この懐かしき本たちよ!

まだ私の手元に残っている懐かしい本とそれにまつわるいろいろな思い出、その他、とりとめのない思いを書き綴りたい。

#71 D.H.ローレンス著「息子と恋人」Ⅱ(母親と息子)

2005年04月27日 | 英米文学

 D.H. ローレンスのこの作品はよく読まれているようである。私があらすじを書く必要もないかもしれない。この作品の主人公はポール。重要な登場人物としてはその母親とポールの二人の恋人。一人は読書好きで霊的なことに夢見る志向のある幼馴染のミリアム。彼女は宗教心も深く、性についてはネガティヴである。もう一人の恋人は肉体的に美しい婦人権運動家でもある年上の人妻クララ。

その他の登場人物としては若くして死ぬ長兄ウイリアムとウィリアムにあまり愛情のないようなウィリアムの女友達。そして鉱夫の父親ウオルター。ポールの次兄アーサーと姉アニー。

若い時に、肉体的な魅力を感じて夫ウオルターと結婚した教養のあるポールの母ゲルトルートは結婚して無教養の夫へ絶望して、望みを長兄ウイリアムに託するが長兄は若くして病死する。そしてすべての愛情と期待がポールに向けられる。

ポールの次兄のアーサーは父に似て男前の遊び好きの男そしてときどき激昂する平凡な男。母親はアーサーもアニーも愛しているが、ウイリアムやポールに対するような強い愛情ではない。

ポールは作者自身なのであろう。炭鉱夫の家庭に生まれながら母親の才能を受け継ぎ文学的、美的感覚を持ち、会社づとめをしながら絵を描いて金も稼げる。

ポールにとって母親は絶対である。そして母親はポールは自分自身の人生そのもののように彼を拘束する。

母親はむしろ自分に似た性向のある教養もある優しい少女ミリアムに対しては強い敵意を持っている。ポールの自分への愛情をポールの恋人のの若い娘が横取りするのではないかと恐れているようである。ポールもそれを気づいている。そしてミリアムにつらくあたる。

母親は、ミリアムに対する敵意から、ポールの二人目の恋人、ポールよりもずっと年上の人妻であり、肉体的に美しいクララにはむしろ寛容な態度をとる。やがてポールはクララには飽きて自分の所に戻ってくるだろうという、無意識の打算が働いているようだ。

愛する息子の愛情を自分が独り占めにしようとする母親とそれを強く感じ、そうさせまいとする息子ポールの葛藤。しかし母親を強く愛しているポールは母親の望むように振舞ってしまう。

母親はやがて病気で死に。ポールはすべてを失った感じを持つ。

クララはポールといさかいの後、別居していた夫のもとに戻る。
ポールはミリアムと再び会い始める。ミリアムはポールが自分と結婚するのがポールのためにも一番良いと話すが、が、彼はそれに応えない。

「もし心の中にひそんでいる絶望した自分を押し殺して彼女のそばにとどまるならば、彼自身が自分の人生を拒否してしまうのがわかっていた。そして自分の人生を無にすることによって彼女に人生を与えたいとは思わなかった。」と書いてある。

最後の文章はこうおわっている。

“Mother!” he whimpered,” mother!”
She was the only thing that held him up,himself , amid all this.
And she was gone, intermingled herself! He wanted her to touch him,
Have him alongside with her.
But no, he would not give in. Turning sharply, he walked towards the city’s
Gold phosphorescence. His fists were shut ,his mouth set fast.He would not take that direction,to the darkness, to follow her.
He walked towards the faintly humming, glowing town, quickly.

母親の呪縛からのがれて一人で生きて行こうと決心するのだ。

母親と息子の関係は、今日的な問題でもあろう。また、母親が息子の恋人に対する感情は特別のものがあるのかも知れない。

殆ど100年前に書かれたこの作品は、母親と息子の会話、息子と恋人達との会話、心の動き等、全く今の私達にも通ずるものがある。人の思いには時代も国の違いもないようだ。

                             (つづく)

*画像は若き日のD.H.ローレンス 英国ノッティンガム大学のホームページより


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