がしっかりと守られており、民主主義の手本と言えます。
②言論の自由→言論の自由は保障されるべきです。ただし、シャリーア(イスラム聖法)の枠組みを超えることがあってはなりません。
③テロリズム→イスラムの教えではテロは非人道的とされてます。私はテロと断固として戦います。
④人権→イランでは人権が保障されております。外国とひけを取らないか、それ以上かもしれません。イラスムでは人権を国境を越えた普遍的なものとしてます。シャリーアの定める範囲内であれば、人権尊重がさらに進むよう努力したい。
⑤女性の権利→イスラムでは経済面で女性の権利に配慮しております。相続の分け方を見れば分かるでしょう。ただ、ムスリムである以上、シャリーアに従わなくてはなりません。
⑥アメリカとイランの関係→どちらも政治家の問題です。イランとアメリカ一般国民との間に敵意は存在しないのですから。ただ、狼と羊は所詮仲良くなれません。狼は隙あらば羊を襲おうとしますし。
このドキュメンタリーは2006年の上海テレビ祭で、ドキュメンタリー部門最優秀社会番組賞を受賞している。どのような基準で最優秀社会番組賞に輝いたの かは不明だが、宗教否定の共産主義国家が敬虔なムスリムを取材した番組に賞を与えるというのは皮肉そのものだ。しかも中国くらいムスリムを弾圧した国もな いという歴史を知れば尚のこと。このイランのドキュメンタリーを見た中国人は内心冷笑していたかもしれないが、テレビ祭は中国はイスラムの価値観も認める 国と喧伝する絶好の場でもある。
「大統領になりたかった男」では触れられなかったが、イランでは国籍を持つ者誰もが大統領に立候補出来 る訳ではない。非ムスリムなど対象外よりも論外(国籍があっても非ムスリムは公務員になれず)、イランでは少数派のスンナ派も極めて分が悪い。神学者が支 持しない者はシーア派ムスリムといえど、候補になれないという制限がある。それでも国民の投票により大統領が選ばれるなら、選挙の未だない中国より遥かに この面では近代化していると呼べるだろう。
その②に続く
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ミールさんはイラン北西部アゼルバイジャン州に住んでおり、話からどうもトルコ系らしい。イランは「アーリア人の国」を意味する国名と裏腹に、アーリア系 イラン人はやっと過半数を超えるだけの多民族国家である。もし大統領になったら、閣僚にどのような者を採用するか、との問にミールさんは半分は地元アゼル バイジャン州の公務員、残り半分はテヘラン(首都)に住む友人たちと率直に答えている。縁故主義そのものであり、これは何もイランに限らず中東では当り前 だが、地元のコネがなければ権力基盤すら危うくなるのだ。そして彼は死ぬまで大統領を辞めない、大統領を辞めさせる権限など誰にもないとも言う。これでは シャー(王)と変わりないではないか。民主主義がまるで分かってないのだ。
ミールさんは人が集まる場所に出かけては(ただし、人が集ま る店といえども女の姿は見かけない)、自分への支持を訴えていた。彼の話に聞き入る男たちは口々に政治家は私腹を肥やすばかり、農民のために何かした議員 などいない、と支配層への不平を愚痴るところを見れば、何処でも政治家という人種の最優先事項は己の懐なのだ。もっともどの政治家も「庶民のための政治」 をスローガンとするのは同じであり、当選すれば自分の取り巻きのための政治をするようになるのだ。
ドキュメンタリーの最後の方で、インタビュアーがミールさんにした質問項目が6つある。それらの質問へのミールさんの回答はいかにも典型的ムスリムらしいので是非紹介したい。
①民主主義→聖なるイスラム社会では社会の正義がしっかりと守られており、民主主義の手本と言えます。
②言論の自由→言論の自由は保障されるべきです。ただし、シャリーア(イスラム聖法)の枠組みを超えることがあってはなりません。
③テロリズム→イスラムの教えではテロは非人道的とされてます。私はテロと断固として戦います。
④人権→イランでは人権が保障されております。外国とひけを取らないか、それ以上かもしれません。イラスムでは人権を国境を越えた普遍的なものとしてます。シャリーアの定める範囲内であれば、人権尊重がさらに進むよう努力したい。
⑤女性の権利→イスラムでは経済面で女性の権利に配慮しております。相続の分け方を見れば分かるでしょう。ただ、ムスリムである以上、シャリーアに従わなくてはなりません。
⑥アメリカとイランの関係→どちらも政治家の問題です。イランとアメリカ一般国民との間に敵意は存在しないのですから。ただ、狼と羊は所詮仲良くなれません。狼は隙あらば羊を襲おうとしますし。
このドキュメンタリーは2006年の上海テレビ祭で、ドキュメンタリー部門最優秀社会番組賞を受賞している。どのような基準で最優秀社会番組賞に輝いたの かは不明だが、宗教否定の共産主義国家が敬虔なムスリムを取材した番組に賞を与えるというのは皮肉そのものだ。しかも中国くらいムスリムを弾圧した国もな いという歴史を知れば尚のこと。このイランのドキュメンタリーを見た中国人は内心冷笑していたかもしれないが、テレビ祭は中国はイスラムの価値観も認める 国と喧伝する絶好の場でもある。
「大統領になりたかった男」では触れられなかったが、イランでは国籍を持つ者誰もが大統領に立候補出来 る訳ではない。非ムスリムなど対象外よりも論外(国籍があっても非ムスリムは公務員になれず)、イランでは少数派のスンナ派も極めて分が悪い。神学者が支 持しない者はシーア派ムスリムといえど、候補になれないという制限がある。それでも国民の投票により大統領が選ばれるなら、選挙の未だない中国より遥かに この面では近代化していると呼べるだろう。
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非民主主義国家が、民主主義の基本をあまり理解していない国家を賞賛するとは、何かのギャグでしょうか??
イランの頑張るおじさん(?)は、まさしくピエロでしかないように思えますが。
民主主義が進んでいるといわれている、欧米でさえも政教分離と程遠いものが少なくありませんが。
イランとは、イスラムに毛が生えたような民主主義でしょうが、非民主主義国家より、まだマシと思えてくるから、、、。
しかし、日本もイランのことを笑ってばかりはいられませんよね。
何せ、イラクとは違い、イランから輸入している石油は少なくありませんから。
イスラエルとの問題も含めて、対岸の火事だと決め込む事は危険でしょうね。
(実際、ペルシャ湾に多くの空母が集結しており、合衆国によるイラン攻撃は、北朝鮮よりも早いと見る専門家もいるようです。)
言論の自由もない、統制された中国ですから、最後の羊と狼の話も興味深いです。
国連の常任理事国でありながら、決議に反する対イラン武器輸出を行う、ロシアのような国もありますが。
(深読みかもしれませんが、)中国も、合衆国の先制攻撃には、何らかの反対行動を取るともれるので、何だか不気味ですね。
(近年、中国は海軍を初め、軍事増強に励み、ロから、空母や潜水艦、洋上艦艇など、多くの武器を購入しています。)
独善的な意見で、主題とはかけ離れてしまいました。
申し訳ないです。
エントリー題も皮肉を込めて付けました。あのドキュメンタリーなら日欧はもちろん、インドでも受賞できないでしょう。
何かとイスラムの教えを強調するミールさんを中国人は冷笑する一方、一介の庶民が大統領に立候補できるのを羨んでいたかもしれませんね。一応神の前の平等のイスラムだからこそやれますが、マルクスの衣を被った階級儒教体制では、到底無理。
「イスラムの教えではテロは非人道的とされてます」は噴飯モノです。「悪魔の詩」事件がいい例ですが、教祖を侮辱したと見なせば地球の果てまでも刺客を送るのがイスラム。テロ以外の何者でもありませんが、ムスリムはこれはテロとは見なさない。
>独善的な意見で、主題とはかけ離れてしまいました。申し訳ないです。
とんでもない。「合衆国によるイラン攻撃は、北朝鮮よりも早い~」とは興味深い中東情報です。
ただ、アフガンやイラクで手一杯の合衆国が攻撃をやれる余裕があるのでしょうか?イランは中露印と接近して、巧妙な外交を展開していますね。